転校生②

唐突な彼女の爆弾発言。

それを決して聞き逃す事の出来ない言葉。

同時に、言い逃れなど出来ない台詞だった。

確かに、耳に入った言葉が正しければ。

彼女は、自ら術師であると公言したのだ。

屍河狗威は、女子生徒に向けて指差した。


「おい、認めやがったぞ、こいつ」


あまりにも簡単に認めた為に、何か裏でもあるのかと仮染貂豹は訝しんだ。


「(繋檜佐つなひさ楼音ろね…だったか、術師と自ら認めた、その意図は?いや、この際、どうでも良い)」


屍河狗威を庇う。

それは、仮染貂豹にとっての王は、屍河狗威である為だ。

敵を前にして、護衛をしなければ従士としては失格だ。

だから、屍河狗威を守るのが、仮染貂豹の務めだった。


「で、なになに?ロネに何か用なの?」


繋檜佐楼音は子供の笑みを浮かべて近づいて来る。

警戒する仮染貂豹は彼女に向けて手を出して動きを征する。


「近づくな、術師と判った以上、ウチの大将には近づけさせん」


それが臣下としての当たり前の行動。

それに対して、屍河狗威は手拍子をしながら彼の行動を馬鹿にする様に称えた。


「カッコいい~、さっすが貂豹」


呑気なものだった。

この状況が悪い方向へ進んでいるのも分からないのだろう。

あまりの呑気さに、仮染貂豹は憤りを覚えて叫んだ。


「茶化すなバカ大将!こっちは真剣なんだぞ!」


しかし。

彼女は唇に人差し指を添えた。

その甘えた仕草は、男心を擽る淫靡さが垣間見えている。


「でもでも~、ロネたちは戦う気はないよ~」


と。

繋檜佐楼音はそう言った。

その言葉を聞いて、屍河狗威が彼女に向けて言い放つ。


「なんだと?だったらなんで妃龍院家の領土に態々やって来やがった」


そう言うと、彼女は嬉しそうに言った。

自らの想い人との思い出を思い出すかの様に、頬を朱に染めて、彼女に告げられた命令を思い出している。


「えっとね、百足楽サマがね~、欲しいって言ってたから」


百足楽。

その名前を聞いて、仮染貂豹の脳内には、ある情報を思い浮かべた。

その百足楽と言う名前の者が、彼女にとっての大殿様であるらしい。

そして、彼女は、この学校へ来た理由を告げた。


「スカウト、しに学校に転入したんだぁ~」


彼女の言葉に、屍河狗威は耳を疑った。


「は?」


同時に、仮染貂豹は、彼女の言った言葉を復唱する。


「スカウト、だと?」


楽しそうに無邪気に笑いながら、繋檜佐楼音は頷いた。

くるくると、周囲を回り、自分だけの舞台で踊るかの様に、楽しんでいる。


「んふふ~、そう、スカウト!!」


誰をスカウトしに来たのかなど、明白だろう。

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