第40話 EP1 熱球 ミアとルカ
それからのエルシアでのミア達ガーディアンの活動は順調に続いた。最初の頃にあった印象的なエピソードを記す。これは将来、神話として語られる可能性がある。
エピソード1 熱球 ミアとルカ
小島の周りの波打ち際に多数の熱球の残骸がある。一週間程前にレッドホールから現れたおびただしい真っ赤な熱球がエルシアを襲った。
その為エルシアはかつてない酷暑に見舞われた。しかしガーディアンチームは知恵と神通力で徐々に熱球を排除し住民を酷暑から救った。
しかしガーディアン側の犠牲も大きかった。女神の一人ミアは熱にやられ島の小屋に休むことを余儀なくされた。ミアと同行していた神ルカは、ミアを守るため残りの熱球を島の周りで撃ち落とした。
熱球の最後の一つを海に沈めた後、疲弊しきった体でルカはミアの元に歩いて戻ってきた。
無人島にエルシアの夕陽が差す。戦いがあったとは思えない静かさである。波の音と柔らかな風に南国の木の葉が揺れる音、かもめが鳴く声。あとはルカ自身のやや早い呼吸の音だけである。
小屋の中、白いシーツが敷かれた簡易的だがセミダブルほどの大きさのベッドにミアが横たわっている。丸一日休んで、容態はかなり良くなったようだ。二日前までの戦闘でミアは一人で千個以上の熱球を処理した最大の功労者だった。
「ただいま」ルカが小屋に入るとミアがゆっくり目を覚ました。
「最後の熱球も堕としたよ」
ルカがにこりと笑ってミアに言う。汗にまみれ疲労の濃い顔である。
「ケホケホ、お疲れ様。酷い顔」
ミアも咳をしてから笑う。
「やっぱり熱いよ、あいつら。おかげでこの通り、汗だらけだ」とルカ。
「でも、ようやく終わったのね」
「ああ、今回はタフだったなー」
「シャワーで汗を流してらっしゃいよ、コホ」
小屋の外には簡易的なシャワー室が作られている。ルカ達の能力でちょっとした小屋やシャワー室は一時間もあれば作れる。昨日、熱球を追ってこの島まで来た時に作っておいた。
ルカはミアの言葉に素直に従いシャワーを浴び、着替えをしてミアの元に戻った。太陽はもうすぐ沈もうとしている。久々に涼しい夕方の風が吹く。
ルカはミアが寝るベッドに座った。
「さっぱりしたよ」
ミアがルカの横顔を見つめる。
「ちょっとだけ大人っぽくなったね」ミアが言う。
「ちょっとだけか?」
「そう、ちょっとだけ……」
ミアとルカは見習いトレーニング時代に一年間一緒に過ごし(体感は十年間だが)、エルシアに来てから三カ月が経過した。お互いの事は十分知り尽くしたように感じていたが、まだ一年ちょっと。そうでもないようだ。
「なあ、ミアは最初ミッドガルドの元の生活と並行してガーディアンをやるって言っていただろう?」
「うん」
「でも、やめた……んだよね?」
「やめたよ。無理だよ、結構ハードなんだもの」
「そりゃそうだな。こんな戦いした後に、ミッドガルドに戻って勉強するだの仕事するだのなんてできないよな」
「でしょ。あとね、こっちの生活がなんだかんだ言って好きだって理由もある」
「ヘー、気にいったんだ」
「だって、毎日人助けができるんだよ。これこそ私が消防士になりたかった理由なの」
ルカは仰向けに寝ているミアの顔を見た。いつも強気の表情か弾ける笑顔しか記憶が無いミアの顔だが、病み上がりのせいか、ミッドガルドで最初に見た頃の控えめで大人しい表情を思い出した。
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