第26話 デイジー
ティナがデイジーを見ながら考え込んでいると、マークが呼びかけた。
「ティナ、黒猫がまずいぞ」
ティナは、はっとして黒猫の方を見た。
どこから、いつの間に来たのかカラスが数羽黒猫に攻撃をしかけている。黒猫は困惑した表情で動けなくなっている。
「コラー、何してるの! 焼き鳥にしてやるわよ」ティナはカラスに叫んだ。電撃を出そうとした時に、マークが止めた。
「ティナ、それは駄目だ。カラスに悪意は無い、追っ払うくらいにしておこう」そう言うとマークはカラスを追い払った。
黒猫は少しカラスに突かれたようだが、特に怪我も無く無事だ。
「なかなか、猫一匹守るのも簡単で無いわね」
「ああ、自然の摂理というのもなかなかしつこいんだ」
「どうすればいいだろう」ティナはデイジーと黒猫を見ながら呟いた。
マークが言った。
「その茶色の猫はティナが連れてけよ。いいパートナーになりそうだ。黒猫は保護団体に引き渡すんだな」
「そうか、誰かに飼ってもらえばいいんだね。ね、デイジー」
ティナがデイジーに笑顔で言うと、デイジーは「ミィ」と鳴き、すくっと立ち上がった。ティナの顔をじっと見つめる。するとティナの頭に何か情報が入ってきた。クリアでは無いがテレパシーのようだ。
「TJ、デイジーが考えていることがわかる。何か私に伝えている。そう、応援を呼んでくれるみたい」
するとTJが伝えてきた。「そいつ、何かやるぞ。エネルギーが急上昇している」
すると、デイジーの目から強烈な光が発せられ、遠くの方まで真っすぐに伸びた。
「あ、私の家の方向」
光は数秒で消えた。
「何をしたんだろう?」マークが不思議がる。
しばらくしてティナの実家の方から、二人の人間が走ってきた。一人は高校生くらいの女の子で、もう一人は小学生だ。ティナは慌てて姿を消してマークに呟いた。
「千里(ちさと)と千秋(ちあき)だ」
マークが答える。
「お前にそっくりだな。姉妹か?」
「そう。大きい方が千里お姉ちゃん、小さい方がすぐ下の妹、千秋よ」
千秋が叫んだ。
「子猫いたー。やっぱり黒猫だー」
千里も言う。
「本当にいたねー。びっくりした。不思議ねー」
千秋と千里は家にいたときに突然外からの光で明るくなって、頭の中に子猫がこの場所にいる情景が浮かんだのだった。二人ともそれを感じたので、慌ててここに来たようだった。
透明なまま、ティナはTJにこっそり相談した。「千里達に話してもいい? 見えない状態で声を変えて」
TJが答える。「うーん、いいよそれ位なら」
ティナは声を少し変えて千夏だとばれないようにして、千里と千秋にテレパシーで話した。
「千里、千秋、来てくれてありがとう」
二人は突然頭の中に声が聞こえてまたまた驚いた。
「誰?まじ、なにこれ?」
「気にしないで、あなた達の親友よ。その黒猫、飼ってくれない?お母さんに言えばたぶんいいって言ってくれる」
千里が訊く。
「親友ってあなた誰よ? この猫私ん家で飼うの?」
ティナは最初の質問には答えず、言った。
「お願い、子猫は大切に飼って」
今度は千秋が言った。
「わかった。絶対飼う。なんかあなたの言い方、聞いたことある」
ティナが答える。
「ありがとうね、千秋。ところでさ、千夏は今どうしているの?」
「千夏お姉ちゃん? まだグーグー寝てるよ」
マークもティナも苦笑した。
「早く起きろ、って言っておいて」
「わかった」
「じゃあね、このことは誰にも言わないように」
千里が言った。
「わかった、秘密ね。この黒猫の事はまかせて」
千里と千秋が黒猫を抱いて自宅へ戻って行った。
ティナは姿を現すと手元のデイジーを見つめて言った。
「あなた、凄い能力あるのね。私達と一緒にエルシアに行きますか?」
デイジーは目を細めてまた鳴いた。オーケーらしい。
一部始終を見ていたアイリスとルカとミアだったが、無事ミッションが終わったようで一息ついた。アイリスが口を開いた。
「ティナは何とかうまくいったようね」
ルカが一言添える。
「なんか、面白いのが仲間に増えるみたいだね」
ミアは「可愛い子猫よ、良かった」
ティナとマークが戻ってくると、デイジーはたちまちみんなに可愛がられた。二、三時間経過してTJがやってきた。
「ティナの改変は調整が簡単だったよ。副作用もほとんど無い」
アイリスが言った。
「TJ、お疲れ様。あの猫はワープシードの転生体?」
「そうだよ。何で地球に来たのか、偶然流れ着いたのかわからないけれど」
ミアが素朴な疑問を口にした。
「そんな凄い生命体がなぜ、簡単に車に轢かれて死んでしまったの?」
TJが答えた。
「いや、死んでいないよ。別の生命体に移るか何かしたようだよ。ティナ、その子猫ちゃん、エルシアでは防御に難があるから、色々特殊能力で防御を固めておいた方がいいよ。そうすればまた別の生命体に乗り移らなくて済む」
「TJ、わかったわ。やっぱりこの子猫の姿が一番よね? デイジー」
デイジーはあくびをしただけで眠った。興味が無さそうである。
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