暇な日常⑤
「あの…?」
仮染貂豹に話し掛けるクラスメイト。
彼は、眼鏡を掛けた黒髪三つ編みの女子生徒に顔を向けて目を細める。
「なんだよ」
そう聞くと、委員長気質の女子生徒は恐る恐る話した。
「その、質問していいですか?」
質問。
本日転校して来た仮染貂豹に対して、興味があるのか。
いや、それは違う。
明確に言えば、教室に居る生徒の声を集めての質問だった。
その証拠に、周囲の生徒たちがちらちらと委員長と仮染貂豹を見ていた。
「何をだよ」
何を聞きたいのか、ぶっきらぼうに仮染貂豹は聞いた。
彼女は、仮染貂豹の額や顔に刻まれたツギハギを指差した。
「その、その怪我は…」
一体、何が起こればこんな事になるのか、と聞いている。
仮染貂豹は、自らの傷を、大切な妹の事を思い出して言った。
「あぁ、…妹の為に、な」
その答えに、成程、と委員長は頷いた。
「あ、妹さんが…」
そして、委員長は話を広げる為に妹から会話を行い出した。
「その、妹さんは、他のクラスにも、転校生が来てるみたいですけど、それですか?」
仮染貂豹は、自らの妹…仮染雹嘩の事を思い出して少し憂鬱になった。
「妹は…死んだ」
委員長は地雷を踏んだ、と焦り出す。
「あ…」
嫌な空気が流れ出したので話題を変える為に、何か別のものを探す。
そして、机の横に立て掛けた竹刀袋に目を付ける。
「ええと、それじゃあ、その竹刀袋」
「これが?」
彼女は言葉を詰まらせる。
とても良い竹刀袋ですね、と言おうとしたのだろうか、流石にそんな台詞を日常会話ではあまり聞かないであろうし、迷った果てに口にする台詞ですら無いと思い至ったのか、想定した内容とは別の台詞を口にした。
「け…剣道部とか、してるんですか?」
仮染貂豹は言葉を詰まらせる。
竹刀袋の中には妹の形見が入っている。
しかし、それは一般人から見れば真剣でしかない。
凶器を持ってきているとは思われなくは無かった。
「あー…そうだ、な、ここ強いと聞いてるから…」
なので、適当に話を合わせるのだが。
「ウチ、剣道部はないのですが…」
一瞬で嘘である事がバレた。
仮染貂豹は再び口を閉ざして、そして全てを無かった事にする台詞を口にする。
「…その、なんだ、ジョークだジョーク…」
「は、はは…」
委員長は、明らかに怪しい男に、白々しい程の作り笑みを浮かべる。
仮染貂豹はこれ以上空気が重くなるのはゴメンだった。
「…もう、いいか?」
そう言うと、委員長も早くこの空気から逃れたいのか、話を切り上げる事にした。
「あ、はい…ありがとう、ございます」
お礼の言葉を口にして、早々とその場から立ち去る委員長。
近くで待機していた友達と情報共有をする。
「あれ絶対ヤクザの息子だよ」
「あんなツギハギの体見たことないもん」
そう言われるが、怒りを浮かべる気すらなく、その言葉を黙って受け入れる仮染貂豹。
「(好き勝手言ってくれるぜ…)」
が、自分ばかり、情報を渡したワケではない。
「(しかし、転校生、か)」
転校生。
委員長が口にした言葉が、妙に引っ掛かっていた。
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