第42話 EP2 ゴースト ティナとマーク

 エピソード2 ゴースト ティナとマーク


 ティナは茶猫のデイジーとともに白い壁の迷宮に囚われていた。エルシアで頻発していた失踪事件、それはゴーストと呼ばれる高度な知能を持つ他の惑星人がエルシア人を多数連れ去ろうとする前代未聞の事件であった。


 失踪から生還したごくわずかな者達の証言から、彼らはゴーストに迷宮に引きずり込まれ、他の惑星に移送されるということを突き止めた。

 

 この件ではティナとマークが迷宮に潜入調査をすることにした。本来はマークが迷宮に入る予定だったが、ゴーストによる策略でティナの方が引きずり込まれてしまった。マークが憤る。


「あのゴーストってやつら、引掛けやがったな。最初の入口はフェイクだった。でテイナを引きずり込みやがって。しかし、昔はあんなのいなかったぞ。TJに調べさせてるけど、どこから来たんだ?」


 一方ティナはデイジーを肩に乗せて迷宮内をひたすら歩く。この迷宮のふしぎなところは通った後ろから徐々に通路が消えていくことだ。従って、留まるか前に歩いて行くしかない。


 証言によると迷宮を抜けると異次元に通じる未知のレッドホールがある場所に出て、そこでゴーストに会うそうだ。

 ティナがデイジーに話しかける。   


「うー、この迷宮なんなんだ。ひたすら同じような通路を歩くだけで、もう方角が全然わかんないや。ねえ、デイジー。このまま行って大丈夫だと思う?」


 デイジーはティナの話を理解しており、ティナの顔を見て首をかしげた。デイジーからはティナにテレパシーで簡単なコメントが入ることが多い。彼女(デイジーのこと)は元々宇宙猫と呼んでいい存在なので、何か知っているかもしれない。


(大丈夫ニャン。良く知らないけどたいした人達じゃないよ、たぶん)


「そう、良かった。あ、あの先。もう少しで出口だ。ちょっと怖いね」


 ティナの前方に小さく出口が見えた。この迷宮は入口とは全く離れた別の場所に移動させる装置であることはわかっている。そしてその場所とはゴーストの仮のアジトらしい。


 そして出口から出ると迷宮は消えてしまった。そこは森の中の少し広い場所であった。ティナは身構えて辺りを観察する。


 一方同じ頃、マークはアイリスやTJと連絡を取り、その場所の特定を試みていた。結局WCA支部長のソフィアに場所を特定してもらうことになった。彼女の能力ならゴーストのアジトの座標を特定できる。


 よほどの緊急事態でない限り通常はソフィアに作業をしてもらうことは無いのだが、ガーディアンであるティナがどこかの惑星に移送されてしまう事態は緊急といって良いだろう。


 さらにTJはゴーストの正体について調べて分かったことをマークに伝えた。彼によるとゴーストは第56地域から少し離れたエリアの惑星に住む連中で、環境変化に適合できるように色々な惑星の人間を連れて来ては彼らの遺伝子の改変に利用しているらしいことがわかった。


 また彼らが得意なのは幻影を見せて対象の精神をコントロールする術ということであった。なるほどゴーストと言う名前がついた理由がよくわかる。


 ティナはこの場所がエルシアの僻地であることは確信したが、どのあたりの場所かまでは分からなかった。遠くにレッドホールが見える。あそこから異次元に連れていかれ、どこかの惑星に転送されるのだろう。


 そして何やら不気味な影が数体ティナに近づいてきた。


「光学迷彩か……」


 ゴーストは光学迷彩が施された服を着ているらしい。デイジーが地面に降りて攻撃態勢を取る。ティナは小さく呟いた。


「ウインド」


 鋭い風がゴーストを襲う。しかしゴーストはぎりぎりで風をかわして、逆に反撃に出た。


 急にティナの頭の中が揺さぶられた。おそらく目を経由して頭の中に強烈な情報を入れ込んできたのだろう。視界が消え、体が暗い宙に浮かび固定された(ティナの脳はそう感じた)。しかしティナはそのことを認識しており、動揺はしていない。


(うっ、すごい技だね)幻影の空中で身動きができないティナ。


 そして、ついに幻影空間でゴーストが現れた。黒服を頭からかぶった人としてしゃべり出した。


「君は普通の人間と違うようだね」とゴースト。

「ふ、普通よ」

「いや違う。今まで連れてきたエルシア人とは明らかに違う」

「だったら何よ」


「調べさせてもらわないとな」

「嫌よ。それよりあなたは誰? どこから来たの?」

「我らの故郷か? 遠い星だ。君等の遺伝子が必要だ」

「髪の毛数本あげるわよ」


「はは、ケチだね。体ごと欲しいんだよ。それも百体くらい」

「どうするつもり?」

「我が惑星に持ち帰って、遺伝子改変実験に使わせてもらう」

「実験台ってこと?」


「そうだね。その通り」

「ふざけないでよ、クズ野郎」

「ああ、野蛮なところは普通の住民と一緒だな」

「どっちが野蛮よ。開放しなさいよ、今すぐ」 

「悪いね、そんな事出来る訳ないだろう、こちらを味わいな」


 ゴーストがそう言うと、幻影が強烈に変化した。

 自分の体が引きちぎられ、多数のゴーストが目の前でぐるぐる回転する。

 次に自分の眠っている体が空中に横たわり、顔に白い布をかけられるのを無理やり見せられる。


 どうやら脳内の恐怖の感情を引き出し映像化しているようだ。

 様々な訓練をこなしてきたティナでも結構きつい。



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※残り5話になります! 8/28完結!

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