花、蹂躙
「なんですか?随分と遅い登場ですね?もしかして出番を伺っていたとかです?可愛いですね」
そう言いながら、男子生徒に視線を向ける。
複数の男子生徒の内、嶺妃紫藍を拘束する二名の男子生徒を除いて、阿散花天吏を守る様に男子生徒が前に立つ。
「余程、彼女が大事みたいですね?なら大人しく殺されて下さいよ…じゃないと、彼女がどうなるか、分かりますよね?」
男子生徒の一人が嶺妃紫藍に手を出す。歯を食い縛り、嶺妃紫藍を声を漏らさぬ様に必死だった。
阿散花天吏は嶺妃紫藍が我らの手にある限り、手は出してこないだろうと高を括っていた。
だが…屍河狗威は歩みを止めない。
「お前さぁ…なんというか、哀れっつうか、本質を理解してないっつうか…まあ、俺が言える事があるとすればよ…ヤりたきゃヤりゃあ良いじゃねえか」
人質などどうでもいいと言った具合に、屍河狗威は指を鳴らしながら悠然と歩く。
阿散花天吏は鼻で笑った。
「はっ…強がりですね、いえ、もしかして、本当に見捨てるつもりですか?…それも良いでしょう、彼女の泣き叫ぶ声を聞きながら後悔すると良いのです!!」
それは違う、と屍河狗威は告げる。
「前提が間違ってんだよ」
屍河狗威は、術師である阿散花天吏を残念そうな視線を向けながら言う。
「俺も、嶺妃も、一般人の思考回路じゃねぇ…術師だ。殺す事に途惑わない、殺される事に恐れない、犯す事に躊躇しない、犯される事に嘆かない、既に精神は達観してんだよ…だからヤればいい、俺も好き放題にヤるからな…ただ、そうだな」
屍河狗威は、阿散花天吏に指差す。
「お前が止めようが、逃げようが、降伏しようが、泣いて媚びようが…俺はお前を犯す事にした、絶対にだ。衣服破いて惨めに犯して小便引っかけてやる」
「ッ…」
殺意すら過らせる視線に、阿散花天吏は一歩後退させる。
己が恐れている…この男に対して、畏服してしまいそうな感情を帯びる。
「…ふッ、やっぱり強がりですね、その言葉は、裏を返せば、彼女を傷つけなければ手を出さないと言う意味じゃないですか」
「言葉をちゃんと聞いとけよ、都合の良い様に俺の言葉を変えんじゃねぇ」
男子生徒たちが、屍河狗威を睨む。
「(彼らは他の生徒とは違う、私の蜜を与えた強化された術師、騎號級に相当する実力を持つ…負ける筈がありませんッ)」
屍河狗威は自らの流力を体に巡らせる。
同時に、流力を衣服の様に体中に纏わせる。
「さて…じゃあ、一丁、暴れてやるよ」
そう屍河狗威は宣言した。
地面を蹴る。
屍河狗威の脚力によって勢いよく疾走する。
「真正面からとは率直…いえ、愚直ですね、貴方たちッ!!」
殺せと命令された男子生徒達が掌から木の枝を生やして立ち向かう。
まず向かってくる男子生徒が3名。
屍河狗威は流力を強化した状態で男子生徒が刺突を繰り出そうとしたその一撃を上半身を動かして回避する。
握り拳を固めた腕を大きく振り上げて男子生徒の首に向けて振るい、なぎ倒す。
「ら、おらァあッ!!」
ラリアットだった。
攻撃を受けた男子生徒は太い木が折れるような音を鳴らして地面に叩きつけられた。
どうやらその一撃で首の骨を折ってしまったらしい。
他の男子生徒は指先から蔦を伸ばす。
屍河狗威を拘束でもしようと思ったのだろうか。
それに反応した屍河狗威は避けずに蔦を片手で掴む。
体を翻して蔦を掴んだ手を思いっきり引っ張る。
男子生徒の体は下に引っ張られて空へと放り出される。
尋常ならざる膂力だ。
歴戦の戦士…流力に熟練した術師でもこれ程の力を保有することは難しいだろう。
