学校に通うワケ②


女子生徒と話を終える。

会釈をして廊下を小走りで移動する女子生徒。

屍河狗威が面倒でも学校に通う理由。

それが、このノートを彼女の元へ届ける為でもあった。

今でも、妃龍院竜胆の顔を思い浮かべる屍河狗威。


そんな時…ふと、背後から音を鳴らしながらやってくる人物がいた。

その音に、屍河狗威はうんざりしながら振り向いた。

やはり、と言うべきだろうか。

銀髪に、杖を持ちながら歩いて来る、阿散花天吏の姿が其処に在った。


「…あちらの方は?」


彼女は廊下から去っていく女子生徒の後ろ姿を見ながら聞いた。

鬱陶しそうに、屍河狗威は彼女と会話を行う。


「なんだお前、さっきの見てたのかよ、…趣味悪いな」


出来れば、先程の女子生徒との邂逅は見られたくは無かった。

屍河狗威の皮肉に、彼女は天使の様な笑みを浮かべて、悪魔の様な性格で答える。


「はい、貴方が思うように、私は性格が悪いですから…、それで、先程の質問には答えてくれますか?」


はぐらかす事も出来た。

だが、今の彼女は、マッドサイエンティストの様な、頭の中が分からない状態である。

彼女の事を伝えなかった場合、自ら興味を持って女子生徒に接触する可能性もあった。

だから、その危険性を排除する為に彼女の質問に素直に答える事にする。


「…別に、竜胆の友達だよ」


竜胆。

その言葉を聞いて、阿散花天吏は首を傾げた。

全然、聞き覚えの無い名前であるらしい。


「竜胆?」


そう聞き返されて、屍河狗威は阿散花天吏が妃龍院竜胆の事を知らない事を今そこで知った。


「…あぁ、なんでもねえよ、単なる友達の友達だ…つか、これ以上詮索なんかするなよ、あの子は、術師とは何の関係も無いんだからな」


そう念を押した。

一般人を改造していた彼女に、その様な脅しは効くかどうかは分からないが、言って損は無いだろう。

そして、阿散花天吏は頷き、了承の言葉を口にした。


「はい、勿論、あなた様がそう仰るのならば、私は関与などしませんよ」


と。

そう言った。

その言葉を聞いて、屍河狗威は一安心した様子だった。

しかし、彼女から視線を離して後ろを振り向いた時。


「…竜胆、妃龍院竜胆」


ぶつぶつと、阿散花天吏は名前を口にしていた。

それは、屍河狗威の耳には聞こえない程度の些細な声だった。


「おい、なんか言ったか?」


だから、屍河狗威はそう聞き返す。

当然、そう聞き返された所で、阿散花天吏が彼の質問に素直に答える筈が無い。


「いえ、なんでも…ありませんよ?」


そうはぐらかした。

何か悪い事でも考えているのか、相変わらずの天使の様な表情に、その裏側に悪魔の顔を浮かばせていた。

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