億越えのと会話②


二十分待て、と言う言葉を覆す様に、空から音が聞こえてくる。

段々と音が近づいて来て、屍河狗威は思わず上を見上げた。


「…あ?なんだ、うおぁ!?」


そして、目に入ったのは、屍河狗威が目の色を変える代物だった。

頭上から降り注がれるその紙を見て、仮染貂豹も驚きの声を挙げる。


「ヘリ…から札束…あ!?」


それは万札だった。

一枚一枚が折れていない、ピン札だ。

万札の雨が、屍河狗威と、仮染貂豹の居る場所へと降り注いでいる。

なんとも、贅沢な登場だろう。


「来ましたね、百足楽様」


不死梟乂幡がそう言った。

その声を共に、高らかに声を荒げながら、拡声器を使って声を出す一人の男性の姿が目に映った。


「はーはっはぁ!!お待たせしたねぇ屍河狗威くんッ!それとボクの素敵なコレクションたちぃ!!」


そう叫ぶ男性。

其れに対して、屍河狗威は脇目も振らず、地面に手を伸ばしていた。


「おいッ貂豹!金じゃ金、拾えッ!」


哀しい事に、屍河狗威はその圧倒的実力を持ちながらお小遣いは申告制である。

理由は金を多く得ればろくな使い道をしないと言う嶺妃紫藍の指導が入った為である。

なので万年金欠である屍河狗威は、思わず現金の雨に気を取られて、男性の登場など目を向けていなかった。


「拾うなみみっちい!!」


即座にポケットや甚平の懐にしまう屍河狗威をその様に叱咤する仮染貂豹。

二人の術師は、空を見上げて、その男性の登場を喜んだ。


「きたきた、百足楽さま~」


繋檜佐楼音は嬉しそうに言った。

スカートから手を離し、第一ボタンを締め直す。

首元を紐でリボンを作って結んだ。

王の前でははしたない姿は見せられないのだろう。

同時に、彼女の言葉を聞き逃す事無く、仮染貂豹は耳を傾けた。


「(あいつが…百足楽、灼煉?)」


金髪碧眼。

豪華な衣服に身を包む典型的な成金野郎。

顔が良いのが特にむかつく、と言うのが仮染貂豹の評価だった。


「(存在価値、五億の男…『六銭売りの商人』、百足楽灼煉ッ)」


第六位の位置にある億越えの男。

百足楽家の当主の座を、金を掛けずにして就く事が出来た異例の者。

ある意味、他の億越えの術師よりも興味深い相手であった。

百足楽灼煉の家系は商人として活動している。

そして豪華にも、金をばらまきながら出現すると言うその行為・行動は、正しく金遣いの荒い大富豪としては大正解な振舞いだった。


「…拾うのやめろッ」


未だに現金を回収している屍河狗威の首根っこを捕まえて紙幣から遠ざける。

屍河狗威が現金を回収している様を見て、大層喜んでいる百足楽灼煉。

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