億越えとの会話③

「さあ、話し合いの席を用意したまえ、来たまえッセバスチャンっ」


百足楽灼煉は両手を叩く。

空気を弾く音が空に向かって響いた。

それと同時、百足楽灼煉の前に一人の術師が出現した。

老いた男性だ。

しかし、腰は曲がっていない。

背筋はきちんと伸びている。

老紳士と言った立ち振る舞いだ。

白髪に塗れた老紳士は軽く会釈をすると共に答えた。


「私の名前はセバスチャンではありません、百王丸ひゃくおうまる杢挫もくざです」


セバスチャンとは名前では無い。

執事はみな、セバスチャンであると相場が決まっている。

と、百足楽灼煉はそう認識していた。

だから、如何に名前を否定しようとも、執事はみな、セバスチャンと百足楽灼煉は言う。

しかし、そんな事はどうでも良い話だった。

問題なのは、そのセバスチャンが、一体どこから現れたのか、と言う事だった。


「(どっから現れた、このジジイは)」


本来、何も無い空間。

其処から、まるで時間の間に割って入ったかの様に唐突に出現したのだ。

あまりにも早業、あまりにも偉業。

何よりも、流力が体外から漏れた形跡すら無かった。

これは、不思議と言いざるを得ない状況であった。

そんな屍河狗威や、仮染貂豹は目を丸くしているが。

百足楽灼煉は気にも留めずに、セバスチャンに命令を告げる。


「さあ、先ずはティーパーティーからの親睦会と決めようじゃないか」


再び手を叩く百足楽灼煉。

その男反応すると、セバスチャンは何処から取り出したのか、ティーパーティー用のお茶やテーブル、椅子を彼らの前に出した。

真っ白なテーブルクロスを机の上に掛けると、軽く手で叩いて皺一つ、作る事なく綺麗に敷いた。

その上にティーカップや洋菓子を置き、セバスチャンは椅子を引くと、百足楽灼煉がその椅子に座って、足を組んだ。

手を横に向けて、屍河狗威を招く百足楽灼煉に、屍河狗威は当たり前の様に告げる。


「いや座らねぇし、呑むわけねぇだろ」


毒が入っている可能性がある。

その事を案じて屍河狗威は言う。

百足楽灼煉は、彼の言葉に納得している。

彼の杞憂は正しい事だ。

だからこそ、毒など淹れていない証明を差し出そうとした。

自ら、ティーカップを手に取る百足楽灼煉。

それを屍河狗威が見える様に傾ける。


「ふ、安心したまえ、毒なんて入ってない…ずず、うん今日の紅茶は苦味があるねセバスチャごヴぁッ」


そして吐いた。

真っ黒な色をした紅茶だった。

紅茶を飲んだ筈なのに、紅茶とは思えない苦味。

口の中に広がると共に、命の危機を感じた百足楽灼煉は思わず吐き出した。

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