【完結】親指おじさん(作品230830)
菊池昭仁
親指おじさん
第1話
「城山! またレジの金が合わねえじゃねえか! お前、レジ打ちも出来ねえのか! 馬鹿野郎!」
今日もまた、ツトム君はバイト先のコンビニ店長、大杉さんから叱れていました。
「すみません・・・」
「すみませんじゃねえよ! 1,962円、お前が払え!」
ツトム君は仕方なく、ボロボロのお財布の中から2,000円を取出し、店長の大杉さんに渡しました。
店長は不機嫌そうにそれを自分のポケットに入れてしまいました。
「あのー、おつりは?」
「自分でミスしておいて、おつりだあ? 残りは慰謝料だよ!
身寄りのないお前を誰が使ってやっていると思っているんだ! ボケッ!」
ツトム君は言い返すことが出来ません。
大杉店長さんに逆らえば、コンビニのバイトを辞めさせられてしまうからです。
黙って耐えるしかありませんでした。
施設で育ったツトム君のような人間を、雇ってくれるところはどこにもないからです。
生後間もなくツトム君は乳児院の前の道路に、ミカン箱にガムテープで蓋をされたまま、放置されていました。
ツトム君は親に、ゴミのように捨てられた孤児だったのです。
城山勉、19歳。
高校を卒業すると施設を出なければなりません。
ツトム君は生活費を稼ぐためにバイトを掛け持ちして働いていました。
深夜のコンビニ・バイトと、昼間は工事現場で土木作業をしていました。
「おい新入り! そこのセメント袋を持って来い!」
「はい」
ツトム君は力が強くありません。ようやくセメント袋を担ぐと、
「バカ野郎! 1体ずつ担ぐ奴がいるか! ふたつだよ、ふたつ担げ!」
「はい」
ツトム君は重いセメント袋を2つ担ごうとしますが、何度やっても担ぐことが出来ません。
「使かえねえ新入りだなあー! お前、体力無さすぎ!」
そう言って舌打ちをし、先輩ヤンキーの徳田君はツトム君のヘルメットをスパイキで小突きました。
毎日がこんな調子でした。
なんとか昼間の仕事を終え、クタクタになったツトム君が4.5畳ひと間のボロアパートに帰るとキッチンで頭を洗い、タオルで体を拭きました。
銭湯は勿体ないので水曜日と月曜日にしか行くことが出来ません。
深夜零時からはコンビニのバイトがあるため、ツトム君はカップラーメンを食べ、パン屋さんからいただいた、パンの耳を食べると目覚まし時計をセットし、そのまま万年床で眠りました。
しばらくすると、耳元で誰かが囁く声が聞こえました。
「ツトム君、ツトム君。コンビニのバイトに遅れちゃいますよ。またあの意地悪な店長さんに叱られちゃいますよ」
時計を見てツトム君は跳ね起きました。23時半を過ぎてしまっていたからです。
「大変だ! バイトに遅れちゃう!」
ツトム君は大急ぎでバイトに行く支度を始めました。
「ツトム君、慌てないで下さい。慌てると事故に繋がりますから」
その時、ツトム君は息が止まりそうになるくらい驚きました。
なんとその声の主は、枕元に立っている、親指くらいの小さなオジサンだったからです。
中世の貴族のようなブルマに白いタイツ、エリザベスカラーのある服を着て、腰には一寸法師のような針のサーベルをぶら下げていました。
そして肩から掛けられた襷には、歓迎会などでよく使われる「今日の主役」のように、『頑張っている人を応援し隊』と、刺繍がされていました。
「初めましてツトム君。私、『頑張っている人を応援し隊』のモロゾフ大尉と申します。
今までツトム君は本当によくがんばって来られました。
いつも一生懸命なツトム君を見て、このモロゾフはいつも貰い泣きをしておりました。ううううう。
大変でございましたねえ? でももう大丈夫です! ご安心下さい!
この度、ツトム君はきわめて厳しい審査をクリアされ、わが隊の応援者リストに登録されたのです!
誠におめでとうございます!
