学校に通うワケ③


学校が終わり。

屍河狗威は、嶺妃家の領土へと向かわず、妃龍院家の方へ向かっていた。

理由は至極単純だ、女子生徒から貰ったノートを彼女の元へ届ける為だ。

長い廊下を歩く際に、屍河狗威は頭の中で過去の事を思い出す。

最初は可愛らしい笑みを浮かべていた妃龍院竜胆の姿。

其処から、幽刻一族との戦いが始まり。

笑顔を喪い、慰み者として笑顔を奪われた。

何時でも、彼女の元へ向かおうとすると、その事を思い出して仕方が無い。

屍河狗威は、何時もその事を考えながら歩くので、何時の間にか彼女の部屋の前に到達する。

そしていつもの様に、何から話すべきか忘れてしまい、頭が真っ白な状態だった。


「…あー、その」


屍河狗威は彼女に何を言うべきか悩んでしまう。

扉の前で、一度、ノックを行って、其処からポツポツと、屍河狗威は喋り出す。


「竜胆、これ、友達から渡して欲しいって」


ぼそぼそとか細い声で呟く屍河狗威。

そして、ノートを取り出すと部屋の前に置いた。

彼女の棲む部屋には、決して開ける様な真似はしない。

開ける事が出来ないのだ。

それは、物理的に施錠されているから、と言う訳では無い。

精神的に、屍河狗威は、この扉を開く事が出来なかった。

そして、屍河狗威の役目はこれで果たしたのに、まだ扉の前で立ち尽くしている。

如何に関係性が最悪に落ちていても、それでも可能性があるのなら、関係を再構築したいと思ってしまうのだろう。

自分が何を言った所で、この扉が開かない事は承知している。

それでも、屍河狗威は声を掛ける。

最初から、彼女を救いたいと言う心で此処迄来たからだ。


「その…なんて言うか、久々に、会いたいってよ…」


女子生徒。

彼女が元居た教室の友達。

クラスメイトが、そう言っていたと告げる。

それを口にした所で、慌てて屍河狗威は言葉を継ぎ足す。

先程の言い方だと、女子生徒を利用して部屋から出て来いと強要している様に思えたからだ。


「いや、それで出てこいって話じゃ無いんだ」


慌てて、屍河狗威はそう言い足す。

この世には憎々しい存在しかないだろう。

それでも、彼女の事を一途に想い続ける者も居る事を教える。


「ただ…お前と話がしたいって」


ただ無償に。

愛してくれる者が居る事を。

そして、屍河狗威は自らの事を語り出した。

近況報告と言った所だ。


「…いや、俺もさ、今、凄い階級になっててよ、皆、喜んでくれて…」


妃龍院憂媚や、龍守夜久光、嶺妃紫藍。

彼女たちが、屍河狗威の成長を手放しで評価していた。

その事が、屍河狗威にとっては嬉しい事で、笑みを浮かべながら話している。

そして、地位の向上によって何が起こるのか。

屍河狗威が目指す未来を、彼女に告げる。


「なんつうかな…もう少し待っててくれ、俺が、お前が笑ってくれる世界を作るからさ…」


扉に向けて手を添える。

この先に彼女が居る。

彼女が此処から出て来る事があるとすれば。

それはきっと、妃龍院家が術師戦争にて王となった時。

その日が来れば、きっと彼女が笑ってくれる未来が待っている。

そう屍河狗威は確信していた。

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