episode.2 人類の敗退
初戦で人類は虫に大きな敗北を喫した。
その後も凄まじい勢いで人間の生息域を侵略する虫に対して人類はまともな抵抗もできず敗退し、地球上から人間の生息域が急激に減少していった。
そして家族で海外旅行に来ていた少女、アオイも旅行先で虫の襲撃を受ける。
街中でショッピングをしている時に鳴るサイレンの音。
SNSで虫が人を襲っていると知ってはいたが、それは遠い異国の地のできごとで、自分には関係ないと思っていた。
父親は念の為と帰国の予定を早め、明日には日本に帰国する予定となっていた。
この日は最後のショッピングで、お土産などをみていたのだ。
しかし虫の侵攻はアオイの父親の予想を遥かに上回る速度で進んでいた。
鳴り響くサイレンに続いて避難を指示する放送が鳴る。
アオイたちは逃げ惑う群衆と一緒に大きなショッピングモールへ避難した。
ショッピングモールのなかで息を潜める人々。
遠くでは爆発音が響いている。
SNSでは本当か嘘かわからない情報が飛び交い、全くあてにならない。
どれくらいたっただろうか...ほんの少しの時間だったかも知れない。
響いていた爆発音は既に聞こえない。
虫を駆除できたのだろうか...
アオイが出入り口の方を見ると、外に黒い影があった。
ショッピングモールの大きな自動ドアと比べるとその大きさがわかる。
そして自動ドアのガラスが吹き飛び、影が中に入ってきた。
悲鳴があがる。
悲鳴は色々な方向からしているようだ。
おそらく数多くある出入り口の複数、または全てから虫が侵入してきたのだろう。
一瞬でパニックになる店内。
そして吹き抜けの3階から人が落ちてきた。
アオイ「え...?」
思わず上を見上げると、天井には大きなムカデが這っており、逃げ惑う人や隙間から蟻の姿もみえる。
このショッピングモールは全ての出入り口から虫が侵入しており、逃げ道がないことを悟るアオイの家族。
せめて隠れられる場所を...と店内を走り回る。
周囲は虫と人が混ざり合い、大混乱となっている。
そしてアオイたちの前に蟻が立ち塞がった。
家族を逃がそうとする父親は真っ先に両断され、弟も首を落とされる。
アオイは腰が抜けてしまい、後ずさることしかできなかった。
アオイ「あぁ...」
母「グギギギギ...」
ふと後ろから苦しそうな声がした。
振り向いたアオイが見たものは、ムカデに巻きつかれて泡を吐いて苦しんでいる母親だった。
母「グギギ...」
アオイ「ママ!!!」
アオイの声に反応しない母。
そして母親はガクッと力が抜ける。
その様子を確認してムカデは次の獲物に向かった。
目を見開き苦悶の表情を浮かべたまま死亡している母をアオイはゆすって起こそうとした。
アオイ「ママ!ママ!起きて!」
しかし母親が反応することはなく、アオイは呆然として辺りを見回す。
あれほどいた人も今は少なく、ほとんどの人が虫により殺害されていた。
一人、また一人とやられていく様をアオイは呆然として見ていた。
すると突然腕をつかまれる。
見上げると青年がアオイの腕を引っ張っていた。
青年「ここから出るぞ!」
おそらくそう言っているのだろう、アオイが立ち上がると2人は走りだした。
もうすぐ出口だ...
