追放された自堕落王子はダラダラしたい~俺がだけが使える氷魔法で辺境開拓~

おとら@五シリーズ商業化

一章

第1話 自堕落王子、追放される

「エルク! お前を辺境都市オルフェンに追放する!」


「父上……いえ、国王陛下、一体なぜですか?」


 部屋でダラダラと寝ていたところ、俺は国王である父上に呼び出しをくらった。

 まだ寝ぼけた頭を使い、ひとまず疑問を投げかけることにしたわけだけど。

 すると、王座に座る父上が俺を睨みつける。


「なぜ? ……お前が自堕落王子と呼ばれるような者だからだ。ただでさえ、我が国は苦境に立たされているというのに。このままでは、王族の威信が下がる一方だ。辺境の地に行き、性根を入れ換えてこい」


「えぇ……めんどくさいです」


「ええい! いいからいけぇ! 何かを成し遂げるまで帰ってくることは許さん!」


 ……これはどうやら、本気みたいだ。

 はぁ、仕方ない。

 まあ、辺境に行ってダラダラすれば良いでしょ。


「わかりました。それでは、準備が出来たら向かうとしますね」


「うむ、ちなみに準備期限は二日以内だ」


「うげぇ……できれば、期限を五十年くらいに」


「ばかもん! その間に寿命がきて死んでしまうわ!」


「ダメかぁ……」


「全く、ここを何処だと……コホン、さっさと下がると良い」


 俺は諦めて、トボトボと玉座の間から出て行く。

 家臣達の視線は冷たく、俺を止めるものはいない。

 それも当然で、俺は生まれた頃から自堕落に過ごし、何も期待されていない第二王子だからだ。

 その後、俺は準備をすることなく……いつものように、庭にある木の上で寝転がる。


「二日もあるなら余裕でしょ。とりあえず、一眠りしますか」


 うとうとしてきた俺は、すぐに夢の中へと……入れない。

 聞き覚えのある声が聞こえてきたからだ。


「エルク様! どこにいるんですの!?」


「げげっ、この声はやっぱりステラかぁ……」


「エルク様! そこにいるのですね!」


「に、逃げなくては——うおっ!?」


 俺はとっさに降りようとして足を滑らせ——そのまま、地面に激突する!


 そして、そのまま意識が飛んでいく……。







 ◇


 ……あれ? 俺は何をして……その時、恐ろしいほどの情報が頭の中に入ってくる。


 前世の俺、今の俺、それが混ざり合う。


そうだ、俺は……前世では日本人で、三十代中盤の社畜として生きていた。


原因はわからないけど、何かあって死んで……エルク-ティルナグとして転生したんだ。


 そのことをはっきり思い出した時——頭が割れそうになる。


 前世の記憶、そして


「っ〜!? はぁ、はぁ……」


「エ、エルク様!? 起きて平気ですの!? ごめんなさい、私が声をかけたばかり木から落ちてしまって……」


 ふと顔を上げると、泣きそうになっている女の子がいた。

 燃えるような赤く綺麗な髪に、意志の強さと気の強さ両方を感じる瞳。

 髪の量が多く癖っ毛なのを本人は気にしてるみたいだけど、俺は割と気に入ってた。

 端正な顔立ちと、小柄で華奢な身体……そうだ、この子は。


「ス、ステラ?」


「わ、私の名前を忘れてしまいましたの? やっぱり、うちどころが……」


「い、いや、平気だよ。君はステラ-イチイバル、俺の幼馴染にして侯爵令嬢だ」


「ほっ、良かったですわ。ただ、やけに説明口調のような……」

 

