学校に通うワケ④

話を終えた時。

屍河狗威は彼女から離れる様に廊下を歩く。

こうしてノートを届けた後も屍河狗威は過去の事を思い出す。

憂鬱で、悲惨で、凄惨な記憶。

周囲の事など何も目に入らない程に。


「イヌ」


そして。

声を掛けられる屍河狗威。

振り向くと、其処には嶺妃紫藍の姿があった。

屍河狗威は、彼女の方に顔を向けた。


「あ、紫藍ちゃん、こっちに来てたんだ」


笑みを浮かべる。

少し、ナイーブになった彼の顔を見て、嶺妃紫藍は頷いた。


「あぁ、ようやく領土調整が完了しそうでな、創痍修家による傘下加入、家臣として活動する事で、私の領土は他家から侵入は困難になるだろう」


創痍修家が防波堤になる為。

嶺妃家に攻撃をする事は容易では無くなった。

今まで、学校を休んでいたが、これでまた通える様になる。


「これで、学校にも通えるようになるな…それで」


屍河狗威と、廊下の先を交互に見た。

それから察して、妃龍院竜胆の事を思い出す。


「貴様は、竜胆の様子を見に来たのか?」


そう言われて、屍河狗威は肯定した。

頭を軽く下げて、陰のある顔を作った。


「あぁ、うん、ちょっとね、…ノートを届けに来たんだよ」


屍河狗威の言葉に、彼女は殊勝な事だ、と彼を誉める。

しかし、屍河狗威は首を左右に振って、これでは駄目だと言った。


「早く、俺が、なんとかしないと…折角の青春が終わっちまうからな」


早く、この戦いを終わらせる。

彼女に恐怖の無い世界を作る為に。

術師と言う存在全てを抹消するか、支配する。


「…そうか、それが貴様の願い、だからな」


現状、それが屍河狗威の目標だった。


「うん、だから…もっと頑張らないと、俺が、俺自身が、ぶっ壊れる前に…」


杞憂を浮かべる。

屍河狗威の言葉に、彼女は彼の肩に手を置いた。


「…そう根を詰めるなよ、…貴様は、簡単に死んではならない」


このまま進めば、確かに屍河狗威は自分自身を壊してしまうだろう。

そうならない様に、嶺妃紫藍は、屍河狗威の心を庇った。


「母様も兄様も、貴様を必要としている、勿論…」


其処まで言い掛けて言葉がつっかえる。

屍河狗威は目を細めて、調子づいた顔で笑った。


「紫藍ちゃんも?だったら、死んでも頑張るよ、俺は」


そう言われ、やはり調子づいたと思い、彼女は笑みを浮かべた。


「ッ!バカめッ!、私が、そんな事を言うわけがないだろうが!このイヌめッ!」


嬉しそうに、嶺妃紫藍は言う。

最早、夫婦漫才の十八番と言った様子で、少なくとも他者にはイチャついているとしか思えないだろう。





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