後は私、モロゾフが責任を持って必ずツトム君をしあわせにして差し上げます!」
ツトム君はあまりにも疲れていたので、幻覚か、夢を見ているのだろうと何度も目を擦りました。
「僕、夢を見ているんですよね? だってそんな親指くらいしかない人、見たことがありませんから。
子供の頃、施設のステラおばさんみたいな君江さんに読んでもらった、コロボックルの童話みたいです」
「そう思うのも無理はありません。何しろ私はこんなに小さいのですから。
そして私のことが見えて、声を聞くことが出来るのは心の美しい、やさしい人間だけなのです。
たまにいますよ、声だけ聞こえるという人は。
でもね、ツトム君のように私が見えるという方は、とても珍しいのです」
「本当に僕をしあわせにしてくれるの?」
「もちろんですとも! そのために『頑張っている人を応援し隊』、略して『ガンバ隊』からこの私が派遣されて来たのですから!」
「そうなんだ? とにかく僕、バイトに行くね、遅刻しちゃうから」
「私もお供します」
するとモロゾフ大尉はちょこんとツトム君の肩に乗りました。
バイトには5分遅刻してしまいました。
また店長さんから怒られると、ツトム君は諦めていました。
するとどうでしょう? 店長の大杉さんはニコニコ顔でツトム君を迎えてくれたのです。
「いやあ、城山君、いつもありがとう。
君がいてくれるお陰でこのお店もすごく助かっているよ。
あまり無理をしないで働いてくれよ、頼りにしているからな?」
モロゾフ大尉はツトム君の耳元で言いました。
「ねっ、私の言った通りでしょ?」
それが親指おじさん、モロゾフ大尉とツトム君の出会いでした。
第2話
土木作業のアルバイトでも、みんな驚くほど親切にしてくれました。
いつものように、支給された冷えたお弁当をポツンとひとりで食べていると、
「おい、城山。こっちに来て俺たちと一緒に食えよ、そんなところで寂しく食ってないでよお」
勉君は何かまた虐められるのかと、ビクビクしながら作業員さんたちの輪の中に入って行きました。
「お前、深夜のコンビニでもバイトしてるんだってなあ? すげえよ、たいしたもんだ。
困ったことがあればいつでも俺たちに言えよ」
現場の親方さんはそう言うと、勉君にペットボトルの温かいお茶をくれました。
「ほら、飲め。温ったまるぞ」
「いいんですか? こんなの貰っても?」
すると作業員の皆さんが笑いました。
「お茶ぐらいでかしこまるなよ、貰っておけ、親方がくれるってんだから」
するとモロゾフ大尉が耳元で囁きました。
「もらっちゃいなさいよ、ツトム君。折角くれるとおっしゃるんですから」
勉君は親方さんにお礼を言って、素直にお茶を受け取りました。
「ありがとうございます、親方」
親方さんは満足そうに頷きました。
作業中、徳田さんも別人のように優しくなっていました。
「セメントは1体ずつでいいからな?
無理すんな、腰を痛めるぞ。
俺は慣れてるから大丈夫だけどな?」
そう言って徳田さんはひょいとセメント袋を2つ担いで笑っていました。
今日はコンビニのバイトがお休みの日だったので、勉君は久しぶりに寛ぐことが出来ました。
テレビのお笑い番組を見て、笑いながら氷の入った水道水を飲んでいると、簡易テーブルの上にモロゾフ大尉が現れました。
「よかったですね? みんなやさしくしてくれて」
「ありがとう。モロゾフさんのお陰なんですよね?」
「まあ、それが『ガンバ隊』の仕事ですから。
ああ、それから3つ、注意事項がございます。メモのご用意はよろしいですか?
まずひとつは、
人に親切にすること
そして、
嘘は吐かないこと
そして最後は、
いつも笑顔でいること
この3つは絶対にお守り下さい。
これを破ってしまうと、私はツトム君のところから去らねばなりません。
まあ、ツトム君の場合、「親切」と「嘘は吐かない」は大丈夫でしょうが、問題は笑顔です。
ツトム君はあまり笑ったことがありませんからねえ」
モロゾフ大尉は眉間に皺を寄せました。
「僕は笑顔が苦手なんだよ。
僕、あまり笑ったことがないから」
「さっきはナイツさんの漫才を見て、あんなに笑っていたじゃないですか? あの感じですよ、あの感じ」
「あれはナイツのお笑いが面白いからだよ。
楽しい事がないと笑えないよ」
「ツトム君、それは違います。
楽しいから笑うんじゃないんです、笑うから楽しくなるのです。
楽しくしてもらうのを待っていちゃダメです。
自分で楽しくするんです! ほら、笑って下さい!」
ツトム君は笑おうとするのですが、ヘンな顔になってしまいます。
「ツトム君、無理しても笑うことです。
そうすればいつかそれが習慣になりますから。
笑顔には幸福を引き寄せる力があるのです」
「楽しいから笑うんじゃなくて、笑うから楽しくなるんだね?」
「その通りです!
だってそうでしょう? 暗くて陰気な人に人は集まりませんからね?
幸運は人が運んで来るものです。だから幸せを運と書いて「幸運」なんです」
「わかったよ、僕、やってみるよ」
ツトム君は笑顔を絶やさないように努力しました。
すると色んな人から声を掛けられるようになりました。
微笑みながらパン屋さんの前を通り掛かると、焼き立てのパンのいい香りがしていました。
するとお店の中から出て来たパン屋さんのおばさんに声を掛けられました。
「おはよう! ねえ、パン食べない?」
「僕、お金がないので、また今度、買いに来ます。
すみません」
ツトム君はそう言って微笑みました。
「誰も買ってなんて言ってないわよ。間違って作り過ぎちゃったからさあ、持っていかない? このパン」
それは焼き立てのおいしそうな葡萄パンでした。
「いいんですか? こんなにたくさん!」
「いいの、いいの、貰ってちょうだい」
するとツトム君の肩にちょこんと乗ったモロゾフ大尉が言いました。
「ほらね? 笑顔でいるとこんないいこともあるんですよ」
「ホントだね? 僕、いろんな人から話し掛けられるようになったよ」
「ツトム君、しあわせも不幸も人が運んで来るものなのです。
まずは孤独にならないことです。
部屋に閉じ篭っていてはしあわせも災難もやって来ませんからね?」
「しあわせはいいけど災難はいやだよ」
「そうではありません。大変なことは誰にでも起きることです。
そこにヒントがあり、学びが隠されているのです。
人生は良いことも大変なこともワンセットなのです。
コインのように表裏一体なのです」
「良いことだけでいいじゃないの?」
「良いことばかりでは人間は成長出来ません。
人は魂を磨くためにこの世に生まれて来たのですから」
「じゃあ僕の人生は磨いてばかりだね?