アオイは出入口を見て、奥に虫がいないかを確認する。
その時風がアオイの横をすり抜ける。
ふと隣を見ると青年がいない。
少し先でボドボドっと赤いものが落ちてきた。
上を見ると先ほどの青年が折れ曲がっていた。
背中を反らすように半分に折れていたのだ。
そして腹部は真っ赤に染まって浮いている。
いや、青年を抱えるようにして、腹を食い違っている虫がいた。
それは巨大なカマキリだった。
尚もカマキリは青年の腹部を食べている。
アオイは座り込みそうになるのを我慢して走り出した。
ここからは出口まで横から襲われる心配のないトンネルのようになっている通路だ。
そしてトンネルに入るとアオイの体は急停止した。
いや、急停止させられた。
体に細い糸のような物が絡みついている。
外そうともがくが、糸は余計に張り付いてくる。
手足をめちゃくちゃに動かすも糸は外れず、アオイは体力が尽きてしまう。
そうすると出口から1匹の大きな蜘蛛が入ってきた。
アオイ「いやぁぁぁぁあ!!!」
アオイは必死に暴れた。
しかし蜘蛛の糸からは逃げられず、目の前まで蜘蛛が来てしまった。
恐怖に震えるアオイだったが、蜘蛛は糸を吐きかけてくるとアオイの体を糸で包み出した。
そしてあっというまにアオイは繭の中に閉じ込められてしまったのだ。
アオイは段々と意識が遠くなっていった。
* * *
それからどれ程たったのか。
アオイは体を襲う衝撃で目を覚ました。
アオイ「痛...あれ、私...!!!」
アオイは蜘蛛に捕まったことを思い出した。
周りは全て白い色だが、これは蜘蛛の糸に巻かれていたからと思い出す。
アオイ「そうだ、私蜘蛛に...どうにかしなきゃ」
体を動かしてみるも、雲の繭は硬く、身動きが取れない。
それでも諦めずにもがいていると、ミシっと音がして繭が裂けた。
そこに指が入り、ビリビリと繭を裂くことに成功した。
繭から這い出たアオイは繭の表面を触ってみる。
アオイ「硬い...」
それはギプスのように硬かった。
横を見ると岩があり、そこに繭の糸のような物がついている。
その時ズルズルっと音がした。
慌てて岩の影に隠れるアオイ。
アオイ「なに...あれ...」
それはアオイが入っていたような繭を引きずる蜘蛛だった。
しかし一つや二つではない。
10個以上を引きずっている。
そして蜘蛛は繭を持って壁を登り出した。
アオイがつられて上を見る。
アオイ「な、なにこれ...!」
天井からは無数の繭がぶら下がっていた。
そしてその繭の一つに見たことがない形をした蜘蛛が繭を吊るしている糸を下がっていき、繭ごと尻尾の腹の様なものを突き刺した。
繭は激しく暴れるも、蜘蛛はしっかりと繭を掴んでおり、外れる気配はない。
そしてしばらく針を突き刺していた蜘蛛が針を抜く。
その頃には繭はおとなしくなっていた。
蜘蛛は糸を登っていき、次の繭に移動する。
すると先程針を刺された繭の隣の繭が激しく暴れ出した。
おそらく足があると思われる方を振り回し出したのだ。
しばらく暴れると大きく体をそらしてピクピクと震え出す。
そして繭の真ん中あたりから何かが飛び出してくる。
それと同時に繭は動かなくなった。
繭の糸が切れ落ちてくる。
すると先ほど繭から飛び出した物、小さい蜘蛛がまゆに乗り、バリバリと繭を壊しだした。
そして繭が壊れると、その中から人間をとりだして食べ出したのだ。
中にいたのは自分より幼く見える女の子だった。
目と口を大きく開けたまま死亡している女の子はお腹に大きな穴が開いていた。
おそらくあそこから蜘蛛が飛び出したのだろう。
雲は少女の体の柔らかい部分を食べるとどこかへ行ってしまった。
よく見るとそこら中に死体が転がっている。
アオイは運良く暴れる繭に蹴られて糸が切たことで地面に落下したのだ。
そして、そこにあった岩で繭にヒビが入り脱出できた。
アオイ「わたし...大丈夫だよね...」
慌ててお腹を確認するが、何かを刺された様子はない。
後はここら脱出しなければ...
