第32話 成功とサイドエフェクト(副作用)
ルカはアイリス達のサポートも得て、十一日より前の段階の改変処理を進めた。結局、未曾有の大震災は次の様に置き換わった。
半年前、付近の原子力発電所では当時の幹部が突然、電源の耐水遮蔽処理、及びバックアップを急遽前倒しで進めることを決めた。なぜ、急にそういう方針になったのかは分からないが、後日、この対応は絶賛された。
二日前、三陸沖でM8.2の大きな地震が発生、各地の沿岸で数メートルの津波を観測。気象庁や専門家が大型地震の前震の可能性を示唆した。
各市町村の首長や担当部署が大規模事前避難の異例の意見を相次いで発した。彼らはみな、前夜震災を忠告される夢をみたとのことで、集団予知夢と騒がれた。
前日、やはり前震と思われる複数の地震があり、各市町村は念のため、老人中心に自主避難の開始を決めた。
ある大学の専門家が、断続地震の特徴を解析して、大地震の発生時刻を精密に算出した。 複数の専門家が、その予測に一理あると理解を示し、その時間を念頭に避難が強制化された。
予測通りの時間に大地震は発生した。その震度はM8.7と歴史改変前より少し弱めとなった。それでも各地で大津波が発生した。
事前の避難が功を奏し人的被害は最小限となった。
これは奇跡の大地震対応と世界で賞賛された。
アイリスは今回の改変の影響を確認するために、チーム五人でエルシアに見学に行くことにした。
TJが計算したタイミングでは、エルシアで消えていた人達が、この日海岸で一斉に姿を見せる筈だった。
ミアはミッドガルドで一旦は死に別れた家族との再会を果たしていたが、今日またエルシアの違った環境で再び感動の再会ができることに期待した。
五人が海の方を見つめている。TJがティナを通じて他の四人に伝えた。
「そろそろ、復活の時間だって」
寄せては返すを繰り返していた波が、突如沖で何かの壁があるかのように寄らなくなった。波が沖で停滞している。広い砂浜がその手前まで広がっている。アイリスが呟いた。
「いよいよね」
そして、もやのようなものが現れて、少しずつ人々の形に変化していった。ここだけで何百人いるだろう。
何百人もの人影は徐々にその姿を現しながら、こちらに歩いて来る。表情は散歩から帰ってきた程度の普通の表情だ。
そしてミアは失ったはずの家族を探し出した。祖父母に父親、そして弟の四人だ。
ミアは思わず駆けだして、四人に抱き着いた。
エルシアのミア本体では無いが、姿形は全く同じだ。
四人もミアとの再開を喜んだ。
ミアと彼女の家族は笑顔で会話を交わし、そしてこちらに歩いてきた。
「紹介するわ。おじいちゃん、おばあちゃんとお父さん、そして弟です」
ミアの父親が言う。
「ミアがいつもお世話になっています。と言うか、ここはどこですかね? 随分長いこと眠っていたような」
ミアが言った。
「家に帰ったら別の私とお母さんがいるよ。そこで詳しく聞いてね」
「ああ、わかった」
「お姉ちゃん、ちょっと大きくなったね。また遊ぼうよ」
「うん、もちろん」
ちょっとどころではない年月が一気に埋まった。エルシアでも、ミッドガルドでもミアの家族はまた全員が揃ったのだった。
他の人々も海岸から各々の自宅へ戻ろうと、憶えている者は特殊能力を使ったり、家族に連絡するなどしていた。
アイリスはその様子を見て、今回の大変換はスムーズにいった事を確信した……
◇ ◇ ◇
アイリスは今回の大変換はスムーズにいった事を確信した筈だったが、マークが突然叫んだ。沖の方を見ている。
「おい、みんな見てみろ。怪しいやつらが湧き出てきたぞ、フォルフじゃないのか?」
マークの指さす先には赤く横に細長い巨大なレッドホールとそこから出てくる魔物フォルフがゆっくりとこちらに向かっていた。
猛獣型、爬虫類型と猛禽類型がほとんどで、エルシアを荒らし回ろうとうずうずしている様子が伺える。
ルカはぞっとした。
「おいおいおい、あの数、半端ないぞ。なんでこんなに出てくるんだ。あの大きな穴は何なんだよ」
ティナがTJに急いで確認した。
「TJ、どういうこと。調べて」
TJが調べてから言った。
「フォルフだ。今回のエネルギーの歪をきっかけに大きなレッドホールが開いてしまったらしい」
マークはげんなりした表情で両腕を伸ばした。ストレッチを始めた。
「やれやれ、仕方が無いな。疲れているがもう一働きするか」
その時、ミアがフォルフの奥に何かを見つけた。早い動きでフォルフを次々と退治している。
「あそこ、早い動きの。二人いる。フォルフをやっつけてくれているわ」
「出たな、あれが噂のサードの戦士だ。これが終ったらちょっと挨拶しようぜ」
マークはそう言うと、二人の戦士に加勢してフォルフを一掃した。ざっと五十匹程度いただろうか、フォルフは一匹残らず消されてサードワールドに飛ばし戻された。
戦士二人もサードワールドに戻ろうとレッドホールに向かおうとしたところでマークが呼び止めた。
「待てよ、お二人さん」
見るからに戦士という恰好の二人は男と女だった。振り返って呼びかけたマークを見つめている。男の方が口を開いた。
「何か用か?」
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