第2話 確認

さて……どうしようかな?


ステラが部屋から出て行ったあと、とりあえず鏡を見て……自分の容姿を確認する。


そこには可愛い系の容姿をした、十代後半の青髪の男子がいた。


「うん、青髪青目だね……それにしても、髪が長かったら女の子に間違えられそう。確か、亡くなった母上が美女だったって話だったね。俺の容姿は母上に似てるってことだ」


俺の母上は第二王妃で、ロイド兄さんやヒルダ姉さんとは母親が違う。

ちなみに第一王妃様も数年前に、俺の母上も俺を生んですぐに亡くなったとか。

なので顔もよく覚えていない……そういや前世の頃も孤児だったっけ。


「なんか色々と思い出したくないことを思い出してきたぞ?」


両親が幼い頃に亡くなって、孤児院に入って……親類縁者もいなかったから、それから一人で生きていた。

中卒で就職をして……それから働き詰めの日々を過ごしていたはず。

理不尽な扱いを受けたり、親がいないことで馬鹿にされたり。


「んで、多分だけど過労死……そういうことなのかな? やめやめ、これ以上はやめよう。それよりも、これからのことを考えないと」


えっと、俺がいく辺境オルフェンは……通称見捨てられた土地と呼ばれ、中央を追われた者や、行き場のない者達が住んでいるとか。

中には元奴隷や、逃げ出した者達もいるとか。


「奴隷か……社畜の記憶が蘇った今、他人事とは思えないね」


「何やらブツブツ言って……どうしたのですか?」


振り返ると、そこには黒い騎士服を着たクールな雰囲気の銀髪ロングの美女がいた。

身長は俺より少し高く百七十センチ過ぎくらいで、すらっとして手足も長くモデルさんみたいだ。

何より特徴的なのは、頭についてるケモ耳と、後ろに見える尻尾である。

そう……彼女は銀狼族という種族の獣人だ。

ちなみに、俺の護衛兼お世話係でもある。


「やあ、クレハ……いつから聞いてた? いるならノックくらいしてよ」


「いや、しましたから。反応がないのに、何やら独り言はするので心配しましたよ」


「そ、そっか、それはごめんね」


俺がそう言うと、クレハの表情が固まる。

まるで、信じられないものを見たかのように。


「私としたことが幻覚を……?いつも言い訳ばかりのエルク様が謝るわけがないですね」


「酷くない? 俺だって……あれー?」


そういや、ステラも言ってたけど、俺ってばわがまま自堕落王子だったね。

流石に誰かを虐めたり酷いことはしてないけど、あまり褒められた性格はしてなかった。

説教されたり何か言われても、いつも適当に流していた気がする。


「ふふ……まあ、いいでしょう。それに、謝るべきは私です。護衛にも関わらず、お側を離れて申し訳ありませんでした」


「いやいや、気にしないで。うたた寝して、俺が勝手に木から落ちただけだから。クレハもステラも悪くないよ」


「……相変わらずお優しい方です、やっぱりエルク様はエルク様ですね」


「そりゃ、そうでしょ。偽物にでも見える?」


俺は大袈裟に両手を広げアピールする。

前世の話とか信じてもらえるわけないし、ここは誤魔化していかないと。

そもそも、俺自身も前世の記憶が確かなのかわからない。


「いえ、そうは見えませんが……何やら雰囲気が違う気がしたので」


「まあ、それは……ほら、流石に少しは変わらないといけないかなって」


「なるほど……どうやら追放されましたようですね?」


「そうだね、まあ妥当でしょ」


「私も、そう思います」


クレハは少し微笑みながら言った。

クレハは元奴隷で俺が十歳の時に引き取った獣人だ。

本来なら俺にこんな口をきいてはいけないが、俺自身が堅苦しいのが嫌で好きにさせている。


「相変わらずはっきりいうなぁ……あのさ、クレハは」


「私は付いていきますよ、貴方に拾われた命ですから」


俺が何か言う前に、クレハがそう言って遮る。

その目の力は強く、意思は変えられそうにない。


「そう……わかった。なら、出て行くとしようか。二日以内って言われたけど、ヒルダ姉さんに会うと大変だ。国境にある砦から、こっちに来ちゃうかもしれない」


「確かに、ヒルダ様はエルク様のことが大好きですからね。ですが、荷物は良いのですか?」


「まあ、いらないかな。最低限の荷物とお金を持って、これからは自分で稼ぐことにするよ」


「おや、頭でも打ちましたか?」


「だから、頭を打ったんだって」


「ふふ、そうでしたね」


そして用意を済ませた俺は、ひっそりと城から出ていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る