親もなく、辛いことばかりだもん」
「ほらほらダメですよ、暗くなってはいけません!
笑顔笑顔!
ツトム君が大変なことばかりだったのは、そういうところが原因なんです。
いじけたり拗ねたり、嘆いたりしてはダメです。
折角人間に生まれることが出来たのですから。
これはチャンスなんです、人間としてのランクをあげるためのね?
ツトム君は前世で悪いことばっかりしていました。
人をイジメたり苦しめたり、嘘を吐いたり、ハンデのある人を馬鹿にしていました。
だからこの世ではどん底からのスタートなんです。
でも悲しまないで下さい。ここからがしあわせの階段への入口なのですから。
そのために私が派遣されたのですから。
ツトム君のしあわせを応援するために!」
「そうなんだね? ヨロシクね? 大尉」
「Yes,sir ! よろこんでお仕えさせていただきます!」
「モロゾフさんも食べる? パン」
ツトム君は貰った葡萄パンをちぎって、モロゾフ大尉に渡しました。
「モグモグ うん、おいしいですね? この葡萄パン!」
「そうだね? あのパン屋さんのおばさんに感謝だね?」
「今、ツトム君、すごく素敵なことを言いました!」
「感謝?」
「そうなんです! それ、ボーナスポイントなんです!
感謝してありがとうって言って、一生懸命努力する。
すると『ガンバ隊』からボーナスが支給されるシステムになっているんです。
今ので100ハッピーが加算されました!」
「じゃあいつも感謝って言っていればいいの?」
「そうではありません。感謝は言うのではなく、「感じる」ことです。
ツトム君が評価されたのは、素直に「こんなにおいしいパンをいただけて、ありがたいなあ」という「感謝の気持ち」があったからです。
それを忘れずにどんどん参りましょう!」
「うん!」
ツトム君は少しずつ、生きる勇気が湧いて来ました。
第3話
茹だるような夏の日、ツトム君は汗だくでセメントの粉にまみれになり、一輪車を押していました。
そこへ現場監督の中野さんがやって来ました。
「城山君、君は若いのによく働くね?
どう? ウチの会社で正社員として働いてみないか?」
「えっ、大日開発さんでですか?」
「悪い話ではないと思うけど? ウチの会社は待遇もいいし、正社員になればボーナスも出るよ。
聞けば君は深夜のコンビニ・バイトもしているそうじゃないか? ウチの社員になれば夜の仕事はしなくても済むしね?」
ツトム君は驚いて中野さんを見ました。
「ありがとうございます。
でもいいんですか? 僕は高校しか出ていませんし、親もいません。ずっと施設で育ちました。
そんな僕が大日開発さんになんて・・・」
「親とか学歴? そんなことで人間の価値が決まるのかい? だったらみんな東大じゃなきゃダメなのか?
両親が揃っていないと駄目なのかい?
ジャイアンツだってあれだけ優秀な選手をカネに物を言わせて集めて来ても勝てない。だから野球は面白いと俺は思うけどな?
色んな人がいるから世の中、楽しいんじゃないかなあ」
「色んな人がいるから楽しい?」
「そうだよ、同じ人間ばかりだったらつまらないだろう?
明日、所長が来るから履歴書を書いて持って来なさい。面接をしてもらうように、私から話しておくから」
「はい! よろしくお願いします!」
深々とお辞儀をしたツトム君の汗がヘルメットを伝い、地面に落ちました。
「良かったですね? ツトム君。
君の陰日向のない頑張りを、見てくれていた人がいたということですよ」
「いつも大尉の言う通り、笑顔と努力、そして感謝の心なんだね?
