花掠る
嶺妃紫藍は自分の荷物だけを自分の部屋へと持っていく。
「おーそれ、俺の荷物、その部屋に運んどいて」
屍河狗威は自分の荷物を他の召使いに運ばせようとしていたが。
「おい…イヌ」
と思っていたが嶺妃紫藍が握りこぶしを作って屍河狗威の後ろに立っていた。
げんこつが屍河狗威の頭に沢山のたん瘤を作りながら屍河狗威は自分の部屋に荷物を置いていった。
「…お?そろそろ時間か」
屍河狗威は時計を確認してそろそろ時間だと思った。
引越し奉行の役割をしている嶺妃紫藍の方に寄って行く彼女に話しかける。
「紫藍ちゃん、そろそろ阿散花の姫さん、連れて来るわ」
そろそろ天使の引き取りに行く時間であった。
嶺妃紫藍は周囲を見渡す。
「そうか、もうそんな時間か」
嶺妃紫藍はそう言って額を拭う。
汗で濡れた体を衣服で拭いながら彼女は言った。
「貴様、寄り道はするなよ?」
彼に対してそう言った。
その言葉に屍河狗威は困り眉を浮かべながら彼女に言う。
「しないよ、俺をなんだと思ってんのさ」
心外だと彼は思った。
何故ならば、屍河狗威は遊びに行こうにも金がない。
全ては、嶺妃紫藍によって財布を握られているのだ。
だから、寄り道をしようと思っても出来ない。
彼女は暫く、屍河狗威の顔を見る。
顔を見られていると認識した屍河狗威はこれまでにない程のキメ顔をしたのだが。
「最低の屑野郎」
彼女は眉を顰めながら屍河狗威を罵った。
まあ当然だと、屍河狗威は特に気にする様子も無く頷く。
「…否定はしないけどさ」
一悶着。
早々と流れを終わらせる為に嶺妃紫藍が手首を使い上下に払った。
「ほら、さっさといけ」
此処にずっと突っ立っている方が逆に時間の無駄だと言いたげなジェスチャー。
それを受けて屍河狗威は二つ返事で頷いてその場から一旦離れるが。
「忘れてた…紫藍ちゃん」
「なんだ、貴様…」
今度は何の用かと思いながら屍河狗威を見た。
そして、彼は嶺妃紫藍に向けて掌を向ける。
それが一体、何を意味しているのか、彼女は一瞬分からなかった。
「なんだ、この手は?」
彼女の言葉に対して、屍河狗威はにへら、と笑みを浮かべて言った。
「いや…お金、俺、金ないからさ、交通機関使いたいなぁ…って」
「…乗り物は?」
「タクシー」
「馬鹿か貴様ッ、そんなものを使うな贅沢なッ!ほら、千円だけくれてやる、電車で行って来い!!」
尻を蹴飛ばされる勢いで、屍河狗威を送り出した。
屍河狗威は、千円札を握り締めた状態で、阿散花天吏を迎えに行くのだった。
交通機関・電車を使って彼は屍河狗威は阿散花天吏を迎えに行く。
阿散花天吏が収容されているのは捕虜施設だ。
街の中央には中立組織が存在する。
情報機関・代理戦争管理局・武器売買店舗。
その内の一つの機関が、捕虜私設だった。
捕虜収容所に職員に声を掛けて施設内へ入る。
簡単な書類等に記入した末、収容されている捕虜を確認。
「あぁ、これだこれ」
役員が持って来た収容者の名簿から、屍河狗威は阿散花天吏を指名する。
すると扉が開かれる。
更に奥へ行けとの事だ。
厳重なセキュリティだった。
屍河狗威は収容所の中へと入っていく。
廊下へと進んでいき、屍河狗威は待合室で待機をする。
部屋の中の中央には隔たりがある。
彼から見れば隔たりの先は捕虜の世界。
捕虜から見れば、隔たりの先は娑婆である。
「(プラスチックか、簡単に出れそうだな)」
そんな事を考えながら透明な壁を見詰めていた矢先。
収容所側の扉が開き待合室から出てくる阿散花天吏。
杖を突きながら屍河狗威の方に顔を向けて苦言を漏らした。
「貴方ですか…ッ」
眉をしかめた表情を魅せつける。
屍河狗威は彼女に向けて体を伸ばす。
そして彼女の首元につけられた首輪を指先でこする様に触った。
その首輪は主従関係の象徴だ。
阿散花天吏が屍河狗威に叛旗を翻す可能性がある。
