暇な日常②



「な、なんでお前ッ!」


屍河狗威は、彼女を指差して叫んだ。

しかし、即座に屍河狗威は声を殺す。


「(や、べッ…つい、反射的に反応しちまった、なんでこいつが学校に?なんてもんは、後で聞けば良いだけの話だ、問題なのは、俺があいつと何かしらの関係を持っているという事を、周囲の奴らに悟られる事)」


学校で生活する以上。

屍河狗威は安全に且つ平穏に暮らしたい。

既に、不良として悪評を得た屍河狗威。

そのおかげで、誰も話しかけず、接してくる事がない。

それは、ある意味平穏であり、陰口を叩かれていると分かっていれば、気にしなくても良い状況だと言えるだろう。

しかし、彼女、阿散花天吏。

彼女の出現は学園生活の中でも異例の事態。

おまけに顔が良いのですぐに目立つ。

そんな彼女が、悪評の漂う屍河狗威と何かしらの噂が立ってしまう可能性がある。

そうなれば、彼らが屍河狗威に向ける視線もまた変わるだろう。

ただでさえ、嶺妃紫藍との接触で色恋に関する噂が流れているというのに、これ以上、そちら方面で目立ってしまえば、屍河狗威の不良とのしての畏怖が薄れてしまう。


「(頼む、何も言うなよ、白を切れェ!)」


他人のふりをする様に願う屍河狗威。

しかし、そんな彼の思いを汲む事なく。


「あら、誰かと思えば…狗威様」


普段呼ばないような呼び方で、阿散花天吏はそう言った。

その言葉に、周囲の生徒たちは、完全に屍河狗威と何らかの関係性がある事を悟った。


「え?やっぱ屍河と関係あんの?」「しかも様付け?」「なに、どういう事?」


歯軋りをする屍河狗威。

何とか彼女を黙らせなければならない。

しかし、彼女のもとに行けば、それこそ、関係があると、自ら証明するようなものだった。

なので、屍河狗威は何も出来ない。


「(よ、余計な事を言いやがったッ、あのクソ女ァ!)」


教室の隅っこで、視線を逸らしながら屍河狗威は彼女を睨んでいた。

そして彼女は、屍河狗威との関係を聞く生徒に向けて、俯瞰しながら告げる。


「別に答える義理はありませんが…強いて言うなら、主従関係です」


答える義理が無ければ答えなければ良い。

それなのに、わざわざ言うあたりが、彼女の性格の悪さを物語っていた。


「ちょ…頭、頭痛い、頭痛が、痛い」


屍河狗威は立ち上がると共に小芝居を行う。

この空気が悪くなった状況から逃げ出そうとしたのだろう。


「頭痛が痛いは重言ですよ?」


くすりと笑う阿散花天吏。

屍河狗威は睨みながら言う。


「つぅワケで保健室行くんで、良いっすよね?オラ、テメェも来い」


平穏とは程遠い現状。

最早、彼女に一言言わなければ気が済まない。

彼に言われて、彼女はお淑やかに頷いた。


「狗威様がそうおっしゃるのでしたら」


屍河狗威は、ドアを開けて、廊下へと出た。

その後ろに、阿散花天吏もついていった。





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