第23話 波瀾含みのオーディション
【前回のあらすじ】
# ♪ ♭
学校が休みの土曜日。
会場は『めいじや楽器店』に併設されたレンタルスタジオである。社長の娘として、
使用するのは、一番大きい二十畳の部屋だ。
「ぶち広いスタジオじゃのー。ワシも使うんは初めてじゃ」
軽音部の顧問代理として、ネル部長が同席してくれることになった。パンキッシュなファッションは普段着だろうか。制服以外の格好を見るのは
「私たちはセッティング終わってるし、始めちゃおっか」
それでも、ゼロ人を覚悟していたことからすれば上出来だ。
「んじゃ、順番通りヴォーカルからッスね」
ヴォーカルの候補者は二人。課題曲は七分間のプログレッシヴ・メタル曲だが、間奏を飛ばして五分でまとめる。
他の候補者たちも見守る中、演奏は
「楽器パートの審査は十分後でーす」
「今の子、英語の発音完璧だったねー。リズムはちょっと甘めだけど」
「そッスね。ただ、一人目の方がパワー感じました」
「わかる~。でもメタルコア系っぽいし、私たちとの相性は微妙かな」
音楽に懸ける
今回だって、メンバー選びの目に狂いはないはずと確信している。
二巡目はキーボードだ。演奏はエントリー順、つまりトップはあの女。
「
髪をアップに、スリット入りのドレスで着飾ったぴあ
異彩を放つのは立ち姿だけにとどまらず、小脇に
「間奏で持ち替えても構いませんこと?」
「いいよ。シンセのソロ部分だよね」
「そうと決まれば――さぁ、
やっぱコイツうぜぇな――と思いつつ、
(お嬢様にプログレメタルなんて……――いや待て、これは……)
曲が進むにつれ、
ぴあ
(く……悔しいけど楽しいぞ、これ……!)
ぴあ
後続の二人も悪くはなかったが、結果は一目瞭然だった。
最後はドラマーの選考だ。
一人目はテクニックに申し分はないものの、ペース配分に難ありといったところ。
二人目は細かいミスがあったが、リカバーも上手かった。ライヴ経験がそれなりにありそうだ。
(これは難しいな。どっちを選ぼうにも決定打が見当たらねぇ)
無理もなかった。誰を選ぶにせよ、あるいは誰も選ばないにせよ、決定権はリーダーである
こんなとき、
「……先輩。正直な評価を言うべきッス。オレがついてますから」
「
重ね合わせた手に力がこもるのを感じた。
「皆さん、本日はおつかれさまでした」
「大きく音を外している方は一人もいらっしゃいませんでした。皆さん大変お上手でした。ですが、それだけだったという印象です。上手い止まりで、その先のビジョンが見えませんでした」
静まり返ったスタジオの中、全員の視線が
「お一人だけ――
「先ほどは厳しいことを言ってしまいましたが、皆さんがここまでの技術を身につけるのは、並大抵の努力ではなかったはずです。今回の課題曲も、短い期間で精一杯の練習を重ねてきたことと思います」
だからこそ、
「そんな素敵な皆さんと、今日限りでお別れするのは寂しいです。なので――」
「もしバンド組みたい人おったら、軽音部まで来てくんさい。ギターとかベース希望の子ぉ何人か知っとりますんで、ワシの方から紹介しますけぇ」
オーディションに便乗して部員を勧誘する、部長のしたたかさには感心する。勿論、事前に
なお、実際に数日後、軽音部の部員数は倍増することになるのだが、それはまた別の話だ。
合格者も決まり、参加者たちもそれぞれの帰路につこうとする頃。
スタジオの床に置かれたスマホが震えだしたのを、
「誰のッスか? これ」
「おー、ワシんじゃ」
ネル部長がスマホを拾い上げ、通話を始めた
「あー、
珍しく声を荒げる部長に、皆の視線が集中する。
「どうかしました?」
「
「今からッスか!?」
思わず難色を示す
「悩み抜いたうえで来てくれるんでしょ? やる気ある子は大歓迎だよ!」
「先輩がそう言うなら、まぁ……」
渋々受け入れようかというところで、ぴあ
「新しい方が参加されますのね! わたくしも見学させてくださいまし!」
「さっきからテンション
「だ、だって! これからは一緒に部活の時間を過ごせるわけですし……」
伏し目がちにそわそわしだすぴあ
(コイツぁますます油断ならねぇ……! ちょっと顔が良くてスタイル抜群で勉強も運動もできて楽器がめちゃくちゃ上手いぐらいでいい気になりやがって……!)
開いた扉の向こうから、聞き憶えのある声がした。
「すいません、第五スタジオってここで合ってますか?」
そこにいたのは、十日前に
# ♪ ♭
★ネル部長 イメージ画像
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093087890966269
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