アオイ「どっちにいったらいいんだろう...でも明るいからどうにか進めそう...え?でもここ地下...だよね...」
アオイが今部屋や、通路は緑に光っている。
壁を擦ってみると、光るコケのような物が手につく。
アオイは音を出さないように慎重に進んでいく。
そしてひときわ大きな部屋に出た。
アオイ「なんで...こんなところに池が...それに花も...」
そこは地下であるにも関わらず、大きな池があり、その周りには花が咲いていた。
そしてたまに虫がきて、その池の中に入っては出ていくのだった。
アオイが出たところはそれ以上道がなく、崖になっていた。
仕方なく引き返そうとするアオイだったが、奥からズルズルという音がして、チラチラと黒い影が見えた。
思わず後ずさると、足元が崩れてアオイは池に落下した。
なんとか岸まで泳いで上がる。
この大きな部屋にはいくつもの出入り口があった。
アオイ「ここにいても虫がくるよね...」
アオイはその中から一つ選んで進んで見ることにした。
途中卵の置いてある部屋や、大量の死体が放置されている部屋を抜け、進んでいく。
すると遠くに光が見えた。
アオイ「出口!!!」
アオイは走って出口に向かおうとする。
すると後ろからギチギチっと不気味な音がした。
思わず振り向くとそこには蟻がいた。
アオイ「うそ...でしょ...」
一目散に走り出すアオイ。
しかし蟻との距離はどんどん詰まっていく。
そしてあと数メールというところで、地面をひっくり返すような振動がおき、トンネルが崩壊した。
アオイはギリギリで生き埋めにはならなかったが、トンネルの崩壊は蟻を押しつぶし、後ろの道を塞いだ。
アオイ「助かった...」
アオイはトンネルから出ると、そこは見知らぬ街だった。
しかし人は誰もおらず、瓦礫や残骸。
そして人や虫の死骸がいたるところに転がっていた。
アオイはまず濡れて動きにくくなった服を着替えることにした。
慎重に慎重に街を進み、服屋に入る。
もちろん人はいない。
商品の中から動きやすそうな服を選んで着替える。
靴もサンダルだったので、スニーカーに履き替えた。
アオイ「武器は...持っててもしょうがないか...あとは食料と水を...」
アオイはリュックも調達して中に必要そうな物を詰め込んだ。
そして死体からスマホをもらい、指紋認証でロックを解除した。
スマホも何台か集めて音が鳴らないようにした後隠れられそうな建物を探して移動した。
アオイ「ここなら...」
アオイは町外れの港にある倉庫に来ていた。
地図アプリで周囲を確認して、港を発見したのだ。
もしかしたら船で救助が来るかもしれない...
そんな期待もあり、港にしたのだ。
ここで一番頑丈そうな倉庫を発見して中に入る。
中を調べたが、人も虫もいない。
アオイはここを拠点に救助が来るのを待つことにした。
地図アプリによるとここは最初に虫が出たというアオイが旅行していた国の隣の国だった。
大使館に電話をしてみるが不通。
しかも電波が極めて悪く、ほとんど圏外になってしまう。
アオイは一人でただ救助を待った。
* * *
アオイ「これからどうすればいいんだろう...え??」
あれから数日、アオイは微かな物音を聞いた。
それは足音だった。
ここは隠れてから一度も虫は来ていない。
アオイは恐る恐る外を覗く。
そこには数人の兵士がいた。
アオイ「助かった!」
アオイは思わず外に出る。
アオイの登場に驚き、銃を向けた兵士たちだったが、隊長なのか一人が指示すると銃を下げ、統制の取れた動きでアオイに近寄る人と、周囲を警戒する人に別れた。
隊長「Chinese?」
アオイ「Japanese」
隊長「あなたはなぜここに?」
流暢な日本語で話してくれた。
アオイ「私、家族で旅行してて、それから、それから...それから...」
安堵したからか、泣き出すアオイ
隊長「大丈夫、辛かったね、私たちと帰ろう」
隊長に抱きしめられたアオイ。
1人で耐えてきた緊張から解放されたのだ。
隊長「HQ, HQ. Secure survivors. Request return.」
無線「All right. Return to base.」
アオイはゴムボートに乗り、沖にいた潜水艦に案内された。
そこでアオイは見たものを詳しく聞かれた。
特に洞窟の話は何回も丁寧に確認された。
潜水艦で隊長から聞かされたのは、アオイが隠れている間に世界のほとんどの国は滅亡しているということ。
基本的に虫は海を越えられないので、島国や島がある国はそこになんとか立て籠もって虫の侵入を防いでいるということだった。
そして現在対策本部は日本に設置されており、世界の国を失った軍隊の集結地点になっているということだった。
アオイを洞窟で襲った振動は、偵察衛星から得られた情報で、巣の位置を特定し、地中貫通爆弾で爆撃した物と聞いた。そして彼らはアメリカ軍の特殊部隊で、その効果の確認にきたところだったという。
アオイはハワイのアメリカ軍統合本部を経由して日本に送られることとなった。
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