第9話 鉄仮面のデカ女にケンカ売られたんだが!?

【前回のあらすじ】

マキナ「建設現場で悪魔発見だ。頼むよ、ことクン!」


   #   ♪   ♭


 リーゼントの男が資材置き場にしゃがみ込んでいた。


「金属窃盗せっとうとは随分とベタな悪事だねぇ」


 マキナの呼びかけに、特攻服の肩がびくりと震える。


「女よ、警察など呼ん――」

「呼ばないさ。悪魔を裁く法なんて人の世にはないからね」


 振り向きざまにひるがえした特攻服がコウモリの羽に変容した。


「話が早い! 我が名はルバト! 三十六の軍団を率いる統領なり!」

「キミの罪状は……たずねるまでもないか」マキナが声を張る。「ことクン!」


 少し遅れて登場するぐらいがヒーローにはお似合いだ。

 ことはブロック塀を一足飛びに乗り越え、現場へと突入した。


「オラァ! 現行犯で処刑だぁーっ!」

「せめて逮捕ぅゔぉおおぁ――――っ!!」


 飛び蹴りの直撃を受けた悪魔は粉々になり、マキナの小瓶へと吸い込まれていった。


「今日も一撃必殺だぜ」

「はっはっは。もう統領クラスではキミの相手は務まらないねぇ」


 悪魔は地位によって強さに差があるのは勿論のこと、回収できる霊質とやらの量も変わるらしい。

 たった今倒した敵は、野良の悪魔としては強い部類だ。それでも、レもんたち伯爵級よりはワンランク下である。


「いっそ、こないだみたいに儀式で呼び出すのはどうだ?」

生憎あいにく同じ手は二度と使えないよ。キミだって迷惑電話がかかってきたら着信拒否ぐらいするだろう?」


 そういうものかとことは納得する。

 マキナいわく、体育館での一戦は釣り餌だ。現にレもんが釣られて来てくれた。続けざまに敵の仲間が押しかけてきてもおかしくはない。


「オレらはもうマークされてるし、わざわざ呼び立てるまでもねぇってことか」

「そのとおりさ。ワタシの見立てだと、そろそろ次が姿を見せてもいい頃なんだが……」


 縁起でもないことを――マキナをたしなめようとしたことは、こちらへ向かって来る足音を耳にして身構えた。


 刹那、響き渡る轟音。


 ブロック塀を突き崩して現れたのは、鉄仮面を被った筋骨隆々の巨漢であった。

 いや――


「ルバトを倒したのはどっちだ?」


 仮面越しだが、確かに女の声だ。口ぶりからして悪魔に間違いない。


「オレだ!」


 返事と同時、ことは鉄仮面にダッシュを仕掛けた。近付いてみると想像以上にデカい。二メートルは優に超えている。

 みぞおちを狙ったことの拳は、直前で丸太のような腕に払い落とされ、腹筋にぶち当たる。


ってぇ……っ! 岩かよ!?)


「なるほど、悪くはねえ――が」


 鉄仮面はことの腕を掴み、持ち上げ、振り被って、真っ直ぐに放り投げた。


(馬鹿力が……っ!)


 ことは空中で身をひるがえし、投げられた勢いをぐ。壁を蹴って反撃に向かうが、待ち構えた鉄仮面の張り手にあえなく叩き落された。


「ぐぇ……っ!」

「俺様の相手にゃまだ不足だなァ」


 こもった笑いがことの闘志に火を点ける。


「んだとォ……!?」

「いいねえ。見せてみな、アンタの本気ってやつをよ」

「上等だ!」


 すかさず跳ね起きたことは、なりふり構わずラッシュを叩き込んだ。

 パンチ、キック、膝蹴り、肘打ち……かつてここまで遠慮なしに力を振るった経験があっただろうか。


 鉄仮面のガードはいささかも揺らがない。攻撃が通じるビジョンが見えなかった。

 まさに鉄壁。


「テメェ……バケモンかよ!!」

「失礼だなァ、悪魔だよ。分かったらもう終わりにしようぜ」


 鉄仮面が攻勢に転じる――待っていた、無防備をさらすこの瞬間を。


(全力で一点突破してやる――ッ!)


 ことの決意に呼応するかのように、突如とつじょ身体から虹色の陽炎かげろうが立ち昇り始めた。

 一体、自分の身に何が起こったのか。

 ことの困惑が致命的な隙を生む。


(やべぇ……っ!)


「〈岩抜帝がんばつてい鬼魔きましょう〉ォ――ッ!!」


 うなりを上げた鉄仮面の両掌が、真っ向からことを突き飛ばした。

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