ありがとう、モロゾフ大尉」
「よしてくださいよ、照れるじゃないですか?」
モロゾフ大尉は腰をくねらせ、モジモジしていました。
ツトム君は憧れだった正社員になることが出来ました。
「コンビニのバイト、やらなくてもよくなりましたね?」
「ありがとう、大尉のお陰だよ。
僕ね、その時間を利用して、たくさん色んな資格を取るための勉強をしようと思うんだ。
建築士とか、土木施工管理技士とかをね?」
「それはいいことです! 資格を取ればそれだけ仕事に自信も湧いて来ますから。
でも、がっかりするでしょうね? 大杉店長さん」
「せっかく良くしてくれるようになったのにね?」
ツトム君は大杉店長さんに事情を説明しました。
「良かったじゃないか城山! 大日開発は一流企業だ。
大学を出ても中々入ることができない会社だぞ。
よくがんばったな!」
すると大杉さんは缶コーヒーをツトム君に渡してくれました。
「おめでとう、城山。乾杯だ」
ツトム君はすごくうれしくて、涙が止まりませんでした。
「じゃあ月末まで、よろしく頼むぞ」
「ハイ!」
「なんだか寂しくなるな? お前がいなくなると」
大杉店長さんは肩を落として帰って行きました。
店長さんと交代してツトム君がレジに立つと、綺麗な女の人がサンドイッチと紅茶を持ってレジにやって来ました。
「これ、お願い」
「ハイ、レジ袋は必要ですか? 有料になりますが?」
「袋に入れて頂戴。
城山君、いつも素敵な笑顔ね?」
「ありがとうございます。
でも、どうして僕の名前をご存知なんですか? それにお客様のような美人は初めてお会いしましたが?」
「いつも城山君のことは見ていたわよ。
ネームプレートに書いてあるじゃないの? 城山って」
「あっ、そうでしたね?」
ツトム君とそのお客様は、顔を見合わせて笑いました。
「ありがとう城山君。じゃあまたね?」
「ありがとうございました」
バイトを終えてアパートに帰ると、チャイムが鳴りました。
「はーい、どちらさまですか?」
「私よ、さっきコンビニで会った美人なお姉さんよ」
ツトム君は恐る恐るドアスコープを覗きました。
玄関ドアの向こうには確かに先程の女性が立っていました。
ツトム君はドアを開けました。
「どうかしましたか? 何か商品に問題でも?」
「ちょっと上がらせてもらうわよ」
そう言うと、その女性はヒールを履いたまま、ツトム君の部屋に上がり込んでしまいました。
「あのー、靴を脱いでいただけませんか?」
「あら、ごめんなさい。ここは日本だったわね?」
すると「かりんとう」にしがみ付いて黒糖を舐めていたモロゾフ大尉が、慌ててその女性に敬礼をしました。
「こ、これはリンダ大佐! お疲れ様です!」
「モロゾフ大尉、休んでよろしい」
「はっ!」
モロゾフ大尉は休めの姿勢を取りました。
「どういうことですか? お二人はすでにお知り合いですか?
ツトム君、この方はね? 泣く子も黙る、リンダ大佐といって、『ガンバ隊』の隊長なんです!」
「リンダさんは小さくないんだね?」
するとリンダ大佐は言いました。
「私くらいの佐官級になると、自由自在に大きさを変えることが出来るのよ。
ウルトラマンみたいに50mにもなれるの、やって見せましょうか?」
「大佐殿、お辞め下さい! 地球が大騒ぎになってしまいます!」
「冗談よ、大尉は本当に真面目なんだから。
大尉があまりにもツトム君のことを褒めるものだから、ちょっと会ってみたくなっただけよ。
さすがは『ガンバ隊』が認めただけのことはあるわね? 大尉の報告通りの好青年だわ」
「はい、ツトム君はすばらしい青年です! リンダ大佐」
「止めて下さいよ。僕、そんなに褒められたことがないから恥ずかしいです。
何もありませんけど、お茶でもいかがですか?」
「ハロッズの「アフタヌーン・ティ・ドリーム」とかはあるかしら?」
「すみません、出がらしのほうじ茶しかありません。3日前のですけど」
すると、リンダ大佐はその紅茶をテーブルの上に出しました。
「はい、これを淹れて頂戴」
「す、すごい! リンダさんは手品も使えるんですか? Mrマリックみたいです!」
「私、1級魔法士なのよ」
「ツトム君、これは手品ではありません、リンダ大佐の魔法はガンバ隊でも一番の魔法使いなのです」
「そうなんだあ? いいなあ、魔法が使えるなんて」
「あら、ツトム君だって使っているじゃないの? 魔法を」
「そんな、出来るわけないじゃないですか? こんな僕に魔法なんて」
「ほらその笑顔、それが何よりの魔法なのよ。
その笑顔がなんでも可能にする魔法なのよ。
そして「ありがとう」は魔法の呪文。
自分で言うよりも、他人から言われるとその10倍の効果があるわ」
「笑顔が魔法? モロゾフ大尉も言っていたよね?」
「笑顔でこの世をいっぱいにするのが『ガンバ隊』の本来の目的ですからね?
そうなれば戦争も核兵器もなくなります」
大佐は言いました。
「ツトム君って面白そうな子ね?
大尉、私もここでツトム君と一緒に暮らすことにするからよろしくね?」
「えっ? リンダ大佐もですか?」
「イヤなの?」
「いえいえ、滅相もありません!」
モロゾフ大尉は直立不動の姿勢を取りました。
「よろしい。ではこれからツトム君の「しあわせプロジェクト」の作戦会議を始めます。
まずはお酒ね?」
「お酒ですか?」
「当たり前でしょう? お酒を飲まないで仕事するバカがどこにいるの?
