億越えとの会話④
ティーカップを手から離して、陶器のカップが地面に衝突すると簡単に割れる。
地面に倒れる百足楽灼煉を見て、老獪の紳士は慌てていた。
「あばばばッぼ、ぼぼぼッ、坊ちゃま」
いぶし銀な老紳士が見せてはならない慌てっぷりだった。
そんなセバスチャンの顔を見て、繋檜佐楼音は嬉しそうに笑う。
「あ~この反応、毒入れてるぅ!」
主人が死に掛けているのに、その反応は可笑しいだろう。
その点、不死梟乂幡は主人に対する反応が凄まじい。
彼の体を抱き留めて意識があるか確認する。
口元から溢れる黒色の液体、死に掛けた百足楽灼煉を心の底から心配して叫んだ。
「救急車ァ!!解毒班んん!!百足楽様が死んでしまうッ!!」
滝のように号泣する不死梟乂幡。
騒がしい連中だと、冷めた目で屍河狗威と仮染貂豹は見つめている。
越えに反応したのか、ゆっくりと目を開く百足楽灼煉。
震える手で、天へと手を指し伸ばす。
「ごぼッげふっ…ふ、まさか、この、ボク、が…」
コレクションたちに毒を盛られるなど、想定出来なかった。
これにて、百足楽灼煉の物語は終わりだと、彼は確信した。
狼狽しているセバスチャンは紅茶を入れたカップに目を向ける。
紅茶では無い異臭に不思議を覚え、別のティーカップに淹れて味を確かめる。
一発で目が覚める苦味と酸味、昔から飲み続けたその味は、紅茶として飲めば確かに吐き出すものだろう。
「あ、申し訳ありません坊ちゃま、紅茶では無くブラックなコーヒーを入れてたみたいです、危なかった…」
と。
セバスチャンはうっかり、と後頭部を掻きながら恥ずかしそうにそう言った。
毒では無い、その事実にぱっちりと目を開く百足楽灼煉。
近くで死に掛けた百足楽灼煉の反応を楽しんで視ていた繋檜佐楼音は頬を膨らませて残念そうにしていた。
「えぇ~つまんない、このまま死んだら、どうなるか見たかったのにぃ!」
ゆっくりと、不死梟乂幡の手によって立ち上がる百足楽灼煉。
少なくとも、毒では無い事を証明したので、新しいティーカップを屍河狗威の方へ向けた。
「ふふ…さあ、紅茶じゃないけど、コーヒーは如何かな?屍河狗威くん」
爽やかな笑顔を浮かべる。
口の端から、黒色のコーヒーを垂れ流しながら言い出す。
それを差し出された屍河狗威。
やはり、それを受け取ると言った愚行はしない。
「…いやだから要らねぇよ」
例え毒が入っていなくとも。
紅茶でなくとも、コーヒーであろうとも。
屍河狗威は、相手から差し出されるものは敵である以上、体内へ入れる様な真似はしなかった。
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