9 戦いの後

 その後、アリサに魔獣の角を回収して貰い袋に詰めた後、少し休んでから王都へと戻る事にした。


 幸いな事に大怪我を負ったものの足はやられておらず、少し休んだ事による体力の回復と鎮痛剤、それから一応アリサの応急処置のおかげで死ぬ程苦しくはあったが歩く事はできた。

 かなり辛うじてではあるが。


「えっと、クルージさん……ボク背負いましょうか?」


「回収した角とか持ってもらってるのにそこまでさせられるか。」


 流石に八割近い魔獣をアリサに任せておいた上に荷物持ちまで任せて、そこから更に背負ってもらったりする訳にもいかない。

 申し訳ないのもそうだが、流石に自分にもプライドという奴はある。

 頑張ってどうにかなるなら、多少の見栄は張っていきたい。


 そしてなんとか頑張った結果、少し時間が掛かりはしたが、なんとか王都の冒険者ギルドにまで帰って来れた。


「あの……なんか森がエライ事になってたんですけど」


「これ魔獣の角です」


「え? ちょ、ちょっと待ってください! なんですかこの量!?」


「……魔獣、100体以上いましたよ」


 クルージ達はあの森が明らかにCランクの依頼を熟せるような環境ではなくなっていた事を説明した。

 受付嬢のお姉さんも持ってきた角の量やクルージの怪我を見て、自分達が把握していた以上の状況になっていた事を理解してくれたのだろう。


「申し訳ありません! こちらが把握していた情報と現場の状況に大きな齟齬があったようで……本当に申し訳ありません!」


「あ、いや、頭上げてください! とりあえず生きて戻ってこれたんでセーフって事で、ね?」


「す、すみません! ですがそんな簡単には終わらせられないんですよ。これは私達にとって大きな失態ですから。とりあえず本日は規定の報酬をお支払いしますが、後日正当な審査の元追加報酬をお支払いさせていただきます!」


 そう言った受付嬢のお姉さんは慌てた様子で、そんなことよりとクルージに向かって言う。


「とにかくこの話はまた後です! とにかく早くその怪我どうにかしましょう! 今馬車を呼びますので、それ乗って早く病院に行ってください! 当然交通費や諸々の医療費はギルドが持ちますから!」


「あ、そうですか……じゃあお願いしてもいいですか?」


 素直にそれを受け入れる事にした。

 結局自分達がやったのは精々応急処置止まりで、後は頑張ってアリサの隣りで涼しい顔して歩いていたけど、正直限界も限界だった。


 壊れてはいけない臓器が壊れているだとか、そういう事は此処まで帰って来られている以上無いとは思うが、それでも骨の数本はイカれていそうな訳で……とにかく専門的な診察と治療は必要だ。

 絶対に必要だ。

 正直な話をすれば、交通費も医療費もギルドが負担してくれるのであれば、一刻も早く病院へ行きたい。


「そ、そんな訳でアリサ。俺ちょっと病院行ってくるよ」


「あ、ボクも付き添いで行きます!」


 そして馬車の代金も医療費も冒険者ギルド持ちで、病院に担ぎ込まれる。

 そして。診察終了。


「これは……一週間程入院が必要だね」


「えぇ……」


 なんか普通に入院する事になった。

 おとぎ話のように魔法で怪我が治ったりなどはしないのだがら、驚きはしたが当たり前の事だ。


(しかし一週間程入院って、多分それで完全に完治する訳じゃないだろうし……復帰するまでそこからもう少し時間がかかりそうだな)


 それでも冒険者を始めとする普段から戦いに臨む様な人間は、そうではない普通の人とは鍛え方が違って、常人よりも高い身体能力や動体視力に……後は回復力を持ち合わせている。

 それ故に同程度の怪我を負った一般の人と比べれば遥かに早く元の生活に戻れる訳で、文句は言えない。


 そして病室で、付き添いに来ていたアリサが言う。


「まあゆっくり治してください。医療費を全額ギルドが見てくれるって事は入院費も一切個人負担が無いって事ですし」


「そりゃありがたいな。入院費なんて普通に負担してたら馬鹿にならねえし。ほんとありがてえ」


「まあ向こうのミスが原因みたいなものですからね」


「ミス……か。ま、あんな馬鹿みたいな数出てこなきゃこうはならなかっただろうしな」


「ボクも毎日お見舞いに来ますよ」


「まあ無理はすんなよ。お前にだって都合とかあるだろうし」


 そしてそうは言うものの、それもありがたい事だった。

 たった一週間とはいえ一人でいるのは退屈だろうから。


 そしてそれはアリサも変わらなかったらしい。


「無理にはならないですよ。今は特に予定ないですし……有ってもクルージさんと一緒にいたいですし」


「……」


 しかし改めてそんな事を言われると、凄い恥ずかしい気分になる。

 そしてなんとなくアリサも同じような気持ちになったらしい。


「あ、ボク何か買ってきますね! あ、そうです、リンゴ! リンゴ買ってきます! 剝きますよザクザクと!」


 そんな事言いながら物凄いスピードで病室から出て行く。

 とりあえずあまり退屈しない入院生活になりそうだ。


「……」


 そして考える。

 アリサは昔ドラゴンと戦って死にかけたって言ってた。

 そうなれば同じ様に病院に担ぎ込まれたのだと思うけれど……その時は自分にとってのアリサの様に、お見舞いに来てくれる人とかはいたのだろうか?


 ……おそらくいなかったのだろう。


 いなかったから、今の人に飢えているアリサがいる。


 そう考えるとやっぱり自分は幸せなんだと思う。


 そして……アリサにも幸せになってほしいと思うのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る