学校に通うワケ①

折角の学校生活が散々なものだった。

ブツブツと、屍河狗威は呟きながら、阿散花天吏の事を思い浮かべながら廊下を歩いている。


「ただでさえ、目立ちたくないってのに…、あのバカが…」


しかし、ふと思い直す屍河狗威。

彼女は一応は、屍河狗威よりも頭が良い。

その事を考慮すれば、バカと言う言葉はあまり好ましい表現では無い。


「…いや、頭は良いから賢いか、けど、愚かだし…愚賢おろかしこいって所か、あんの愚賢いがよぉ…」


と、そう言い直して、再び暴言を呟く。

語感の良い暴言を気に入ったのか、何度も愚賢いと呟いていた矢先。


「あ、あの」


そんな時。

屍河狗威に語り掛ける声が後ろから聞こえて来た。

声のする方に振り向く屍河狗威。

相手の顔を伺うと、女子生徒だった。

それも、顔見知りである事を察する。


「あ?誰だ…って、ああ、あんたか」


彼女の姿を認識すると、即座に陰鬱な雰囲気を消した。

特に不機嫌だった屍河狗威は、彼女の顔を見て微笑む。

女子生徒は、屍河狗威に向けて、一冊のノートを取り出した。


「あの、その…これ、どうぞ」


屍河狗威はそれを受け取った。

ノートを開いてページを確認する。

ここ一週間分の授業の内容が書かれていた。

中身を確認した末に、屍河狗威はページを閉ざしてお礼の言葉を口にする。


「あぁ…いつも悪いな」


女子生徒は首を左右に振った。

決して、苦労して行っている事では無い。

友達の為に行った、純粋で綺麗な行為だった。


「いえ、…私が、リンちゃんの為に出来る事があるとしたら、…これくらい、ですから」


リン。

その言葉を聞いて、屍河狗威が思い浮かべる人物はただ一人。

彼女の姿を思い浮かべて、胸の中で留める。


「そうか…それを聞いたら、喜ぶと思うぜ、竜胆も…」


リン、とは即ち、妃龍院竜胆の事だった。

彼女が不登校になって半年。

メールも電話も通じず、外界の全てを拒絶された。

今は、友達の声すら届かない場所で一人、トラウマに魘されている。

そんな彼女に、少しでも、希望を持って欲しい。

何時までも、待ち続ける為に、女子生徒はノートを取っていた。


「あの…少しでも良いから、会いに行けないですか?」


心配している女子生徒。

どうにかして、妃龍院竜胆に逢いたかったらしいのだが。

屍河狗威は首を左右に振った。

理由は単純であった。


「それは…悪いな、俺ですら、真面に話せてないからよ」


彼ですらも、妃龍院竜胆と会話出来ていない。

彼女が元気になる日は未だ遠く、こればかりは待つばかりだった。


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