まだ術師として生まれて半年も経っていない赤子同然のような存在。
しかし持ち前のセンスと天賦の才能が屍河狗威を術師として開花させた。
並みの術師ならばその境遇を哀れだと言いながらも内心では嫉妬してしまうほどの潜在能力を持つ。
彼を術師にした妃龍院風姫は彼をこう呼ぶ。
『比類無き神童』屍河狗威、と。
複数の技術を相手にしていながら彼自身はまだ術式すら使用していない。
「…ッしッ」
男子生徒を悉く薙ぎ倒す。
その死角から阿散花天吏が操る蜂が針で突き刺そうとするが、屍河狗威の拳が当たると同時に潰れ、蜂の体液が屍河狗威の手に付着した。
「(そん、な…馬鹿な事が、あり得ない…ッ私の、精鋭の兵隊…更に加えて、蜜で強化しているのにッ…少なくとも騎號級が複数体、なのに、悉く打ち破っている、そんなの、絶対に、あ、ありえないッ)」
阿散花天吏は次第に焦り出す。
蜜によって強化された術師たちが、まだ術式すら使用していない元一般人の半術師程度に圧倒されているのだ。
揺らめく流力を炎の如く纏う屍河狗威。
鬼とすら見えてしまう、彼の圧倒的な実力。
それを今、目の前で認識している以上、その実力は認めざるを得ないだろう。
だからこそ阿散花天吏が恐怖する。
屍河狗威が戦闘を開始する前に彼女に言っていた事。
『屍河狗威は阿散花天吏を絶対に犯す』と言う言葉。
その言葉は本当であり本心だろう。
少なくとも屍河狗威がこの軍勢を相手に圧倒しそしてその末に阿散花天吏を犯す程の力は宿しているのだ。
屍河狗威が阿散花天吏を犯そうとしている。
むちゃくちゃにして壊そうとしている。
「(嫌…嫌ッ、そんなの、冗談じゃないッ、私は、私が、他者を屈服させるべき存在なのにッ、私以外の誰かが私を屈服させるなんて、そんなのは絶対に認めないッ!!)」
彼女の心の内から嫌悪感が溢れ出す。
身震いをしながら額から脂汗が滲み出した。
だからこそ仕留めなければならない。
一族のためではない。
自分の保身のために屍河狗威は今ここで殺さなければならないと。
阿散花天吏は本能的に理解する。
「は、あああッ!!」
体中の流力を噴出させて阿散花天吏は蜂の群れを生み出した。
「刺し殺してッ!!」
蜂たちに命令するとともに男子生徒の隙間を掻い潜って屍河狗威へと飛んでいく。
屍河狗威は阿散花天吏が繰り出す蜂に対して忌避を覚えた。
未だ無傷の彼でも、その蜂の群れを相手にすれば傷を受けると確信した。
「そろそろ、行くぞ」
「っ!?」
屍河狗威の流力が肉体全体に駆け巡る。
術式を使う前にどうにか殺してしまおうと猛毒を蓄える蜂達が屍河狗威に針を仕向ける。
迫り来る蜂の群れを前に屍河狗威はなんと真正面から立ち向かっていく。
自らの力を放出させて見えない鎧と化しているから大丈夫だと思ったのだろうか。
「(舐めてくれるのならばそれで良い、流力の防御は噴水の様に放出して押し返す様なもの、使用し続ければ出力も弱くなる…お父様の術理で流力を吸収されている以上、耐久戦はあちら側の不利、何処まで続くか見物ですねッ)」
術式を使うと言っておきながらこの期に及んで流力操作だけで立ち向かう無謀さ微かな勝利を見出す。
だが…、蜂の針は屍河狗威には当たらなかった。
「なッ?!」
というのも弾丸のように垂直で飛ぶ蜂が屍河狗威に当たろうとした寸前にすり抜けてしまったのだ。
「(彼の術式は発動し、いえ…使っていないッ、肉体の動きで、素早い動きで、擦り抜けている様に見えている…)」
馬鹿な、と彼女は思った。
流力は肉体に循環させれば、その刺激によって肉体の動きを向上させる。
