episode.1虫の出現

とある国のとある都市。

比較的大規模なこの都市ではいつもと変わらない日常が流れていた。


昼に差し掛かる頃、その日常が突然壊れた。

大きな羽音と共に地面が黒くうねっている。


数多くのヘリコプターが飛び交い始め、パトカーが慌てて出動していく。

そして緊急ニュースが流れた。


映像には巨大な蟻の様な生物や、それに混じってムカデなどが大挙して移動していた。


警察が車を盾にして拳銃や散弾銃で攻撃をしているようだが、全くダメージを与えられている気配はない。


そして虫の大群に飲まれるように姿を消す。


そしてテレビのリポーターが突然悲鳴をあげるとカメラに巨大な蜂が映る。

その後ヘリコプターはバランスを崩し、回転しながら落ちていく。

途中で映像は終わったが、テレビから市民に緊急避難が告げられる。


パニックになる群衆、思い思いに安全な場所へと避難する。


地下鉄、ビル、車で逃げ出す、家に帰って鍵を閉じる。


それぞれがベストと思われる方法で身の安全を確保する。


虫が都市に到達する。

散発的に銃声がしているのは警官や警察の特殊部隊が応戦しているのだろう。


オリバーは地下鉄に逃げ込んでいた。


オリバー「いったいなんだってんだよ!大きな虫が襲ってくるなんて、映画の世界だろ!」


一人で呟きながら多くの人と一緒に息を潜める。


静かになった...

先ほどまでしていた銃声がやんだ。


階段付近にいた男が様子をみてくるといって地上に向かう。

全員がそれを見守る。


男が地上に差し掛かり顔をだす。

辺りは静まり返っている。


男「大丈夫そ...」


大丈夫そうだ、みんな出てこいと言おうとしたのか、男は最後まで言葉を話すことができなかった。

男の頭が胴体と離れて、頭が階段を転がり落ちてくる...

その先には巨大な蟻がいた。

顎の牙から血を滴らせ、こちらを見ているように立っている。


一瞬の静寂の後、各所から悲鳴が上がる。

そして逃げ惑う人々。


オリバー「クソッ!クソッ!!!」


オリバーもパニックになって走り出す。

といっても狭い構内だ。

転んで踏み潰される者や壁に押し付けられて圧死する者、線路に降りて逃げようとする者。


しかし線路に降りた者たちから悲鳴があがる。

線路を通って電車ではなく蟻が入ってきたのだ。

先頭のものは切断され、次の者がまた切断される。


駅構内は全ての出口を塞がれて完全に逃げ場を失った。


オリバー「うそ...だろ...」


そして雪崩れ込んでくる蟻の大群。少数の男が戦いを挑むが瞬殺される。


そして駅にいた人間は全員蟻によって惨殺された。


そしてビルに逃げ込んだ人間も大量の蟻が侵入してきて地獄となる。

徐々に上の階に追い詰められ、屋上でバリケードを作る。


しかしバリケードもいつまで持つか...

全員が顔をこわばらせながら屋上の出入り口を凝視する。

これを突破されればもう逃げ場はない...


すると大きな羽音のような物が聞こえた。

振り向くとそこには、おびただしい数の巨大な蜂が舞っていた。

そして襲いくる蜂。毒針で刺されて絶命する者、顎で食いちぎられる者、屋上は逃げ場のない牢獄となって生存者を閉じ込めた。


そして遂に出入り口のバリケードが突破された。

蜂に加えて雪崩れ込む蟻、屋上は段々と数を減らしながら逃げ惑う人で溢れた。

そして何人かは追い詰められ、押されて屋上から落下する。

蟻や蜂も人間を殺すだけではなく、落とすように投げたり、体当たりをしている。


エマ「出入り口まで走って中に戻れば...」


エマは足には自身があった。

陸上で鍛えた足でビルの中に戻る。

そして虫の攻撃を避けながら手頃な部屋に潜んで救援を待つ。


パンプスを脱ぐとエマは走り出した。

人の数が減ったおかげで出入り口までは道が開いている。


あと数メートル、中には虫の姿は見えない、全員出てきている!


最後のダッシュをして、建物内に...


そこでエマは強い衝撃に襲われた。車にぶつかったかと思うような衝撃。


エマ「ガッ!!!...いやぁぁぁぁぁ!」


蟻だった。

1匹の蟻がエマに体当たりをして突き飛ばしたのだ。

宙を舞う体。

そして回転して見えたもの、それは屋上の縁だった。

ビルから落ちる!!!


エマは最悪のシナリオを想像する。

そして体が屋上から出て落下を始める。

エマは手足をバタつかせるが、何も掴むものなどない。


終わった...エマが考えていると、落下が突然停止する。

何が起こったのか確かめようとする。


エマ「あれ...体が...」


自分の体に細い糸がくっついていて動けない。

エマはもがくが、どんどんと糸が絡みついてくる。


周りを見回すと自分と同じように空中でもがいている人が大勢いる。

そしてその中に細長い繭のような物が浮いている。

足元から悲鳴が聞こえたので、体を起こすと足元にいた男に巨大な雲が襲いかかっていた。

雲は糸を出して男を包んでいく。

あっという間に繭になる男。

その後も雲は手際よく人間を繭にしていく。


エマ「ぁぁ...」


そして頭上に気配を感じるエマ...


しばらくすると声を出すものはいなくなり、空中に浮かぶ物は無くなっていた。


人間も、繭も...



マイロは家族とはぐれ、近くの学校に避難していた。

SNSでは虫に関する情報が飛び交っている。

強固なバリケードを体育館に作って立て籠もっているが、いつまで持つか...

時折りドアを叩き、助けを求める声がするが、すぐに悲鳴に変わる。


もしもバリケードが破られれば次は自分の番だ...


全員が絶望の表情を浮かべていると、空から轟音が響く。

バリケードの隙間から外をのぞいた人が叫ぶ。


男「戦闘機だ!空軍がきてくれた!」


カーテンを開けて歓声を上げる人々。

軍が動いたのだ、大きいとは言え、所詮は虫だ。

軍隊がくれば直ぐに駆除できる。

誰もがそう思っていた。


多数の戦闘機が空を回っている。

状況確認をして、攻撃する目標を決めているのだろう。

空軍の攻撃が始まったということは間も無く攻撃ヘリに援護された陸軍が来るはずだ。


* * *


パイロット「こちらファントム1地上の攻撃目標の指示をこう」


管制官「学校周辺に虫が集まっている。おそらく校内には民間人が避難していると思われる。低空から侵入し、周辺を機銃にて攻撃せよ」


パイロット「了解......ん?何かくる!ブレイク、ブレイク!」


戦闘機に向かっていく物があった。

それは蜂だった。

戦闘機は慌てて散開するが、何機かは避けきれず体当たりをくらい、破損して墜落する。


その後も戦闘機部隊はミサイルや機銃で蜂と空中戦を展開する。

奮戦していた戦闘機部隊だが、そもそもの数が違う。

徐々に数が減っていき、空域を離脱していく。


体育館は静まりかえっていた。

絶望の中に希望の光がさしたのだが、その光も潰えた...


そしてバリバリと音をたてながらバリケードが破られる...


大都市がものの数時間で壊滅し、空軍も大きな犠牲を出した。


空軍に続いて展開した陸軍も壊滅。

生存者はいなかった。


一国の正規軍が虫に敗れるという出来事は世界に衝撃を与えた。


国連では緊急召集がかかり、対応が協議されることになった。


こうして人類は初めて人間以外の敵と戦争をすることとなった。

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