他勢力②

港湾。

巨大倉庫。

『殴堕星』の本拠地。

単車のライトが外側を照らす。

スーツを着込んだ男が倉庫へと足を踏み入れていた。

第四位、黄河遠進什饗である。

彼は、第五位である機士杖祿謳と会話をしていた。


「おいおい!!この俺、黄河遠家と同盟を組もうと言ってるんだ」


彼の目的は同盟である。

機士杖祿謳の力を借りて、より上へ目指そうとしていた。


「本当なら、この俺が第三位に入る筈だったのに…あの、何処の馬の骨かも分からない奴…屍河狗威のせいで、俺の箔に傷が付いた」


彼は屍河狗威を怨んでいる。

賄賂を行ったのに、それでも自分よりも上がいる。

墜神、一刀締ならばまだ分かる。

だが、それ以外の者が、実力で評価されるなど間違っていると。

故に、その座を引き摺り下ろす事が、黄河遠進什饗の狙いだった。


「お前も、あの男がいなかったら順位は繰り上がっていた、その存在はより脅威なものとして目に映っただろう」


機士杖祿謳は何も言わない。

レザージャケットを着込み、ワイルドなリーゼントをした髪を、折り畳み式のチタン製コームを使って髪を整えている。


「…」


何も言わず、ジッと、黄河遠進什饗を見ている。

逆に黄河遠進什饗はよく口が回っていた。


「機士杖、俺と共に、先ずはあの忌々しい屍河狗威を引き摺り下ろそう、奴を殺せば、評価は見直される、当然、奴以上の実力として評価に反映される」


下手をすれば、第一位になる事も夢では無い。

そうなれば、他の勢力に対して重大な牽制となる。

その地に黄河遠家あり、攻め入る気すら失せるだろう。


「心配するな、やり方次第で、奴の評価を落とし、大義名分による戦争にまで持っていけるッ、俺についてくれば、悪い様にはしない」


全ては自らの手中にあり、と言いたそうだった。

そして、黄河遠進什饗は周囲の人間に高らかに声を荒げて言った。


「なんなら、お前の兵隊たちも、好待遇で迎え入れよう、幾ら払っている?それよりも高い値段で俺が雇ってやるッ!!」


更に戦力を増強出来るのならば一石二鳥。

自らの魅力は十分に伝えた所で、彼は黄河遠進什饗に手を差し出す。


「さあ来い!!機士杖ッ!!」


何も発さなかった機士杖祿謳。

チタン製コームを、両手を使って折りたたむと、心底退屈そうに言った。


「…ガチで、つまんねぇよ、お前」


それは交渉失敗を意味した。

タイヤを積んだ椅子の上から降りる。

かつん、かつんと音を鳴らしながら歩き出す。


「俺らの仲間は金では動かねぇ、大切な仲間たちだ」


ただ羽織っていたレザージャケットを改めて着直した。


「上から目線で語り掛けてくるのも耳障り、存在自体が鬱陶しくて目障り」


マッチを取り出す。

煙草を咥えて、火を点すと、天を仰ぐ様に顔を天井に向けて、一服した。


「何よりも」


紫煙を吐くと共に、まだ喫える煙草を指で弾いた。

地面に落ちる煙草、火の種が地面に衝突して散っていく。


「お前の話じゃ、俺の魂が揺さぶられねぇよ」


機士杖祿謳の言葉に、叫ぶ黄河遠進什饗。


「な…し、下手に出れば、なんだその言い様はッ…俺は、十大流王、黄河遠家の次期当主なんだぞッ!!」


「お前が誰だろうが知ったこっちゃねぇが…喧嘩がしてぇのなら話は別だ」


人差し指を黄河遠進什饗に向ける。

人差し指を折り曲げて、挑発的なジェスチャーをした。


「来いよ、第四位、お前の話が本当なら、お前を斃せば俺はお前より上って事になるんだろ?」


確実に、格上に勝てると言う挑発。

…それに、黄河遠進什饗はまんまと引っ掛かった。


「舐めるなァ!!」


叫ぶ黄河遠進什饗。

機士杖祿謳との戦いが勃発した。



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