憂鬱な夢①
それは素敵な夢とは程遠い。
何処までも、彼女の暗闇を示す夢だった。
龍守夜久光との会話の後。
子供の頃に見ていた夢を、彼女はぶり返していた。
無価値として、何度も何度も当主に詰め寄られた夢だ。
しかも、それは子供の頃に見た夢では無い。
当主と、屍河狗威。
二人が重なって、責め立てる様な、嫌な夢だった。
『何も出来ない貴様に価値はない』
当主がそう言うと。
『悪いけど、何も価値の無いお前に興味はねえよ』
屍河狗威に代わり、似た内容を口にする。
『術師として、それ以外に意味はない、無価値として棄てられたいか?』
それが何度も繰り返される。
『お前の体なんか抱く価値もねえよ、もう要らないわ』
彼女にとって、口に出されるだけでも嫌な言葉。
自分と言う存在は何処までも意味を成さない。
努力を行い、残忍になり、全ては術師として貢献する為だけに生まれた。
その存在価値を喪ってしまえば、阿散花天吏のアイデンティティは無意味となる。
当主が術師としての性能ばかりを見据えたが故に。
彼女と言う存在に見向きもしなかった。
それがトラウマとなって、今も彼女の心の奥底を蝕んでいる。
『ま、待ってください、ねえ、待って、私、頑張ります、頑張りますからッ!だから、どうか、見捨てないでッ』
子供の心のまま、彼女は泣き叫んだ。
誰にも役に立てない無能として生涯を終える事を毛嫌った。
そして、大抵、彼女が泣きながら終わるのが、その夢の結末だ。
「はぁ…はぁ…」
目を覚まし、息を荒げる。
額には大量の汗。
襦袢は濡れて、自らの貧相な体が浮き彫りとなる。
鳥肌が立ち、襦袢から、彼女のやや尖がった胸の先がうっすらと見えた。
「また、嫌な夢を…」
額を中指で拭う。
張り付いた襦袢を指でつまんで引っ張る。
背筋は恐怖が通り冷えていた。
「いえ、これはきっと…予兆」
こう何度も夢を見ると、何れそうなる可能性を考慮してしまう。
現在の主、屍河狗威から、存在価値を見出されなくなり、捨てられると言う現実。
「近い未来…私は、あの人に棄てられる…」
事実。
屍河狗威は阿散花天吏を抱いた後。
扱いがぞんざいになっていたのを感じ取っていた。
「だって…それが術師、だから…」
身震いをする。
心身共に脆弱となっている彼女。
自分が捨てられる事を恐れる。
「きっと私は棄てられる…」
術師として生きて来た彼女。
その人生を否定される事は、生きている事を否定される事と同じだった。
「…嫌、そんなの、また、誰にも、期待されない、なんて」
自分はもっと出来る。
もっと、役立てる。
それを証明する為に。
「価値を…私に、価値を見出ださないと…何をさても、私が、私の、為に…」
彼女は、一つ、考えていた事があった。
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