第31話 歴史改変 津波
三月十一日金曜日、三月にしては少し寒い午後だった。 ガーディアンチームは沿岸上空に浮遊して待機。沖を見守っていた。
ルカが確認する。
「ミア、確認だけど、津波が来たら、沿岸の人間を全て浮遊させるんだな。沿岸って何百キロあるんだか。まあとにかく浮かせた人間らを全員、高台に僕らとシルバー部隊で移す」
「ええ、建物ごと浮かぶかもしれないけど、長い時間はできないから、なるべく早く全員を避難させて」
ミアは少し心配があった。全力で浮遊術を使うしジーンの追加パワーも使うので、うまく制御できるか。強さはデイジーがコントロールしてくれるが、浮遊指定を確実にできるかは実は自信が無い。最悪は何でもかんでも浮かせてしまえばいいとさえ思っていた。
午後二時四十六分、突然尋常でない揺れが発生した。
そして二十五分後、巨大津波が押し寄せてくるのが見えてきた。
ミアが指示した。
「TJ、ジーンにパワー照射を開始してもらって! デイジー、制御お願いします」
遥か離れたWCA本部がある星雲からワープで巨大なエネルギーが地球に向かって照射されてきた。デイジーのビームで宇宙空間でマグマだまりのように変化した。そしてそこから伸びる青いビームがミアに連結された。
「TJ、時間を超スローにしてっ」
「あいよ、ポチッと」
ミアの体の周りに巨大なグロー放電、青い光が包み、一部には小さい放電が起きている。
「じゃあみんな行くわよ、いい?」
沿岸に達し始めた津波と市街に向かい、両腕を広げて目を瞑った。次の瞬間、
強烈な光が地上のあらゆる方向に照射された。はるかかなた南北の沿岸を含む巨大な面積に光は飛んでいった。
「あー、あれ」
ティナが叫ぶ。なんと浮遊し始めたのは人、建物だけでなくあらゆる土地、悪いことに津波自体も浮遊し始めている。
マークが頭を抱えた。
「強すぎる。全部浮いちゃっているよ。選別できないのか」
ミアも同じことを思っているが、強力すぎて微調整が利かない。
ルカが叫んだ。
「それじゃあ意味が無い。人が空中で溺れる。津波とそれ以外を分離するんだ、ミア!」
「わかってるー、でもできないのよー」
ミアも叫び返す。
ティナがデイジーに言った。
「デイジー何とかできない?」
デイジーは「ミィ」と鳴いて、マグマだまりに出していた青いビームを止めると、今度はミアに緑色のビームを照射した。
するとミアが出していた光も緑色に変わった。
そして、何と浮かび始めていた人や建物や土地が今度は降下し始めた。剥がされかかっていた土地が再び結合し始めた。
さらに驚いたのは津波が何と海ごとそのまま浮かび続けたのである。
想像しない光景が目の前に現れた。海が浮かんでいる。
普段見る事のない海底の地形が遠くまで続いている。遠くは薄暗くてよく見えないが沿岸はまるで潮が極限まで引いたかの様だ。
そして空中に浮かぶ津波。最新の水族館で下から見る水路の様だ。
ほぼ正面に津波が見えている空中のチームメンバー。アイリスがポカンを口を開けてそれを見つめる。
「何、これ。津波の方を浮かしちゃったね」
他のメンバーも初めて見る光景に固まっている。
一人必死な人がいる。光を放出し続けているミアだ。
「みんなー、ぼけっとしていないで今の内に早く住民を避難させてー、急いで―、長く持たないからっ!」
一斉に百人以上のチームが動き出した。アルプスのトレーニングでティナが編み出した荷台とレール技による高速避難、気球、テレポーテーション、あらゆる移動技を使って、二万人の避難を行った。記憶操作のスプレーは時間がかかりすぎるので、ブリザード方式で操作ガスの吹雪にさらした。
粉雪が舞う中、三十分ほどで全員の避難が完了した。
そしてミアは津波の勢いを弱めた上で海面を下げて元に戻した。
さらにそこから二時間ほどかけて、百人のシルバーチームは人々の一次的な記憶処理を行った。あとはデクラークに戻ってから遠隔で二次処理をする算段だ。
ミアは自分のオリジナルの家族が無事全員再開するのを見届けて、チームのところに戻ってきた。涙を拭いている。
「明日、一旦私ミッドガルドの本体に戻ります。家族が今どうなっているか見たいです。TJ、みなさん、後をお願いできますか?」
「もちろん、まかせてくれ。ミアの家族の処理を一番最初にやっておくよ。念入りにね」TJが言った。
そしてルカが言った。
「僕は前処理してくるから。アイリス、ソフィア、ヨギも。手伝ってくれる?」
三人とも快諾した。
マークは別の残件を処理してくれる。
「俺は、原発の方の処理をしてくるよ。あまり活躍できていないからな、ティナ少し手伝ってくれ」
ティナはミアに代わり言った。
「マーク了解。あ、デイジーありがとう。あなたのお陰ね。ソフィア、ジーンにお礼言っておいてね。メリル、シルバーの皆さんもありがとう。もう少し記憶修正の仕事をしていただきますけどよろしくです」
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