新しい役職②

妃龍院憂媚の決定事項に、屍河狗威は隣にいた仮染貂豹に耳打ちをした。


「…仮染、代理戦争代表者の役職ってなんだ?」


何も分からない屍河狗威に対して術師という業界に長年勤めている仮染貂豹は補助役として話し出す。


「戦争が勃発する際、戦争の方法を定める事がある」


基本的に術師の戦闘は一対一ではない。

ほとんどの戦いは大人数を巻き込んでの集団戦だった。


「軍勢での総力戦か、少数による戦闘」


自分の兵力を持って敵を叩き潰す。

そういった戦いの他にも代表を選んで少人数で戦争をする代理戦争というものがあった。


「主に、被害や消耗を最小限に抑える為に、その領地の代表として戦をする者だ」


規模が違ってくると戦争のやり方やルールが事細かく変わってくる。


「簡単に言えば、将棋からまるばつゲームになった様なもんだ」


実に簡単に仮染貂豹は説明した。


「はァん…で、俺はそれに選ばれたってワケか」


屍河狗威は代理戦争の代表者として選ばれた。

その役職を妃龍院憂媚本人から与えられたのだ。


「代理戦争ってのは、領土所有者の精鋭が参戦出来るもんだ」


時に少数規模の代理戦争で一族の運命を決めることもある。

かなり重大な役職であり屍河狗威はそれを任されたということだ。


「それを役職付きって事は、その領地にとっての顔、旗持ちみたいなもんだぞ」


責任重大な役職である。

力しか取り柄のない男にとっては少し苦が重いだろうと仮染貂豹は思った。

しかし彼の杞憂に対して屍河狗威は鼻で笑う。


「そりゃあ、俺に相応しいじゃねぇの」


実に豪胆なことだった。

その余裕は傲慢さえ思える。

しかしどこか安心感を感じるので心配すること自体が杞憂だと仮染貂豹は思った。


「簡単に言いやがる」


なので心配などする必要はなかった。

妃龍院憂媚は話を続ける。


「役職は無論、大将じゃ…妃龍院家の剣として、矛として、刃として、全霊を尽す事を期待しておるぞ」


その言葉にやはり周囲の人間はざわついた。

その声が驚愕なものだと悟ったために再び屍河狗威は仮染貂豹に話を聞く。


「大将って?」


仮染貂豹はこの男がわざと聞いているのではないのかと思った。

白々しく説明を求めている。

そうすることで優越感を覚えているのではないのかと。

少し説明を求められた以上は仮染貂豹は答えるほかなかった。


「…代理戦争代表者が、誰を戦争に参加させるかの権限、つまり、代理戦争の統括者」


代理戦争が発生した場合どのようなメンバーで相対するかそれを決めることができる。

代理戦争での大将としての役職は家系の中でも上位に組み込むほどの大役だった。

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