6 アリサの実力

 二人で冒険者ギルドにまで戻ると、再び警戒心が混じった鋭い視線が四方八方から向けられる。


 当然と言えば当然だ。

 関わってはいけない二人が一緒になって歩いているのだから。

 より一層の警戒心を向ける事に文句は決して言えない。


 後日訂正はしたいとは思うけれど。

 自分の事についても、自分と一緒に居る際のアリサについても。

 ……今は仕事の事だ。


 そうしてその視線を浴びながら歩いた先でクルージ達は、今受けられる依頼を受付嬢に紹介してもらった。

 こういうギルドで働く側の人間は、こちらの事を把握していても特別邪険に扱ったりはしない。その辺プロだなと思う。


 そして依頼をこなしに行く為に不足していたアイテムを買い揃え出発した。


 今日受けた依頼は、ここ最近王都近くの森に生息して繁殖し始め、生態系を荒らす魔獣の討伐である。

 今回はその20体討伐し、その証拠に倒した魔獣の角を持ちかえれば依頼達成だ。

 依頼のランクはCランク。


 その森まで一時間程掛けて歩き、無事到着到着。

 森の前で小休憩を取ってから、二人は森の中へと入っていく。


「ああ、そういえばアリサ。お前って基本どういう風に戦うんだ? そういや聞いてなかったけど、一緒に戦うってなったらお互い把握しとかないとマズいだろ」


 森の中を歩きながら、本来此処に来る前にしておかなければならなかった話をアリサに振ってみた。

 自分達の場合、パーティの結成経緯がかなり特殊だった為知らずに此処に至ったが、このままという訳にはいかない。


 そしてアリサはクルージの問いに答える。


「えーっと、ナイフでズバズバーってやっちゃうタイプって言えば分かりますか?」


「アバウトすぎて殆ど分からん。いやまあ前出て戦うタイプだってのは流石に分かるけど」


「クルージさんは?」


「刀でザクザクーって感じだ」


「アバウトすぎて殆ど分かんないんですけど」


「お前が言うなよ」


 まあともあれ、このパーティーに後方支援役など存在しない事は分かった。

 前衛と前衛。

 動きは一緒に戦いながら合わせていくしかないだろう。


「しかし20体討伐でOKって言ってましたけど、一体この森には全部でどれだけ魔獣が生息しているんですかね?」


「さあな。でも20体減らせばある程度抑えられるような数なんだろうよ。何百体もいて20体なんて討伐しても焼け石に水だからな。大した数はいねえだろ」


「あー確かにそうかもしれませんね。でもそうなってくると、逆に20体探すの難しくないですかね?」


「多分それに関しちゃ大丈夫だ。アイツら基本的に鼻が良いから、自分の縄張りに足を踏み入れた人間を潰しに勝手に出てくる」


「なるほど、つまりボク達は魔獣ホイホイって訳ですね」


「その例え嫌だなぁ」


 ともあれ本当にそんな物である。

 だからこそ気を付けなければならない。

 森の奥に足を踏み入れた瞬間から……自分達は魔獣にとっての外敵として認識されているのだから。


 そして……足音が聞こえた。


「……ッ! 来るぞ!」


「はい!」


 次の瞬間、木々の間から全長150センチ近い大きさの狼の様な魔獣が3匹跳び出してくる。


「……ッ」


 大きさだけで言えばアリサよりデカイ。想像以上だ。威圧感が凄い。

 しかも数で上回れている。


(これは戦いにくいぞ)

 

 ……ましてや今のクルージにはいつも身を守ってくれていた運気が一般的な範疇にまで落ちているのだから。

 それでも、小さく息を吐いてカタナを強く握り、そして……跳びかかってきた魔獣に向けて振りぬいた。

 手に残るのは確かな手応え。耳に届くのは魔獣の断末魔。


(気ぃ抜くな!まだ二体……それも二体共アリサの方に行きやがったッ!?)


「アリサ!」


 瞬時に体制を整え、アリサの方に視線を向ける。

 そして次の瞬間聞こえたのは断末魔だ。


「……すげえ」


 視界の先で、アリサは逆手に持った二本のナイフで二体の魔獣の息の根を止めていた。

 一瞬。息の根を止める直前しか見えなかったが、それでも、自分よりも格上の冒険者である事はすぐに分かった。


(……コイツ、強いぞ)


 そしてアリサは今まさに魔獣の息の根を止めたナイフを引き抜き……凄い勢いでクルージのいる方角に向けて投擲する。


「うわっ!?」


 クルージがそんな声を上げる中、アリサが投げたナイフはクルージの隣りを通過し……そして後方から魔獣の悲鳴が聞こえてきた。

 ……足音を殺して、いつの間にか近づかれていた。


「クルージさん!」


「あ、ああ!」


 クルージは改めてそちらに振り返り、アリサのナイフで満身創痍になっている魔獣に刀を振り下ろし息の根を止める。


(……アリサのカバーが無きゃ危なかった)


 九死に一生な気分だ。


「わ、わりい、助かった、アリ――」


 言いながら振り返る。


「――サさん?」


「なんで急にさん付けで読んでるんですか」


 この僅かな時間に魔獣の死骸が二体増えていた。

 三体目も半分以上はアリサの力だ。

 そんな圧倒的な動きを見せられれば、さん付けもしたくなる。


(いや……まってアリサ強すぎじゃない!?)


 そもそもクルージは新たに魔獣が近づいてきているのも分からなかったわけで……だけど多分アリサはそれにも気付いていたみたいで。

 ……もしかするとSランクの依頼を受ける程強かったアレックス達と、同じ位の実力を彼女は持っているのかもしれない。


 不運なんてスキルを持っていなければ。

 実力相応のパーティーに入れれば。

 そういうトップクラスで活躍できるような人間なのかもしれない。


「まあとにかくこれで6体ですね。いえーい」


 そう言ってアリサはハイタッチを求めてくる。

 ……なんかそれに返す程の働きをしていない気がするんだけど、まあ求められたのだからやっておく。


(……いや、そうじゃないな)


 それ相応の動きはしていないが、クルージとしてもそういう事はやりたい。


「おう」


 そしてクルージ達はひとまずの襲撃を乗り切り、お互いの手を合わせた。


「えへへ、ちょっとこういうのやってみたかったんです」


 アリサはそう言って笑みを浮かべる。

 それに対しクルージも小さく笑みを浮かべた。


(……ああ、そうだ。こういう事に飢えてたんだ)


 そんな事をしみじみと考えながら。

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