人生は二度とないのよ、お酒と恋愛、カラオケのない人生なんて地獄だわ」
「大佐! ごもっともです!」
「あのー、僕はお酒を飲んだことがないんです。だからここにお酒はありません」
「えーっ? ツトム君、お酒飲んだことがないの? 信じらんない! 20歳になったのに? もしかして童貞君だったりして?
いいわ、私が両方教えてあげる」
「大佐、リンダ大佐、それはツトム君にお任せしましょうよ、自然に」
「いいから大尉は黙っていなさい」
リンダさんはたくさんのお酒とおつまみを、魔法を使って部屋いっぱいに並べた。
「さあ今夜はとことん飲むわよー!」
「アイアイサー!」
その夜、3人の酒宴は朝まで続きました。
第4話
「あー、頭が痛いし気持ち悪いー。
お酒って体に悪いですよね? モロゾフ大尉?」
「ツトム君はお酒が初めてだからですよ、そのうちこれが楽しみになります。
特に暑い夏の昼間に飲む、冷えたビールは最高です!
そうですよね? リンダ大佐?」
「あったりまえでしょー、この世に美味しい食事と素敵な音楽とお酒、そして男がいない世界なんて地獄よ。地獄。
ごちゃごちゃ言ってないでどんどん飲みなさいよ。
それとも私のお酒が飲めないとでも言うの?」
「とんでもありませんリンダ大佐!
ささ、ツトム君もいただきましょう、このシャトー・マルゴーは最高ですぞ!」
「ありがとう大尉。
でも僕、明日も早いので先に寝ますね? おやすみなさい、リンダさん、モロゾフさん」
ツトム君はそのまま座布団を折って枕にすると、鼾を掻いてすぐに寝むってしまいました。
「ツトム君ってホントにいい子ね?
こんな子がまだ地球にいたなんて」
「そうですね? 人を疑ったり、憎んだり怒ったりすることもありません。
めずらしい青年ですよ、今どき」
「人の不幸は他人と比較することで起きるわ。
この子は人と比較することをしない。
あの人はいいなあとか、この人はいいなあとかは決して言わないわ。
いつも淡々として真面目に汗を流して働いている」
「ところで大佐、『ツトム君しあわせプロジェクト』の件ですが、どのように進めればよろしいのでしょうか?」
「仕事も決まって収入も安定してくるでしょうから、次は彼女ね?」
「すなわち恋ですか?」
「そう、恋よ恋。
ツトム君に燃えるような恋をプレゼントしないと」
「では早速あのキューピー桃次郎の登場ですな?」
「そうね? でもその前にやることがあるわ」
「それは何ですか?」
「それは私がやるから大尉は心配しなくてもよい。大尉は桃次郎にツトム君に合いそうな女の子をマッチングさせるように言っておいて頂戴」
「アイアイサー!」
リンダ大佐はワインを一気に飲み干し、不敵な笑みを浮かべました。
「この私があなたを「立派な男」にしてあげるわね? 童貞君?」
リンダは美しくネイルアートされた指で、ツトム君の頬に触れました。
第5話
「ツトム君、お仕事終わったの?」
帰宅途中、リンダ大佐が立っていました。
「あっ、リンダ大佐。
奇遇ですね? こんなところで。お仕事ですか?」
「奇遇なんかじゃないわ、ツトム君。
あなたを待っていたのよ」
「えっ、僕をですか?」
「そう、あなたを待っていたの」
「うれしいなあ、リンダ大佐がお迎えに来てくれるなんて。
じゃあ、一緒に帰りましょうか?
モロゾフ大尉も待っていると思いますから」
「大尉なら大丈夫、先に食べているように言っておいたから。
今日は私がごちそうしてあげるからついてらっしゃい」
「いいんですか? ごちそうになっても?」
「もちろんよ、さあ、お肉でも食べましょう。精力が付くように」
そう言うと、リンダさんはツトム君をジュエル・ロブションへと連れて行きました。
一方その頃、ツトム君のアパートではモロゾフ大尉とキューピー桃次郎がツトム君の恋人候補の選定に取り掛かっていました。
「大尉、この娘はどうです? 元アイドルの優香ドットコムです。
性格はいいし、おまけにGカップでお料理も上手らしいですよ」
「ダメだダメだ。もっと清楚な感じがいい。茶髪じゃなくて、派手じゃない娘はおらんのか?」
「それではこの娘なんかどうです? 年上ですが巨乳です。
ホルスタイン山本」
「桃次郎、いくらお前が巨乳好きだからといって、オッパイの大きさで選ぶなバカもん!
ハートで選べ、ハートで!」
「それでは少々貧乳ですが、この娘はどうです? モロゾフ大尉」
「やむを得んだろう、天は二物を与えぬものだ。
どれどれ」
モロゾフ大尉は食い入るようにその写真を観ました。
「この娘なら問題はないでしょう?
白鳥茜、22歳。白鳥コンツェルンの社長令嬢です。
大金持ちのご令嬢で美しく、聡明でやさしく、性格もすこぶる良好です。
どうです? 大尉?」
「うーん、確かに良い。
確かに良いが、この茜ちゃんとやらが果たしてツトム君に吊り合うだろうか?