血流は活発になり、筋肉は膨張と縮小を繰り返し、皮膚は硬くなっていく。
流力を流せば流す程に、肉体は流力に適した肉体へと変わっていく。
謂わば鋼の鍛錬、叩けば叩く程に不純物が消えて硬度を増す様なもの。
しかし、長い時間を掛けねば到達出来ない武の極致。
それを彼は既に到達している、その様に阿散花天吏は認識した。
「(くっ…だからと言って、やる事は変わらない…肉体の強化は流力による効果による代物、消費し続ければ消耗し続ける…持久戦にもつれ込めば流力不足で私が勝つッ)」
全身を包み込むほどに膨大な力を放出すると肉体に疲弊が増していく。
だから長時間使用することはできない。
相手が能力を解除する瞬間を見極めれば蜂に蓄えた毒を注入し確実に殺す事が出来る。
そう思っていたが、突如として屍河狗威の姿が消える。
「き、消えッ(何処、何処に、ッ!?)」
「何時まで触ってんだ、てめぇらッ」
そして嶺妃紫藍を捕えている男子生徒2人を蹴り飛ばす。
振り向くと、嶺妃紫藍の元へと駆けていた。
余りの速さに、眼にすら映る事が無かった彼女は驚愕していた。
「ふッ、う」
彼女の体が屍河狗威の身体に密着する。
柔らかな感触が屍河狗威の腕と胸に伝わってきた。
「はぁ…はっ…あ、ああ…」
荒く息を漏らす嶺妃紫藍。
興奮していて顔を真っ赤にさせながら愛しく屍河狗威を見つめていた。
我慢できずに屍河狗威に口づけをしようとするが。
「悪いな、今日抱くのは、紫藍ちゃんじゃ無いからよ」
そう言って屍河狗威は彼女を抱きしめたまま遠くへと移動する。
「は…ははっ…や、やはり、俗ですね。私に術師のなんたるかを講釈しておきながら…やはり、彼女が惜しいだけだった様です」
苦し紛れに笑い声を上げる阿散花天吏。
遠くの方へと嶺妃紫藍を移動させると屍河狗威は憂いの感情もなくただ一心不乱にと殺意を阿散花天吏に向ける。
「ひッ」
阿散花天吏は思い上がりをしていた。
屍河狗威はずっと本気を出していなかった。
ずっとずっと彼女は舐められていたのだ。
「(屈辱的、逆上する筈、なのに…怒りすら、湧いてこない…睨まれるだけで、凄むだけで…闘争を、拒否してしまう)」
なんだかんだ言っても嶺妃紫藍のことを心配していた屍河狗威だが…、これでもはや何一つ心配することなく戦いに赴ける。
いやそれは戦いとすら呼べるものではない。
そこにはただ弱者を貪る強者の姿。
ただ蹂躙する様だけが描かれる他ない。
「(勝てる、筈がない、最初から、この、化け物にッ)」
本能的に勝てるものではないと屈服させられた阿散花天吏が行う行動は。
「ひっ、ぃ」
屍河狗威に背中を向けて杖をつきながら逃げ出す事だった。
矜持も役割も投げ捨てて、ただ一人の少女としてその場から消えようと必死になる。
彼女の力はもはや自分自身を生かす為だけに使用される。
「か、花弁散らし、甘き露を溜めては、蕩ける程の蜜を、満たし潤すッ」
阿散花大樹から供給される流力を放出。
将號級の彼女は、式神を召喚する事が可能だった。
「『
前足に伸びる二つの針。
口元からは黄金の蜜を垂れ流し、胴体が蛇腹の様に伸びて鋭い針を持つ巨大な蜂が出現する。
これが、彼女が使う最大級の技にして、全力の力だ。
これを、自分が逃げる為だけに展開させた。
彼女の式神が屍河狗威の頭へと向かう。
その大きな針で屍河狗威を突き刺そうとするが。
「何も解っちゃいねぇな」
既に見てきたであろう。
今更、物量の差によって覆る様な相手ではない。
相手は神童。
流力に愛された術師の申し子。
