暇な日常①

妃龍院家での宴は無事終わりを迎えた。

しかし、次の日は憂鬱な気分になっていた。

屍河狗威は大きく口を開けて欠伸をした。

その間抜けな表情とは裏腹に、周囲の生徒たちは視線を逸らす。


「(眠…寝ていいか?)」


屍河狗威はそう思いながら、目を擦りつつ授業に参加する気概だった。

この学園の生徒たちが、一番の不良とは誰か?と質問すれば、百人中百人が、屍河狗威の名前を出すだろう。

不良の代名詞と言えば、彼の名前が挙げられる。

それ程までに、屍河狗威と言う存在は、周囲の人間から恐れられていた。


「(ノートもきちんと取らねぇとなぁ…面倒臭いわ)」


机に肘を突いて頬杖をしている屍河狗威。

そんな彼は、欠伸を再び噛みしめながら睡魔との闘いをしていた。

チャイムが鳴る。

朝一番、教師が教室へ入ってきては挨拶を行う。

挨拶をした後。


「突然の事だが…転校生を紹介する」


突然の教師の言葉に、周囲の生徒たちは騒然とする。


「え、急に?」

「お前知ってたか?」

「いや、知らねぇよ…」

「女子生徒だと良いなぁ…」


屍河狗威以外は、全員の生徒が転校生の話で持ち切りだった。

当の本人、屍河狗威は、話を聞く気すらなく、白目を剥いて居眠りをしていた。


「   学園からやってきました」


しかし。

何処か、聞き覚えのある声に屍河狗威の意識は次第に浮上していく。


「(あ、んれ?…この声、いや、まさか…)」


ゆっくりと目を開く屍河狗威。

ぼやけた視界の中。

ピントが合うと、彼女の姿を確認した。

そして。

屍河狗威は目が覚める衝撃と共に立ち上がった。


「ば、あッ、な?なんでッ!?」


驚き、屍河狗威は声を漏らす。

見覚えのある顔だった。

だから、屍河狗威は、素っ頓狂な声を荒げてしまった。

周囲の生徒が、何事かと、屍河狗威の方を見た。

彼ら生徒たちにとっては、屍河狗威と、彼女の関係性など何も知らない。


「なんだ?」「知り合いか?」「え、あんな綺麗な子と?」


様々な憶測が飛び交う中。

おほん、と、教師は咳払いをすると、生徒たちは静まり返った。


「では、自己紹介をお願いしようか」


そう言われると、彼女は杖を突きながら、チョークを使って文字を記していく。

小気味良いチョークが削れる音を響かせながら、彼女は名前を記入して改めて生徒の方に振り返る。


「はじめまして、阿散花、天吏と申します」


上品なお嬢様の様に、軽く会釈をして挨拶をする。

天使の様に美しい笑みを浮かべれば、男子生徒の心は一瞬で射抜かれた。


「貴方がたとの会話は生産性も将来性も無いので、無事に学園生活を送りたい場合は、私に話しかけない事をおすすめします」


と。

他者を見下す彼女だからこそ出て来る言葉で、周囲の生徒たちは声を失うのだった。


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