転校生③
そうして、話をしていた時。
再び、廊下の奥から、屍河狗威と、繋檜佐楼音との会話を聞いてきたのか、一人の生徒がやって来る。
「ロネ、何をしているのですか?」
高い声だった。
女性と聞き間違える程の声。
その顔を見た時、確かに女性であると屍河狗威は思った。
しかし、その服装に目を向ける。
その生徒が着込んでいるのは学ラン、即ち、男性用の学生服だ。
体つきも、学生服の上からでは定かでは無いが、立ち姿から男性である事が分かる。
即ち、その生徒は女性の顔立ちをした男性だった。
「あ、カルマン、えっとねぇ~、スカウトっ」
カルマン、とそう呼ばれる男子生徒。
仮染貂豹は、手帳に記された転校生の名前を、一致させた。
「(
女性の様な顔をした男性生徒。
その情報と名前から、この男子生徒が転校生である事を確定する。
「知り合いか…お前も術師か?」
屍河狗威は名前などどうでも良かった。
ただ、術師と認めた繋檜佐楼音の知り合いであると言う事は、術師である可能性があった。
だから、屍河狗威は彼に術師であるかどうか尋ねた。
彼は、ゆっくりと両手を挙げた。
戦闘の意思は無い事を証明していた。
「落ち着いて下さい、貴方がたとは構える気はありません」
一戦をする気は無いと言う。
だが、既に一線を越えているのだ。
「身分を隠して他所様の領地に足を踏み入られりゃ、嫌でも身構えちまうだろ?」
屍河狗威は指を鳴らした。
骨が砕ける程の豪快な音は、今にでも戦闘出来る事を示している。
彼の言葉に、不死梟乂幡は目を伏せた、そして屍河狗威の言葉に同調してみせた。
「…確かに、仰る通りです」
屍河狗威の言葉を受け入れる。
そして、彼らにも目的がある事を口にした。
「何しろ、こちらも隠密にコトを進めたかったものですので」
ゆっくりと手を下ろす。
何かしてきそうな雰囲気に、仮染貂豹が自ら屍河狗威の楯となる。
「何を、するつもりだ、テメェ!」
そう叫ぶ仮染貂豹。
極めて冷静な不死梟乂幡は淡々とした口調で告げた。
「先程、ロネが申していた通りですよ」
教室の前、廊下で彼は膝を突いて屍河狗威に手を伸ばす。
それは、姫君の手を取る王子様の様な仕草だった。
「屍河狗威、貴方を勧誘しに来たのです」
と。
そう不死梟乂幡は言う。
屍河狗威を勧誘に来た。
彼らはどうやら、屍河狗威と言う存在をあまり理解していないらしい。
何処の馬の骨かも知れない相手の下に、彼が下る筈が無かった。
「少し、お時間を頂いても?」
不死梟乂幡はそう言った。
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