一撃、存分に込めた流力を駆使して、巨大な蜂を倒す。
「(む、りッ、無理っ、こ、こんな、のッ)」
潜在意識に刷り込まれる。
絶対的強者の姿。
一縷の希望をかけて生み出した式神ですら屍河狗威の足止めにすらならない。
杖を投げ捨てる。
屍河狗威に当てようとしたのだろうが、後ろを見ずに投げた為に明後日の方向へと飛ぶ。
足腰の弱い彼女は地面に膝をついて這いつくばるように逃げる。
けれどその状況で屍河狗威から逃げ切れる筈がない。
歩いて阿散花天吏の前に立つ。
涙を流して恐怖に顔を染める阿散花天吏。
屍河狗威が手を伸ばしたその時だった。
「…っ」
領土内で発生する流力の吸収が掻き消えた。
屍河狗威と阿散花天吏は阿散花大樹が討伐されたのだと察した。
「(そんな、あの、長い髪の男が、お父様を、嘘、じゃ、あ…完全に、私たちの、負け?)」
まさか彼女の父親が破れるとは思わなかったが。
当主がいなくなった今、彼女たちが戦う意味もない。
この瞬間を機会に阿散花天吏は降伏する事に決めた。
「ま、負けました。私たちの負けです、もう戦闘する意志はありません、で、ですので、手を出すのはッ…は、そ、そう…メリットが、ありませんッ、あ、あなた方の下で働きましょう、私と共同すれば、より強い術師が作れる筈ッ、私の能力があれば、それを可能に出来るッ」
まずは自分を傘下に加えいれることで発生する利点と自分の有能さを語る。
屍河狗威は冷めた目つきで見ている。
「い、良いんですか?!、この世は大義名分、降伏するものに手を出せば悪と見做される、互いに睨み合う状況下、下手に目を付けられれば、他の術師たちに総攻撃される可能性もあるんですよッ?!」
次に自分に手を出す事でどれ程不利になるかを説明する。
屍河狗威は何も動じていない。
「え、と…あ、は、あの、っ、お、お願い、します…乱暴しないでください…」
最後に彼女は懇願するが、屍河狗威は口を開いてこう言った。
「俺はさぁ…クソ野郎だとか人の心が無いとか、まあそう言った陰口言われたり、思われたりけどさ、実際問題それ正解で、傲慢な女が泣いて詫びるのが好きなんだよ、心が折れた様を見ると、なんか、さ?…興奮するでしょ?」
絶対に許す事は無い。
屍河狗威は地べたに座る彼女の上に跨ると共に髪を掴んで唇を奪う。
片手で衣服を破き、彼女は抵抗しながら屍河狗威の腕に爪で引っ掻き、口の中に犯された舌先を噛む。
唾液と共に血が溢れ出る、痛みで屍河狗威は彼女から口を離すと、だらだらと血が流れだした。
「ひ、ひっ、や、やめっ…たすけ、っ、だ、たすッ」
涙を流す阿散花天吏は泣いていた、そして、屍河狗威の興奮して笑みを浮かべている様に絶望する。
「あー…畜生、たまんないなぁオイ…もっと遊んでやるから、弄られて喘げやッ」
やめ、ひっ
そ、そんなっ、むり、入りま、やめっ
あぐ、ぁっッ!いだッ、むり、ですっ、こぇッれっ
やめ、髪、ひっぱらっ、きゃっっ
だれ、たすけっ いやっ、あッ
ひぐっ…ぐ、うっぁッ
ぃ、ぐっ、んぐっ
~~~んあっ
?! あ、やめ、また、やめっ、いやっ、も、もう…っ!!
ごめんなっ、ごめんなざい、ごめんなざいっ!ゆる、許じ、許じでぐだざいっ!
なんでぇ!?もう、やめっ!やだのっ!!
ゆるじてって言ってるのにぃ!ひっぃぐっぁ!!
そうして…屍河狗威は阿散花天吏を蹂躙した。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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