査定会①

その後。

土塊紅家との戦争から一週間ほど。

創痍修家の創痍修略摩の仇討ちが認可。

これにより土塊紅家の討伐後、創痍修略摩に功績が入る事となった。



二人が屍河狗威の部屋に入って来た。

彼は彼女達を見ながら頭を掻いている。


「…は?」


聞き慣れない言葉に対して彼は首を傾げて聞く。

すると、阿散花天吏が彼の疑問を答える様に説明を行う。


「中立にある術師協会には、十老衆と呼ばれる審査機関があります」


術師協会。

登録されている術師の情報は、組織によって管理されている。

表向きは術師の監視だ、政府が懇願し、一般人を巻き込まない様にと懇願され、その約束を一応は守る体裁を保っていた。


複数の機関の内、審査機関と呼ばれる組織は、術師と言う存在、その価値を定める為に必要なものだった。


「其処では戦争によって活躍した人物を中心に評議が行われ、術師の評価が行われるのですが…その実力、功績、脅威、十人の査定者によって、存在価値を現在の貨幣価値として計算すると言うものです」


過去、戦国時代の頃には、術師の存在価値は石高で表す事が多かった。

それが現代になった事で存在価値の推定額は日本円換算する様になっていた。


「術師同士での戦争が勃発し、活躍した術師の存在価値の審査をする…例えば、私の現在の存在価値は総額で『十億二千万』です」


通常、術理を持たない流力のみの術師であれば『約五百万』、術理持ちで『約一千万』となる。

其処から、術師としての等級が上がればその分、術師としての価値が上がる為に価値は上昇する。

彼女の十億と言う値段は、術理持ちの術師が一千万だとすれば、その百倍、上澄みと言っても良いだろう。

しかし、屍河狗威はイマイチ、阿散花天吏がどれ程凄いのか、ピンと来ていない様子だった。


「…それ凄いのか?」


当然。

阿散花天吏はそれを読んでいた様子だ。

隣に立つ嶺妃紫藍に向けて話題を振った。


「では…失礼ですが、嶺妃さん、貴方はどれくらいでしょうか?」


彼女の存在価値を聞いた事で臆したのか、彼女は答えるのを渋っていた。


「…えん」


視線を逸らしながらか細く伝える。

彼女は聞こえてないのか、耳を嶺妃紫藍に傾けた。


「はい?」


耳を向ける。

彼女は渋った。

だが、口を開き大声で告げる。


「…ッ『六億四千五百万』、だッ」


それが、嶺妃紫藍の存在価値。

阿散花天吏よりも低い値段。

耳にして、阿散花天吏は思わず。


「…ぷふ」


頬を膨らませて笑った。

無論、聞き逃す様な真似はしない。

憤りを覚える嶺妃紫藍。


「…なんだその含み笑いは」


睨みを効かせる。

しかし、彼女は畏怖しない。

むしろ、嘲笑うかの様に眼を細めた。


「いえ…失礼を、…十数年生きて来て、まさかその程度とは思わず…ふふっ」


阿散花天吏ですら、術師として生きて来て、多くの功績を得た。

その結果、彼女の存在価値は十億と言う額を叩き出したのだ。

屍河狗威の所有物として、格が低い彼女だが、こういう時だからこそ、マウントを取って自尊心の回復をしていたのだ。


「…イヌッ」


冷めた声色。

それを聞いた屍河狗威は頷く。


「あー…はい、おら、尻出せ尻」


手のひらを伸ばす。

軽く素振りをしながら立ち上がる。

阿散花天吏の臀部を手のひらで叩こうとしていた。

表情を強張らせる阿散花天吏。


「ちょ、ちょっと待って下さいッ、ま、まだ話は続いてますッ」


少しでもおしおきから逃れようと、彼女は話を続けた。


「わ、私や、嶺妃さんの様に、審査会では百万、最高でも一千万単位で価値が変動する事があります、それは、術師としての評価は緩やかな勾配でやや上位に昇るのが基本なのですが、功績が凄まじいと、億単位で上昇する様になっています、例えば、術師の戦争で単騎で征した、など…そのような人材はあまり見た事はありませんが…」


術師と小競り合いをした。

領土を交渉で増やす様な事をした。

その程度の積み重ねで、今、彼女達の存在価値は形成されている。

だから、一気に億を稼ぐ術師は年に一人か二人、出現すれば良いのだが…今年はどうやら、豊作であるらしい。


「あー…(そういや、幽刻一族…いや、あれは術師の頃じゃなかったし、除外されんのかね?)で、その存在価値?俺は幾らだったんだよ」



屍河狗威は、大して期待せずに自らの存在価値を聞くのだった。

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