何しろツトム君は偏差値35のヤンキー高校卒。
それに引き換え茜ちゃんはフェリス女学院卒。
話が合うだろうか?」
「その点ならご心配なく。
私のこの愛の矢で、茜ちゃんのハートはいただきですから!」
「よしわかった。ではそれでいこう、茜ちゃんで!」
「ハイ、喜んで!」
桃次郎さんは『牛角』のスタッフさんのように叫び、うれしそうに愛のベルを何度も鳴らしました。
チリリリーンチリン。チリリリーンチリン。
食事を終えたツトム君とリンダ大佐は、いかがわしいラブホテル街を歩いていました。
「あー、美味しかったー。
すみませんリンダさん、すっかりごちそうになってしまって。
あんな豪華な料理、この世にあるんですね?」
「いつでもごちそうしてあげるわよ。お食事ならお安い御用だわ」
「ありがとうございます。
ところでここはすごくネオンがキラキラしていますが、どこなんですか?」
「ここは大人の男女がプロレスをするところよ」
「大人の男女がプロレス? こんなところで?」
「私たちもしましょうか? プロレス」
「リンダさんとプロレスですか?」
「そうよ、ここのラブホが良さそうね、初心者には」
「初心者?」
そう言うとリンダ大佐はツトム君をお城のようなホテルへと誘いました。
「大きなベッドしかありませんけど、プロレスのリングはどこですか?」
「ここがリングよ、このベッドが今日の私たちのリングなの。うふっ」
するとリンダさんはツトム君にキスをし、ツトム君の服を脱がし始めました。
「ち、ちょっとリンダさん、何をするんですか!」
「プロレスに決まっているでしょう? 脱がないと出来ないでしょう? プロレスは?
プロレスは裸でするものよ」
「脱ぐってそんなあ、恥ずかしいですよ」
「ツトム君、あなた女の人を知らないでしょう?
だから私がレクチャーしてあげるって言ってるの。
いいからゴチャゴチャ言ってないで早く脱ぎなさい。
私がやさしく教えてあ・げ・る」
ツトム君はモジモジしながらリンダ大佐に促され、仕方なく服を脱ぎました。
「何してるの? パンツも脱ぎなさい!」
「パ、パンツもですか?」
「当たり前でしょう! 早く脱ぎなさい!」
リンダ大佐は次第に興奮し、自分の本来の職務も忘れていました。
「じゃあ始めるわね? まずは女のカラダの構造からね?
ほら、もっと近くに来てご覧なさい。
ここが・・・」
ツトム君はマジマジと大佐のそこを覗き込みました。
「こ、こんなふうになっているんですか! 女の人のここって? なんだか濡れていますけど」
リンダ大佐が両手で広げた例の部分を、ツトム君にしっかりと確認させました。
「そうよ、こうなっているの。
女性はね? 気分が高まって来るとここが濡れて来るのよ。覚えておきなさい。
いわゆる潤滑油的な役割ね? お互いが擦れても傷つかないように出来ているの。
講義ばっかりじゃ身に付かないわね? ツトム君もこんなにビンビンになっちゃているし、何事も経験が大事。
私の敬愛する山本五十六元帥もこう仰っていたわ。
やってみせ 言って聞かせ させてみせ
誉めてやらねば人は動かじ
話し合い 耳を傾け承認し
任せてやらねば人は育たず
やっている姿を感謝で見守って
信頼せねば人は実らず
山本五十六
私も上官としていつも肝に銘じている言葉よ。座右の銘なの。
『大和』『武蔵』のような大艦巨砲主義がもてはやされていた時代に、航空主兵論を唱えていた閣下らしいお言葉でしょう?
では始めましょうか? これよりプライベートレッスンを開始します!」
リンダ大佐はツトム君のカチンカチンになった仮性包茎の金属バットをパクンと手で剥いてあげました。
「痛い! ダメです! ダメです大佐! そんなことしたら汚いですよ、あっ、やばい、ヤバイです!」
それを面白がるかのように、リンダ大佐はより動作を速くしました。
「もうダメです! やめて下さい大佐! うっ!」
ツトム君はリンダ大佐の攻撃に、あっけなく撃沈してしまいました。
「あらこんなにいっぱい。随分と溜まっていたのね?」
「ごめんなさい、我慢出来なくてつい・・・」
ツトム君は恥ずかしそうに顔を赤らめていました。それでもそこはまだ元気でした。
「では次の実戦に移る。いいわね?
