第二章 迫り来る鉄壁、ファイ゠トノファの巻
第8話 バナナクレープで乾杯
【前回のあらすじ】
# ♪ ♭
駅前通りに看板を構える「めいじや楽器店」。裏手に建った
ショーケースに飾られたピカピカのトランペットやヴァイオリン。
本棚にずらりと並んだオーケストラやバンドの
今は片隅へと追いやられたCDやレコード盤。
そんな風景に慣れ親しんできた
「店長、これ下さい」
にこやかに対応する天然パーマの男性とも、十年近い付き合いになるだろうか。大学生のアルバイトからよくも出世したものだ。
「
「そッスね。入り用になったときでも」
高一までは
だからなのだろうか、今の
店を出て五歩と進まぬうち、
スーツ姿の中年女性が真正面に立っていた。
「外でバイト始めたんですってね。店長から聞いたわ」
「まぁ、そろそろ自立すんのもいいかな、と思って」
「そう」
素っ気ない返事だ。娘がどんなバイトをしてるのかも気にならないとみえる。屋上のドアを破壊した件ですら眉一つ動かさなかった時点で、高望みなのかもしれない。
今だって別に険悪というわけではない。ただ、いつからか
幼かった頃は、やることなすこと何でも褒めちぎってくれていたのに。
(やっぱ気に食わねぇのかな……こんなガサツで乱暴に育っちまったから)
「遊び歩くのは構わないけど、悪い男には気を付けなさい」
「いやオレ、女好きだし」
こんなタイミングで打ち明ける奴があるか――言ってしまった後で、
「なら、悪い女には気を付けなさいね」
目尻を下げた母の顔を見たのは何年ぶりだろうか。店の中へ入って行く後ろ姿を、思わず目で追いかけた矢先、
『繁華街で悪魔を確認した。今から来られるかい?』
スマホに届いた「悪い女」からの連絡。
*
駅前広場の時計は午後七時を回っていた。
「いや~、悪いねぇ。到着前に見失ってしまって」
「別にいいけどよ」
「使い魔が捜索中さ。キミん
ちなみに、マキナの使い魔は住宅街などではネコ、繁華街ではカラスといったように使い分けているらしい。
「にしても、マキナが敵を取り逃すなんて珍しいな」
「同じことの繰り返しに見えても、小さなイレギュラーは発生するものさ。だけど、大きな流れというのはそうそう変わらない。良くも悪くもね」
「ふーん」
回りくどい言い訳だな、と思った。面倒なのでツッコむのはやめておく。
「イレギュラーといえば、レモノーレの様子はどうだい?」
「レもんの奴なら大人しくしてるぜ」
「なるほど。古巣と連絡を取っている気配はないと」
マキナが全くの善意からレもんの生存を許したとは考えられない。欲しいのは敵側の情報なのだと、
「ま、そのうち聞いてみるよ」
「任せたよ――おっと、いいタイミングだ」
マキナはクレープをぺろりと平らげ、腰を上げる。使い魔からの念波を受信したらしい。
「仕事だな」
「ああ。ついて来たまえ」
たどり着いた建築現場では、異様な風体の男が目を光らせていた。
# ♪ ♭
★
https://kakuyomu.jp/users/mano_uwowo/news/16818093083672220865
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