 俺は蘇った前世の記憶と、現在の記憶を整理する。

 彼女は今現在の俺、エルクの幼馴染だ。

 幼少期の頃から、俺に色々と小言を言ってきた気の強い女の子だ。

 少しうるさいと思っていたけど、前世の記憶を取り戻した今ならわかる。

 自分のために小言を言ってくれる人の有り難みを……言ってくれるうちが花ってね。


「気のせい気のせい。それより、ありがとね」


「ふぇ?」


「いや、俺の看病をしてくれてたんでしょ?」


 俺のベッドの横には、いつもはない椅子がある。

 それに座って、俺が起きるのを待っていたのだろう。


「だって、私の所為ですから……」


「ううん、ステラの所為じゃないさ。元はと言えば、俺が木の上にいたのがいけないし」


「エ、エルク様が謝って反省を……? やはり変ですわ! ちゃんとしたお医者様を呼ばないと!」


「だァァァァァ!? 待って! 平気だから!」


 立ち上がろうとするステラの手を掴み、その場に留まらせる。

 確かに記憶を取り戻す前の俺は、反省などしない駄目王子だったけど!

 流石に非人道的な人物ではないが、ただひたすらにだらけることだけを考えていた。

 ……もしかしたら、社畜だった前世が影響しているのかもしれない。

 今世では、ダラダラしたいと本能的に思っていたとか……という言い訳をしてみる。


「あ、あの、手を……」


「あっ、ごめんね。まあ、確かに変かもだけど……これで最後だしさ」


「さ、最後って……そうですわ! 荒地である辺境に追放されるって聞いて……私、お父様に頼んできます! そんなこと駄目だって!」


 ステラの父は、国王陛下の右腕にして宰相の地位にある。

 宰相に溺愛されている彼女が頼んだら、もしかしたら撤回もされるかもしれないが……。


「いや、それは止めておこうかな。ただでさえ、俺の印象は良くないし。そもそも、国王陛下の決定だ。何より、宰相であるネイルさんと対立させるわけにはいかない」


「で、ですが、何もそこまでしなくても……エルク様は怠惰ですし、ちゃらんぽらんでダメダメで……あれ?」


「あれ? じゃないし。まあ、その通りなので仕方ない……ステラ、元気でね」


「わ、私もついていきますっ!」


「それはダメだよ。危険な場所だし、ネイルさんが許してくれないよ」


 確かに彼女は特殊な能力もあり、かなりの弓の腕もある。

 戦えはするけど、周りが許さないだろう。


「それでは、エルク様は……」


「大丈夫、どうにかするさ。ちょっと、やる気を出してみるから」


「エルク様がやる気を……? さっきから思ってましたけど、やっぱり様子が変ですの。いつもはもっと覇気がないといいますか……もしかして、頭を打った後遺症?」


 おっといかん、前世の記憶が出てきて違和感を覚えるのかも。

 幸い乗っ取りとかではなく、俺はエルクである。

 そこに、前世の記憶が上乗せされたよう感覚だ。

 ただ、前世の記憶も全部ではなく、少しずつ蘇ってる感じかな。

 おそらくだけど、脳に負担がかからないようにしているのかもしれない。


「酷くない? 俺だって、たまにはやるさ」


「それなら、もっと早くにやる気を出してれば……」


「それを言っちゃいけない。とにかく、ステラはここにいて」


「むぅ……嫌ですの! 私、お父様に直訴してきますわ!」


 俺は立ち上がろうとするステラの手を再び握り、しっかり目を合わせて言い聞かせる。


「それはダメだって……わかった、約束しようか。俺は必ず辺境を開拓してみせる。そしたら連絡をするから、それまで待ってること……いいかな?」


「エルク様、それってもしかして最初から……そのために怠惰な姿を? それに呼んでくれるって……まさか、そういうことなのかな?」


 何やら身体をくねらせているけど大丈夫かな?

 俺自身の今後を考えるためにも、しばらくは整理の時間が欲しい。


「うーん……どうかな?」


「……それではお待ちしておりますわ」


「ほっ……それじゃあ、行ってくるから」


 俺が手を離すと、ステラは両手の拳を握ってやる気を見せてくる。


「はいっ! 私も花嫁修行頑張りますのっ!」


「う、うん? 頑張ってね」


 よくわからないが、とりあえず説得はできたみたい。


 よし、ひとまず……引き続き自堕落に過ごせるように頑張りますか。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る