転校生④


仮初貂豹は二人の術師を前に反抗していた。


「そう簡単に同行出来るわけ無いだろ」


屍河狗威と言う大将にもしもの事があってはならない。

正式な手続きをしてからの交渉こそが望ましい状況。

しかし、空気を読めない者は、味方側にも居た。


「いんや、行こうかね?」


仮染貂豹の合間を潜り抜けて、屍河狗威は前に出た。


「おい…狗威、テメェ自分が何を言ってんのか」


と。

そう言うと屍河狗威は溜息を吐く。


「こんな所で問答してても仕方ねえだろ」


学校の廊下。

人の出入りが多い教室の前。

既に、術師達以外にも、生徒の目が此方に向けている。

騒ぎが肥大化すれば、より面倒な展開になると思った。

だから、屍河狗威は、術師たちとの会話を行う事に決めたのだ。


「懸命ですよ、貴方はやはり話が分かる」


うっすらと笑みを浮かべる不死梟乂幡。

屍河狗威は周囲を見回すが、何処もかしこも生徒が彼らを見ていた。

術師達の間を通り抜けて、屍河狗威は手招きをした。


「なるべく人が居ない所が良い、人が居たら、逆に不利になっちまうからな」


流力は漏らしていない。

であるのに、屍河狗威から発せられるこの殺意。

いざとなれば、彼は一秒も満たさず彼らを殺せる。

だが、そうなると人が多ければ術師としての活動を見られてしまう。

中立側の術師協会でも、過度に術理を一般人の前で使役する事は禁止とされていた。


「…決して、損はさせませんよ」


喉を鳴らす不死梟乂幡。

此処では、全ての主導権が屍河狗威によって握られてしまった。

下手をすれば殺されてしまうと言う恐怖が、ひしひしと肌から伝わっていた。


「じゃあ、そういう訳で行くぞ」


そうして歩き出す屍河狗威。

近くに、仮染貂豹がやってくると、屍河狗威にどういう事だと聞いた。


「くそ、何かあったら問題なんだぞ?」


それなのに、人の少ない場所で術師と会話などあり得ない。

これがまだ無銘の術師ならば、勝手な行動をした事で処罰される。

しかし、代理戦争代表者と言う肩書を持つ屍河狗威。

勝手な行動も許されるだろうが、その分、屍河狗威の行動には責任が伴う。

下手をすれば、当主すらも危険な目に遭うのに、だ。


「既に校舎内に侵入されてんだ、それを悟らせずに一週間も、その時点で大問題だろうが」


しかし、屍河狗威はそう言った。

彼らが行動を起こすのならば、とっくの昔にやっていただろう、と。


「一週間、かなりの間だ、何か細工を仕込むことも出来ただろうに、それをしないって事は…交渉したいんだろ?」


屍河狗威は首を回す。

骨の音を鳴らしながら、後ろについて来る術師たちを見た。


「なに、心配すんな、いざとなったら俺が全員殺してやる」


とても頼もしい言葉だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る