新しい役職①


数時間後。

祝いの場へと招かれる三人。

妃龍院家の術師が多く陳列し、その表情は多種多様。

不機嫌そうな表情をしていたり、怒りを浮かべている者もいる。

それもそうだ。

屍河狗威は他所からやって来た術師。

彼らにとっては、当主から異常に寵愛を受ける存在。

疎ましく思うのも仕方が無い事だった。


「坊、此度の査定会では、他の者よりも上位に食い込む結果と聞いておる」


鼻高々と、妃龍院憂媚が屍河狗威に対して言った。


「家臣でありながら胡坐を掻く者達にとっては、良い気付け薬となったろう」


周囲を見回す。

殆どの老臣達に対しての目。

それは、地位に胡坐を掻く者に対して侮蔑の目でもあった。


「ぐッ…」

「おのれ…屍河狗威…」


戦争を毛嫌う穏便派たちは、戦争を行う屍河狗威と比較されて嫌悪を抱いていた。


「さて、それに応じて、いち歩兵として最前線へ向かい続けたが…それなりの役職に就かねば、坊の箔も付かんじゃろう」


二十七億四千万と言う存在価値。

これに見合う地位と役職が無ければ、屍河狗威と言う存在が舐められてしまう。

しかし、屍河狗威はあまり、出世に興味は無かった。


「いやいや…俺は妃龍院家の先陣を切りたいだけなんで」


役職が上がれば、戦闘を行う機会が少なくなってしまう。

だから、出来るだけ、戦闘が出来る地位であり続けたいと思っている。


「俺は、妃龍院家を王にする、その為に、俺は万人の敵を斬る劔となりたい、無敵の城を貫く矛となりたい、妃龍院家の為に、俺は全力を尽くしたい…そう思っています」


屍河狗威は、妃龍院家を王にすると言う使命がある。

そのために、妃龍院家以外の全ての術師を蹴散らし、玉座を空にする。

それが、屍河狗威が術師になった理由だった。


出世欲なく、ただ、妃龍院家の為に活躍する屍河狗威に、惚れ惚れとする妃龍院憂媚。


「あぁ…愛い愛い、坊の爪の垢を煎じて、他の者に呑ませてやりたい」


しかし、屍河狗威にも、役職を与えたいと思う妃龍院憂媚。


「城か、人か…」


その様に呟くと、近くの老臣達が反応した。


「(何処か空いている領土でもあると言うのか?)」

「(こんな男に着いて来る男など居ないだろうに)」


領地を与えようにも、他に空いている領地は無い。

屍河狗威と言う異端について来るものもまた居ないだろう。

妃龍院憂媚は、一度口に出して、しかし考え直す。


「しかし、最早、坊にはそれすらも狭いものじゃろうて…ならば」


屍河狗威の戦闘欲を満たす役職を用意する。


「ならば、特別な役職を、今こそ…代理戦争代表者の役職を授けようぞ」


その言葉に反応する老臣たち。


「馬鹿なッ!!」

「それはッ」


それは有り得ないと言いたげの騒ぎだった。

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