待ち望んだご褒美①
宴は夜中まで続く。
多彩な料理が運ばれ、芸者が躍り、酒を飲み干す。
騒ぎが苦手な者は外で静かに宴を楽しみ、時間が経つに連れて脱落していく者が多かった。
そして、屍河狗威は空気の熱から離れ、一人、夜の道を歩いていた。
と言っても、妃龍院家の敷地内である。
屍河狗威は、空を見上げながら、これまでの事を考えていた。
「(早いモンだな…)」
二月頃。
真冬の時期に、妃龍院竜胆と出会った。
其処から、幽刻一族との戦いが始まった。
二週間を過ぎて、彼は術師としてこの世界へと入った。
三月頃、術師としての修練を積み、妃龍院家に属する。
外部からやって来た爪弾き者。
そう言われた屍河狗威は、実力を示す為に術家を単騎で滅ぼした。
四月頃、改めて報奨を与えられ、屍河狗威は褒美として嶺妃紫藍を抱いたのだ。
其処から先は激動だ。
四月中に阿散花家との戦い。
五月頃には、土塊紅家との闘争。
半年も経たぬ間に、屍河狗威の存在価値は二十七億四千万に至った。
「(あと…どれ程の術師の家系を潰せば良いのかは分からんが)」
確実に進んでいると実感出来る。
妃龍院家を王にすると言う役目。
その目標が達成出来ると、屍河狗威は確信していた。
「(俺が…この戦いを、終わらせる、そうしたら)」
そうすれば。
悪意に満ちた手に犯された彼女が、震えなくても良い世界が待っている。
「竜胆…」
妃龍院竜胆。
彼女の名前を口にして、彼女の顔を思い出した。
ことの発端。
屍河狗威を術師の世界へ引き入れた少女。
その存在は、今となっては屍河狗威の中では大きなものとなっている。
「(どんな手、使ってでも…俺が終わらせる…と、思ってんだけどなぁ…)」
けれど。
屍河狗威の心の内には、あまりにも大切なものが多くなった。
自分自身を犠牲にしていけば、術師戦乱の世を平定する事など容易。
しかし、それを止めてしまったのが、嶺妃紫藍だった。
自分を喪う事すら厭わない自己犠牲を、想い踏み止まらせてくれた彼女。
彼女が自分の為に叱ってくれるのならば…もう少しだけ、我儘な自分で居たいと思ってしまった。
術理を使役しないのは、それが一つの理由でもあった。
「(…迷う事なんて、ねぇと思ってたのに)」
嶺妃紫藍の存在が大きくなっている。
その事を自覚した最中。
「…んあ?」
屍河狗威は、何か違和感を覚えた。
それは、暗闇の先から、手招きをする白い手が見えたからだ。
何も考えず、屍河狗威は歩き出す。
白い手の導く先へと移動した時。
其処で、屍河狗威はある人物と出会った。
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