なのでその首輪を装着させる事で、ある程度の自由を制限させる事が出来る。
そしてその首輪は特別制だった。
屍河狗威の手に対して彼女は首を左右に振って屍河狗威の手から逃れようとする。
「やめてください」
まるで懐いていない猫の様な仕草に屍河狗威は思わず笑みを綻ばせてしまう。
「いいね、その反抗心、なんというか、興奮するわ」
彼の厭らしい表情を見た彼女は嫌悪感を表す。
「…最低」
吐き捨てる様に彼女は彼に向けてそう言った。
屍河狗威に対する印象は最悪だった。
彼女は屍河狗威に犯された存在だ。
無理やりに純潔を奪われている。
「私はあなたを許しません…絶対に、私を破瓜させた恨みを、何れ報いを受けさせます」
彼女の恨みの乗った声に、しかし屍河狗威は鼻で笑う。
「ご主人様に対して随分と強気じゃねぇの。その自尊心が何処まで続くか…へへ」
屍河狗威は阿散花天吏の嫌がる表情を見て嬉しそうに笑う。
やはりこちらの方が性的に興奮する様なものだ。
こういった生意気な女性を襲って無理やりにでも乱暴したいと思える。
端から自分に好意的且つ肯定的な人間は信用ならなかった。
彼もまた難儀な性格をしていた。
色々の手続きを済ませて、阿散花天吏の譲渡が完了する。
屍河狗威は阿散花天吏を連れて収容所から出ていく。
書類関係を記入していたので、屍河狗威は軽く伸びをして、息を漏らした。
「あー…終わった」
面倒な書類を屍河狗威は二度とやりたくないと思った。
「(どうせなら嶺妃を連れて来て書類関係をやらせれば良かったな…あぁ、失敗したぜ)」
そんな事を考えながら、屍河狗威は後ろを振り向いて、阿散花天吏の方に顔を向けた。
「さてと…んじゃあ取り合えず」
屍河狗威は早速阿散花天吏に向けて手を向ける。
彼の手に対して、阿散花天吏はこの手が何なのかを聞いた。
「…なんですか、この手は?」
阿散花天吏は屍河狗威のその手に対して一体どの様な意味合いを持つのか理解出来なかった。
「お手でもしろとでもいうんですか?ご主人様に対して都合よく尻尾を振るイヌの様になれとでも?とんだ浅はかさですね、知性も感じられない、野蛮な人間が、相手を屈辱を与えるとすればどうするかと言われてイヌの仕草をやらせる様なもの、本当に浅はかですよ貴方は」
鼻で笑う彼女に対して、全然違うと屍河狗威は言う。
「それが本当だとしたらお前は察しの悪いイヌだな」
阿散花天吏を馬鹿にする。
察しの悪い彼女に屍河狗威はその手の意味を口にする。
「金だよ金。お前、財布とか取り上げられたの、出て来た時に返して貰ったんだろ?お前の財布は最早俺の財布だ、ほら寄越せよ」
屍河狗威は現在無一文である。
なので基本的には誰かからお金を無心していた。
捕虜である人間は、施設に入る前に所持品を保管される。
外へ出て来た事で、彼女の身の回りの所持品が還されたのだ。
だから、彼女が持っているであろう財布を、彼は無心した。
「ッ本当にッ、最低ですね貴方ッ、女性から財布を巻き上げておいて、何とも思わないんですかッ!?」
阿散花天吏はありえないと言いながらも自らのポケットから財布を取り出して屍河狗威に渡す。
屍河狗威は財布を受け取ると、即座に中身を確認した。
「いち、にぃ、さん…ははッ、十二万も持ってんのかよ、ブルジョワだなぁオイ、俺がありがたく使ってやるからよ」
彼女の頭に触ろうとすると、阿散花天吏は顔を背けてその手を回避する。
「一応は、主従関係は貴方が上ですが…、馴れ馴れしく触らないで下さい。貴方の命令に体は拒否出来ませんが…私は最後まで、言葉で反論しますので」
「おお、言うじゃねぇの」
無理矢理、彼女の頬を掴むと、親指で阿散花天吏の可愛らしい薄桜色の唇をなぞる。
「罵倒も出来ないくらいに喘がせてやるからよ」
「さい、ていッ」
嫌悪感を露わにする阿散花天吏。
彼女の口に手を離して、屍河狗威は彼女の尻を手でたたく。
