憂鬱な夢②
早朝。
目を覚ました屍河狗威。
彼は朝は目覚めが悪い。
機嫌が悪いので、あまり話し掛けない方がお勧めだ。
しかし、そんな状態でも話し掛ける阿散花天吏。
目を擦りながら、屍河狗威は話を聞く。
「あ?なんだよ、話って」
不機嫌そうに眉をしかめている。
彼女は彼の顔を見ながら、正座をして話をした。
「いえ、少し耳に入れておこうと思いまして」
そう前置きを置いて、彼女は話を続ける。
「暫く、私は父の遺した遺品の整理をしたくて」
嶺妃家にある元・阿散花家当主の遺品。
それは地中の奥にあり、誰も手が付けていない術師の為の研究工房だった。
遺品整理の為に、暫くは学校にも通えないと告げる。
そして、御主人である屍河狗威に、その許諾を得ようとしてこうして彼の部屋へと参った次第だった。
「主人である貴方の耳に入れておこうかと」
そう言われて、屍河狗威は頭の中で話を整理する。
しかし、寝起きの彼は、同時に思考能力が低下している。
あまり、簡単な話ですらも記憶出来ているか不安な程だった。
取り敢えず、彼女が何か言っている事は分かった。
暫く、頭の中で整理をして、そして屍河狗威は、彼女が旅行に行って来る、と言う内容だったと解釈して頷く。
「あぁ、そういうわけか、良いんじゃねぇ?それくらいの自由はよ」
その言葉に、彼女は嬉しさを浮かべる事は無かった。
寂しい表情をしながらも、許可を得た事に関して笑みを浮かべて感謝の言葉を告げながら頭を下げる。
「…ありがとうございます」
屍河狗威は、今の自分では興味の無い存在だと認識したらしい。
でなければ、こうして簡単に許可を出す筈が無い。
余程、大切な存在では無い限り、手元に置きたいと思うのが心情だろう。
そうでは無いと言う事は、今の彼女には魅力が無いと、そう阿散花天吏は解釈をしていた。
「(やはり、今の私では引き留めてはくれない、と言う事ですか…)」
歯痒い思いだ。
内心では焦燥が迫っている。
早く、価値を取り戻さなければならない。
でなければ、早々と見切りを付けられて捨てられてしまう。
そうならない様に、自分で新しい価値を産まなければならなかった。
「では、有り難く、お休みを頂きますね」
感謝の言葉を口にして杖を使い立ち上がる。
屍河狗威は目を閉ざして、記憶も朧気な状態で頷いた。
「おう」
そうして。
阿散花天吏は地下へ続く道を歩く。
階段を降りて、花と泥の混じった様な木製の廊下を歩く。
其処から先は、多重の結界によって他の人間には分からない壁があった。
壁に手を添えると、其処から先は、阿散花家の人間しか通る事の出来ない隠し通路があった。
その奥へと進んでいくと、地下深くに、阿散花家の研究工房がある。
「これで、準備は調いました」
其処で、彼女は周囲の樹木に目を向ける。
切っ先が尖った枝が、彼女を認識すると動いた。
ゆっくりと、阿散花天吏は自らの衣服を脱ぐと、生まれたままの姿となる。
そして、魔法陣の様に描かれた地面に立つと、周囲の木々が、彼女の体に触れていく。
「(今の私が、誰にも求められないのなら…)」
これは、改造手術に使役する術儀だった。
本来は、犠牲者となる一般人を利用して術師に改造するものなのだが。
「今の私を、変えてしまえば良いだけの事…」
彼女はこれを使い、自分自身を改造する事にした。
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