第三章 月夜の死闘

「このぉ!!」

 襲い掛かってくる怪物にアマトは刀を振るう。

 怪物は刀を避ける為に翼を広げ、飛び上がり、

「そこっ!!」

 マソラは薙刀で素早く突こうとするも怪物は足を使って空中で刃を掴み、受け流してしまう。

 怪物はそのまま二人の後ろに回り込み、イズモに向かって蹴りを入れようと飛び掛かる。

「イズモさん!!」

 とアマトは叫ぶ。

「大丈夫よ!!」

 イズモは懐から霊符を取り出すと、霊符は一瞬にして獅子の霊獣に変わり、飛び掛かった怪物に組み付いた。

「グォォォ!!」

 獅子は怪物を押さえ付け、首筋へ食らいつき、怪物から血が吹き出す。

「ギシャァー!!」

 怪物も負けじと鋭い爪で獅子の顔に大きな傷を付け、怯んだ所で脱出する。

「イズモ様ー!!」

 と他の近衛兵が応援に駆け付けつけた。

 怪物は血に飢えたような表情でそれらへ目標を移す。

「危ない!!」

 マソラが呼ぶのも、もう遅く

「がっ……ぐっ……」

 怪物は一瞬にして近衛兵の一人に鋭い手刀を繰り出したのだ。

 怪物の手刀は近衛兵の硬い胴当てを砕き、心臓を貫いた。怪物はそのまま首筋に牙をたてる。

 怪物の口元から血が滴り、血を吸っているのが二人にも分かる。

 すると傷が見る見る内に塞がっていくのだ。

 手に付いた血を舐め取り、舌なめずりをして柘榴ざくろのような瞳で見つめる様子は周りの兵に動揺を走らせる。

「こいつぅー!!」

 しかしアマトは怯まず、怪物に向かって突撃していく。

「シャー!!」

 怪物は顔を貫こうと手刀を繰り出した。

「ちっ!!」

 アマトはそれをギリギリで避けるも頬から血がにじむ。

「とりゃー!!」

 アマトは構わずそのまま刀を振り下ろし、その一太刀は怪物の右肩を斬りつけ、右腕を切断する。

「グッ……」

 怪物は一旦距離を取ると、いきなり天井を突き破り、逃走を図ろうとする。

「逃がすか!!」

 二人は怪物を追い、露台から屋根へと登る。

 イズモも獅子に跨がり、獅子も飛び上がって怪物を追う。

 屋根へと登ると、十三夜月の明かりが空を眩しく照らしている。

「私が隙を作るからその間まで逃げないように引き付けて!!」

 イズモは手をかざし、力を貯める。

 怪物は右腕を斬られた事による出血が大きく、かなりフラフラになっているが、それでも命からがら逃げようとする。

 しかし、後から登ってやって来た近衛兵が弓を放ち、空へ逃げるのを阻止しつつ、二人は怪物へ刃を振るおうとするせいで怪物は逃げる事ができないのだ。


 そして遂に

「今よ!!離れて!!」

 二人はサッと怪物から間合いを取ると、イズモは小さな光の玉を発射した。

 その玉は怪物に触れると強烈な閃光が炸裂する。

「ギャァァァ!!」

 目が潰された怪物は身悶える。

「これでどうだ!!」

 その隙を見逃さず二人は怪物の胸へ刃を突き刺す。

「ギッ……ギェ……」

 とか細い断末魔を挙げながら身体が溶けていく。最後には一枚の符だけになる。イズモはハッとそれを見るが、ボロボロと灰になり風に吹かれ消えていった。


「ふぅー」

 二人はへたり込んでしまい、空を見るともう朝日が昇り始めているのだった。



 アマトとマソラはもう昼になろうというのに帝の部屋の布団で眠っている。

 しばらくするとヒュウガとユズキがやって来て、

「二人の働きはどうでしたか?」

 ヒュウガは少し心配しているかの様に言う。

「ええ。二人はよく頑張ってくれたわ」

「あの怪物……そして最後に見えたあの符……」

 イズモは目を瞑って少し考え、そして眠る二人を見ながら、

「やはり十年前の決着を付ける必要があるようね」

 と覚悟を決めたようにつぶやくのだった。

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