第45話 ノヴァとソフィア

 ノヴァはソフィアの方に向きなおした。


「ここ2年程は十七で入隊した若いカイと活動して、彼ののんきなところ、甘いところにいつも腹を立てていたんですけ。でも彼といろいろ話をしたら、軍に入るまでの生活がとても充実していたようで、それで気づかされたんです。私、何か大事なものを犠牲にしたんだなって……」


「なるほど。確かにあなたは入隊するのが若すぎたよね。本来、子供がする生活ではない……」


「今思うと本当に良かったのかどうか疑問ですけど、軍隊生活は楽しかったんです。腕がめきめき上がったし、人々からも感謝されるし、やればやるほど結果がついてくる……仕事は次から次といくらでも湧いて来るし」


「優秀な人は使われちゃんだよね」

「それで、ラッキーだったのは私はまだ若い。今からでも少し取り返せるかなって、自分の大切な時間を」


 ソフィアの目に映るノヴァは、もはや兵士では無かった。思春期を取り返そうとする一人の女性の顔だった。確かに栄光だが可哀そうな人生でもある。昔どこかのアイドルの言った「普通の女の子に戻りたい」まさにそれだ。


「わかったわ。確かにこれ以上この世界にどっぷり浸かり続けるのは気の毒すぎるわ。こうするのはどう? あなたはまずガーディアンとして採用する、これはあなたの体を神格化するという意味よ。半永久的な寿命を得られるチャンスを得る。その上で故郷のサードワールドがいいのかな? そこで一般人と一緒に暮らす。若い姿のままで長く生活できる。そして、生活に余裕ができたら、スポットでガーディアンをやってもらう。どう? いい案でしょ」


 ノヴァはソフィアの提案を考えた。確かに悪い案ではない。それどころか時間を取り返すにはまたとないチャンスかもしれない。デメリットは……特に無さそうだ。しかし事は慎重に進める必要がある。SOF生活で身に付いた考え方である」


「ソフィア、その案、とても良さそうですが……」

「でしょ!」

「何か想定しない事態にあったら元の状態に戻せますか? 私の体とか……」


 ソフィアはにこりと笑った。

「保険が欲しいのね。いいわよ。問題無いわ」


 さすがの女神だなとノヴァは認識した。神は何でもお望み通りにできるのだ。

「私、あまりガーディアンの仕事はしたくなくなるかもしれませんよ。それでもいいのですか?」


「ふふ、そこは心配していないわ。ミアちゃんもそうだけどあなたもすでにこちら側の人間だから……意味がわかるかな? 守られる側でなくて、人を守ることが身に染みついちゃっているのよ。いずれ人助けがしたくなるわ」


「わかるんですか?」


 ソフィアは髪を振って答えた。

「もちろん、私がそうだったからね」


 ノヴァは思った。この人は信頼できる。あ、人じゃない、神だし。

「決めました。その提案、受けさせていただきます」


「良かった。じゃあ軍に話をしておいてね。引退時期はあなたが決めていいから、決まったら教えて頂戴。 そうだ、このことはマークにだけは話しておくけど、他の人達には私からは伏せておきますね。あなた自身から適切なタイミングでみんなに伝えてね」


「はい、あ、一ついいですか?」

「いいわよ、何?」


「生活場所なんですけど、サードワールドじゃなくてエルシアにしてもらえませんか?」


「え? いいけど、故郷の方がいいんじゃないの?」


「いえ、あそこは人が落ち着いて生活できるところじゃありません。異生物や異星人がうろうろして事件は多発、いつも恐怖にかられながら生活しなきゃいけないんです。それに比べてエルシアは天国のような場所です。私もいつも仕事で来ていて、いい場所だなーって思ってたんです」


「それならミッドガルドもいいわよ、ちょうどブルーエイジ(平和な時代)に入ったところだし」


「いえ、ミッドガルドは馴染が無いし、特殊能力がほとんど使えません。エルシアの方が多少危険ですが夢があると思うんです」


「まあ、私達もエルシアにいてくれた方が助かるから、いいわよ。エルシアにしましょう」


「ありがとうございます」


「少し早いけど、ようこそ、ガーディアンの世界へ」


「これからよろしくお願いします」


 ノヴァはお辞儀をした後、満面の笑みを浮かべた。

 普通のどこにでもいる女の子の顔だった。


 ソフィアはノヴァの笑顔に驚いた。こんなに可愛い子とは思わなかった。

 やはり、女子は兵士にすべきではない。ソフィアはそう思った。

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