第41話 ミアとルカ

「偉いな、ミア」

「そんなこと無いよ」


 二人はしばらく沈黙した。

 おもむろにルカが口を開いた。まるで独り言のように言う。


「僕らこれからずっと長い間、この生活を続けるんだよな」

「私達はエルシアのガーディアンだからね。これから五千年……」

「……」


ルカは改めてミアと比べて自分の覚悟の無さを痛感した。五千年って気が遠くなる時間だ。正直実感を持って考えたことは無かった。


「ルカ、不安なの?」

「あ、いや…… 不安では無いけど…… ミアって凄いなあって思った。覚悟がついていてさ」


 ミアはルカから視線を外し、外の方を向いた。夕暮れの海辺をしばし見つめる。

 カモメが二羽飛んでいる。


「私ね……」ミアがポツリと話し出した。


「本当はこの仕事、断るつもりだったんだ」

「え?」


ルカは思い出した。アイリスの最初のスカウティングではミアは首を縦にふらず、最後の最後に承諾したのがミアだった。


「だってさ、こんなの非現実的すぎるでしょ、危険すぎるし」

「そうだけど……」


「どうして、引き受けることにしたと思う?」

「いや、わからないけど……」


「あなたとティナがいたからよ」

「あ……」ルカは声がでない。


「一人じゃ絶対嫌だったけど、あなたとティナがやるって言ったでしょ。一人じゃないんだなって思ったの。ティナはまだ子供だけどあなたがいたから、心細くは無いかなって。私に何かあったら助けてくれそうだし。それでガーディアンを引き受けることにしたの」


「……」

ルカは絶句した。ミアはそんな事を言うタイプには見えなかった。一人でも強く生きて行けそうに見えた。それに自分が頼られるような存在とはとても思わない。横を向いたままミアは続ける。


「私さ、そんなに強くないんだ。本当は…… いつも強がってばかりいるけど、不安を心に押し隠しているの。今でもよ、知らなかったでしょ」


 そう言うとミアはルカの方に振り向いた。


「私、たぶん昔からあなたのことを知っている」

「え、どう言う事?」

「最初にアイリスからあなたの夢を見せてもらったけど、あれ私よ」

「嘘」

「私も同じ夢を見てたわ」

「本当に?」

「本当よ、一度じゃなく何度も」


 誰からも聞いたことが無いし、おそらくTJが調べてもわからないだろうことをルカは確信した。

(何かミアと僕は出会う前から何らかのつながりがある)


ルカはミアの髪をなでた。ミアはそっと目を瞑った。ルカは自分の額をミアの額につけた。記憶の断片が互いに伝わった。そしてすっと離す。ミアはゆっくり目を開ける。

「これからもずっと一緒だ、五千年」

「五千年ね」

ミアがくすっと笑った。二人の神は一緒にエルシアを救い続けることをこの日誓い合ったのだった。

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