億越えとの会話⑤

そうして二人は話し出す。

最初に話し出したのは百足楽むかでら灼煉しゃくれんだった。


「屍河狗威くん、キミが登場してから、今、術師による戦いは勢いを増している、三百年の間、停滞していたものが土石流の様に弾け出した」


この一ヵ月で術師達の戦いが多くなった。

異端児にして異例の存在、屍河狗威の存在が大きい。

幽刻一族を単騎で滅ぼした偉業。

他家の連中は、屍河狗威を起点と考えていた。


「みんな、決めようとしているんだ、次代の王、術師の王を」


手を組みながら百足楽灼煉はそう言った。

屍河狗威は興味無さそうに椅子に座っている。


「で、俺に接触して来た理由は?」


要点だけを求める屍河狗威。

百足楽灼煉は答えた。


「術師戦争、平定、がボクの目標だよ」


その言葉に彼は辟易とした。

何処かで聞いたような話だった。


「け、またそういう奴かよ…前にもそういう事を掲げた奴がいるぜ、そいつは、全ての術師を支配するって言ってたけどな、それで俺の力が必要だと言っていた、どうしようもねぇほどに、くだらない人間だった」


だから滅ぼした。

屍河狗威の言葉に、繭を顰める百足楽灼煉。


「心外だね、ボクが目指すのは、あくまでも術師の世を完遂させる事さ…二年以内に、それを達成する」


人差し指と中指を伸ばして二本の指を屍河狗威に向けた。


「なんでそんな期限定めてんだ?」


屍河狗威は何気なく聞いた。

すると、百足楽灼煉は彼の言葉に答える。


「虚弱体質と言っただろう?ボクの人生は、以て後二年だからだよ」


流力を流すと肉体が拒絶反応を起こしてしまう。

そういった体質の人間は、若くして命を絶えてしまう。

その理由を聞いて、やはり俗だと屍河狗威は鼻で笑う。


「…は、つまり、あんたは自分の命欲しさに、流脈を得ようとしてるってワケか?そりゃ、誰しも死ぬのが怖いよなぁ?だが…王の座は、妃龍院家のもの…」


と、屍河狗威は自らの言葉を最後まで言おうとした。

だが、その言葉を遮る様な行動を、百足楽灼煉は起こしていた。


「…ぐ、ぬぬッ」


力いっぱい、テーブルを持ち上げようとしている。

顔を赤くしている百足楽灼煉の行動に屍河狗威は奇異的な目で見た。


「あ?なんだよ、テーブルを持ち上げようとしやがって」


「ふはぁッ!!」


そして、テーブルをひっくり返す。

上に置かれた洋菓子やお茶が周囲に散らばった。


「なん、なんだよッ!!」


狂人的行動に屍河狗威は困惑した。

そして、百足楽灼煉は叫んだ。


「見損なうなよ、屍河狗威、このボクをッ」


「ああ!?」


何を言っているのか。

そして、百足楽灼煉は自らの意思を彼にぶつけた。


「ボクが、自分の命欲しさに王を目指すワケじゃないッ、ボクは死ぬ、だが、延命しようとは思わない、ボクは術師の歴史に名を遺して死ぬ、それが、ボクの目的だ…その為に、ボクは術師の世を終わらせた者として、その歴史に名を刻むんだ、この想いを、ちゃちな願いなんて言わせないぞッ!!」



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