ではかかれ!」
「かかれって、どこにかかればいいんですか?」
「さっき見たところにそれをさっさと入れるのよ!」
仰向けになって足を広げるリンダ大佐。
ツトム君は怖る怖るリンダ大佐のそこへ侵入を開始しました。
「いい、いいわ、そのまま動かしてごらんなさい。
そうよ、出したり入れたりするの。
あん、あん、そう、そうよ、もっと激しく! いいわ、とっても上手よ!」
「リンダ、リンダ大佐ーっ!」
リンダ大佐のプライベートレッスンは無事終了しました。
ツトム君は無事童貞を卒業し、セックスの快感を知ってしまいました。
「SEXって最高ーっ!」
と言ったかどうかは定かではありませんが、ツトム君はすっかり大人の男に成長しました。
めでたしめでたし。
まだ物語は続きます。ご期待下さい。
第6話
モロゾフ大尉とキューピー桃次郎さんは表参道ヒルズでツトム君と茜ちゃんが来るのを待ち構えていました。
「桃次郎、準備はよいな?」
「大丈夫、私の腕を信じて下さいよ、モロゾフ大尉」
「よろしい、絶対に外すでないぞ!」
「わかってますって。ほら来た来た」
「よし、ツトム君と茜ちゃんが遭遇するまであと8秒!」
「ラジャー!」
キューピー桃次郎は背中の矢筒から桃色のハートの矢を引き抜くと、弓を構えました。
きりりりり
「3、2、1、今だっ! 桃次郎!」
茜ちゃんの心臓にズッキューン! 見事に桃次郎の愛の矢が突き刺さりました。
「やった! やったな桃次郎!」
「えっへん! どうです大尉、愛の名射手、桃次郎の腕前は?」
「見事じゃ! 見事ですぞ! 桃次郎!」
「ほら、もう茜ちゃん、ツトム君にうっとりしちゃってますよ」
「本当だ! 凄いぞ桃次郎!」
茜ちゃんはツトム君に熱い視線を送りました。
「なんて素敵な人なの!
あのー、劇団四季の俳優の方ですか? それともジャニーズの人?
私と付き合って下さい! 今すぐ私を抱いて!」
「だ、誰ですか? あなたは? 新手の風俗詐欺ですか? デリヘルの人?
それとも痴女さんですか?」
突然の出来事にツトム君はびっくりして目を丸くしています。
ツトム君は辺りを見渡しました。
「これってテレビのどっきりか? YouTubeの番組企画か何かですか?」
「違います! ビビッと来ちゃったんです、私」
「聖子ちゃんがジェフ君に感じたみたいにですか? この僕に?」
「そうなんです! 私じゃダメですか? 貧乳はお嫌い?」
「いえ、巨乳も貧乳も大好きです。
でも、いいんですか? 僕で?」
「あなたがいいんです! あなたじゃなきゃダメ!
どうしてなのか分からないけど好きです、私と結婚して下さい!
あっ、私、白鳥茜って言います。
茜って呼んで下さい!
あなた、お名前は?」
「ツトムです。城山勉」
「ツトム君ね? じゃあとりあえず、お近づきの印として一発やりましょうか?
なにはともあれ、男女のカラダの相性は一番大事ですからね? 話はそれから、ささ、早く行きましょう! ラブホにGO!」
茜ちゃんはツトム君の手を強引に掴むと、タクシーを停め、ラブホテルに直行しました。
「道玄坂のラブホまでお願いします」
「あいよ、いいねー、若い人たちは。真っ昼間からおっぱじめるんですかい? ヒッヒッ」
白髪のおじいちゃん運転手はいやらしそうにバックミラーを覗き込みました。
タクシーは猛スピードで幾つもの赤信号を無視して、道玄坂のラブホ街へと猛ダッシュをしました。
実はこのタクシーの運転手は、天界から追放された堕天使、サタンの変装だったのです。
(こいつかあ? あの『ガンバ隊』の一押しって奴は?
そうはさせないぜ、こいつは地獄に引き摺り込んでやる。
たっぷり地獄でおもてなしをしてやろうじゃないか。ヒッヒッヒッ)
サタンは赤い舌を出して笑いました。
最終話
「すごく良かったわ、こんなの初めて。
ツトム君だーい好き!」
「茜ちゃんも凄かったよ」
「チャンなんて止めて、茜って呼んで」
「好きだよ、茜」
ツトム君はリンダ大佐の指導の元、テクニックを更に磨いていました。
あんなことも、こんなこともして、茜ちゃんをメロメロにメロンパンチしていたのです。
しかしその文章に出来ない、アダルトビデオのような光景を、じっと天井の鏡の裏から見ている者がいました。
そう、サタンです。
「よしよし、もっともっと快楽に溺れるがいい。
人生は楽しまなくちゃな? そうだろう? ツトム?」
ツトム君はどんどん欲に塗れていきました。
酒、女、ギャンブル、美食。ブランド品や高級外車に大豪邸と、完全に欲望に溺れてしまっていました。
あの真面目で努力家のツトム君はもういません。
「溺れろ溺れろ! そしてどんどん落ちてゆけ!
堕ちろ堕ちろ! どんどん堕ちろ!
詫びろ詫びろーっ! 半沢ーっ! じゃなかったツトムー!
俺は人間が堕落していく姿を見るのが大好きなんだ! 山岸屋のワンタンチャーシュー麺よりもな!
欲をたくさん食い尽くせ! そして豚のように丸々と肥えて地獄に落ちろ!