「きゃッ」
彼女は自分の臀部をスカートの上から抑えた。
「ほら行こうぜ、俺が奢ってやるよ、帰りは電車だ」
「本当に最低、最低…最ッ低!」
可愛らしい悲鳴を上げて阿散花天吏は屍河狗威を睨みながら何度も何度も最低と叫んだ。
屍河狗威は彼女の嫌悪感を心地よく感じながら駅へと向かった。
「ほら電車だ、乗ろうぜ」
「普通は車ですよ…術師の重要人物なら、民間が使うような乗り物は絶対に使いません」
阿散花天吏の送迎は基本的に自家用車だった。
しかし、屍河狗威は其処まで重要な人間じゃない。
「俺は功績が凄いだけの元一般人だからな、必要無いんだよ」
「こんな人間に…私は負けたのですか?…誇りも血筋も無い野蛮に人間に、私の体は」
おぞましいと言いたげに、苦痛の表情を浮かべる。
屍河狗威は彼女の嫌そうな顔を見て嘲笑う。
「なら野蛮人に負けたお前はそれ以下って事だ」
最大限の侮辱を口にしながら、屍河狗威たちは電車を使って移動する。
下校時間と重なっているのか学校終わりの学生や社会人が電車に乗車していて満席状態だった。
「人が多い…だからこんな所、嫌なんです」
ギュウギュウになりつつある電車の中。
屍河狗威は周囲を見回しながら言った。
「立往生だからな、あ、優先席あるぞ?」
阿散花天吏は足腰が弱いので優先席を使うかと屍河狗威は目配せする。
「なんですか、私よりもお年寄りの方に渡すべきでしょう、私には必要ありません」
阿散花天吏は馬鹿にするなと言った具合でそっぽを向く。
「はぁん…」
その反抗的な態度に屍河狗威は嗜虐性を刺激される。
吊り輪を掴んでいる阿散花天吏と屍河狗威。
嶺妃紫藍紫藍の家まで電車を使用して15分程だ。
それまでの間暇なのでスマホでも使って時間を潰そうと思ったが、せっかく屍河狗威の隣には阿散花天吏と言う美少女がいる。
「…ははッ」
暇つぶしに彼女にちょっかいを出す事にした。
「え…あ?にゃッ?!」
彼女の体を布越しから触る。
違和感を覚えた阿散花天吏は即座に屍河狗威が触っていると確信して彼に向けて目を細めて睨んだ。
「何を、しているんですか…あなたはッ」
恥じらいを覚えて顔面を赤くする阿散花天吏。
そんな彼女を見てもっとイジメたくなると思った屍河狗威は彼女の体をもっと弄り始めた。
「別に、弄ってるだけだけど?」
平然とした態度を取る屍河狗威。
電車が動いている間、揺られながら彼女を弄りまくる。
「ん、っあ、ふっ…んんっ」
上ずった声が漏れ出す。
屍河狗威の手は緩めることなく加速していく。
誰かに見られるかも知れないと言う緊張感、指先によって得られる快楽。
「わっ。私が…ここで、声を荒げたら、貴方、終わりですよ?」
「やってみろよ…その時は、裸にして公然プレイにしてやる」
「っ!っ本当に最低ッ」
彼女は我慢するしかなかった。
屍河狗威が満足するまで、必死になって吊り輪を掴みながら、快楽に耐え続ける。
指先が離れる、屍河狗威の指先には蜜が付着していた。
「あーあ、汚ねぇな…」
彼女が反抗するべく術式を使用したのだろうか。
屍河狗威の指に付着した蜜を、彼女の口元に近づけて突っ込んだ。
「んあッ、がっ…」
「お前が汚したんだから、お前が綺麗にしろよ?」
屍河狗威の指先は、彼女の唾液にによって濡れていく。
そうこうしている間に、電車が目的地へと到達した。
「もう時間か、意外に早かったな…」
「ん、ちゅっ…んん」
指先を舐め取る阿散花天吏。
屍河狗威は彼女の口から手を引っ込める。
「おら、行くぞ」
「っ、どこまでも、人を道具みたいにッ」
屍河狗威は阿散花天吏を使って思う存分楽しんだ後に電車から降りる。
向かう先は嶺妃の屋敷…ではない。
電車は反対方向に動いていた。
彼はそれを知って乗車したのだ。
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