お前の肉を喰らい、血を啜り、毎晩地獄で酒盛りだあ! うひひひひ」
「ツトム君、ツトム君、どうしたんですか? こんなツトム君はガンバ隊が応援していたツトム君じゃありませんよ!
せっかく社員になって主任にまでなれたのに、なんで会社を辞めちゃったんですか!」
ツトム君はお酒に酔っていました。
「うるせえんだよモロゾフ! 親指おじさんのくせに!
いちいちいちいちいちいちいちいち。
俺はな? 親からも捨てられて酷い人生だったんだ!
学校も偏差値35のボンクラ高校だったし、カネも身寄りも友達も彼女もなく、毎日毎日、ぼろ雑巾のように働いたんだ。
だからなんだよ? これくらいの贅沢して何が悪い!
俺もさあ、あったかい両親のいる家に生まれたかったよー!
ふかふかのベッドに、温かい食事。学習塾や家庭教師なんかに勉強を教えてもらえば、せめて中州産業大学か、早稲田の隣、馬鹿田大学くらいは入れたかもしれないのに・・・。
行きたかったよ、大学。
みんなやってることじゃないか?
彼女とベッドでプロレスしたり、ガストで食事したり、競馬や競輪、パチンコに競艇。
でも俺はヤバイ小麦粉とか蕎麦粉には手を出してはいないよ。
だってまだ人間辞めたくないもん。
モロゾフさんよー? 俺って間違っているかあー?
人並みの生活を楽しんで何が悪いんだよー!
俺だって、俺だって・・・。うへへへへへ、ヒック」
「ツトム! アンタ何様のつもりなの? キムタクにでもなったつもり? いつから「やっちゃえオッサン」になっちゃったの?
アンタもヘンな持ち方して安いハンバーガーを食べてる人?
それともあのクリステルとまぐわっちゃって出来ちゃった結婚して、大臣のくせに育休までした小泉進次郎なの?
見損なったわ、あなたがそんな見てくれだけの男だったなんて!」
リンダ大佐もすっかり堕落したツトム君を罵倒しました。
「リンダさんだよねー? 俺に女を教えてくれたのって?
俺はただ、大佐に教えてもらった通りのことをしたまでだよ。あんなことやこんなことを」
「私が教えたのはテクニックじゃないわ。
愛のある本当の交わりをあなたに教えてあげたかっただけ。
くだらない保健体育の授業と一緒にしないで頂戴!
あんたのエッチはいつも出して終わりじゃないの! パートナーのことなんか一切考えていない。
茜さんに対する気遣いも何もないじゃない!
そんなおバカさんはエッチビデオでも見てオナニーでもしていなさい! このバカチン!」
「リンダ大佐、これはきっと何かの間違いです!
あのツトム君ではありません!」
モロゾフ大尉は狼狽えていました。
「大尉、あれを出して頂戴」
「アレって、あのアレですか?」
「そうよ、あのアレよ」
「わかりました! ではアレのアレを出しちゃいます!
ぱっぱかパンパンパーン!(ドラえもん風に)
悪魔祓い掃除機ーっ、#エクソンシスト__・__#! ボク、堀江もん!」
「スイッチ、ON!」
ゴーゴー、ゴゴゴゴーッ。
リンダ大佐はツトム君の口にエクソンシストを差し込みました。
するとあら不思議、口から堕天使サタンが吸い出されて来ました。
すっぽーん
「ひ、ひえーっ! 助けてくれー! 吸い込まれるー!」
「やっぱりアンタだったのね? サタン!
絶対に許さないわよ! それー、MAXパワー!」
「ひょえー! 止めてー! 死んじゃうよー!」
「お前は死なない地獄の死者のくせに!
悪魔退散!」
サタンはエクソンシストに吸い込まれてしまいました。
リンダ大佐はサタンをゴミ袋にポイすると、
「モロゾフ大尉、今度の火曜日のゴミの日に、これを出しておきなさい」
「はっ、了解しましたリンダ大佐殿!」
ツトム君は以前の好青年に戻りました。
「あれれ、ここは僕が前に住んでいた家賃13,000円の風呂なし事故物件のボロアパートじゃないですか?
僕はどうしてここに?」
リンダ大佐はやさしくツトム君をGカップの巨乳に押しつけて抱き締めました。
「もう大丈夫よ、ツトム君。
あなたは悪い夢を見ていただけよ。
人はね? ちょっとした思い上がりや、独りよがりな行動をすると悪魔がそれに付け込んで来るの。
だから十分気をつけなさい」
「そうですよ、ツトム君。
人間は誠実がいちばんです。
他人と比較せず、相手の立場で物事を考える。
それが何より大切なことなんですから」
それから1年後、ツトム君は白鳥財閥のご令嬢、茜ちゃんと結婚して白鳥家の婿養子となり、幸せに暮らしましたとさ。
「良かったですね? リンダ大佐」
「あーあ、ツトム君みたいなかわいいチェリーボーイはいないのかしら?」
「大佐殿、きっといるはずですよ、ツトム君のような素晴らしい好青年が」
『親指おじさん』 おしまい
【完結】親指おじさん(作品230830) 菊池昭仁 @landfall0810
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