第19話 ソフィア、TJ、メリル
「はい、じゃあみなさん、椅子に座ってくつろいで頂戴。メリル、飲み物と食べ物の準備をお願い」
ソフィアがメイド服を着た女性に指示をした。メリルと言う名前らしい。まだ相当若いと思われるが、その割には落ち着いていて品がある。
「はい。しばらくお待ちを」
彼女は驚いたことに手先を動かすだけで次々と飲み物と食べ物を個々のテーブルに並べていった。ものの一分程度で――
「まるで魔法だ」ルカが呟く。
「メリルはこの星デクラークの住人で、デクラークの人は皆、高度の特殊能力が使えるのよ」アイリスが言うと、ヨギも補足した。
「この星は太陽系にも近く、住人は少ないが文明レベルが高くとても安定していて支部を構えるには最適の場所なんじゃ」
ルカには知りたいことが沢山あった。
「あの、地球外の生命体とか、実際どうなっているんですか? 少しついていけません」
ソフィアが言った。
「そうね、じゃあきちんと説明しましょう。えーと、TJ、プロジェクター使って準備していたプレゼンお願い」
「オーケー、では地球のみなさん、説明するのでこちらを見てください」
3Dの映像が空中に現われた。銀河系の姿が見えており徐々に拡大されている。TJの説明が始まった。
「私達がいる銀河系にはですね、知能の高い生命体がいる星が1億ほどあります」
「そんなに??」ルカもミアも驚いた。
「WCAはそんな銀河系の特別な星々を平和に保つために出来ました。 WCAは銀河系を約千の区域に分けて管理を分担して受け持つことにしました。太陽系を含むエリアは第五十六地域で、およそ十万の星を管理しています」
ソフィアが付け加える。「十万と言っても大半は監視しているだけで、特別に集中管理している星は地球を含めて百個くらいよ」
「それでも多すぎだね」ルカが呟く。
「WCAの第五十六地域支部はその百個の星をこのメンバーで管理しています」TJはメンバーの方に手を広げた。
「地球は複数の並行世界が入り組んでいて複雑で不安定な星なのですが、それが原因なのか貴重な人材をしばしば輩出するので、特に管理を手厚くするように指示されています」
「手厚くねえ……」ルカには少し疑問だ。
「アイリスから聞いていると思いますが、地球にはあなた達ミッドガルドとエルシア、第三世界などの並行世界があり相互に干渉し合っています。ミッドガルドの住人は最も人口が多いですが、特殊能力を使えないのが難点です」
いや、それが普通でしょう。
「エルシアの住人は特殊能力があり寿命も長いですが、第三世界の干渉を頻繁に受け致命的な損害を受けることがあります。レッドホールと呼ぶ穴があちこちに開いては第三世界の異物が現れるのです」
ルカが訊く「それはミッドガルドには開かないのですか? 聞いたことがありませんけど」
TJが手元の端末を少し見てから言った。「遥か過去には同じようにミッドガルドにレッドホールが開きやすかった時期もありますが、ここ数万年はあまり開いていないようです」
「その割には災害が多いよなあ」ルカが呟く。
ミアがTJに訊いた。
「あの、そのレッドホールから出てくるもの、フォー何でしたっけ?」
「フォルフ、Forign Objects and Life Formsの略です。第三世界からやってくる異物や生命体のことです」
「そのフォルフからエルシアの住人を守るのが私達の仕事になるわけですよね?」
「それだけでは無いですが、その仕事が多くなると思います」
「具体的にはどのようなものが出てくるんでしょうか?」
マークが答えた。
「第三世界に住むあらゆるものだよ。動物や鳥類、爬虫類に似た攻撃的な生物と、霊体のような存在とか、悪魔のようなのとか。ミッドガルドで魔物とされてきたものの正体はこいつらだよ」
「ちょっと怖いわね」
「たいしたことないよ。手こずることもあるけれど、鍛えられた特殊能力を発揮すれば大体は片付く」
マークはそう言うが、TJは少し正確に説明した。
「厄介なのは、パターンが色々あって、事前に想像がつかないことです。新しい種類のフォルフが出てくることもあります」
「第三世界ってどういうところなんだろう。誰か行った事ことあるんですか?」ルカが不思議がった。
マークは「お前、そんなところに行きたい奴はいないよ。俺だってごめんだ」
ソフィアが口を出した。
「あまり情報は無いけれど、地球外の生物が集まりやすい特別な時空間よ。あまりにも多種の生命体が遠くの星からやって来るのでほとんど統治が難しく無法地帯だけど、少数の知的な原住民もいるみたい」
マークが言う。
「ああ、時々すごいハンターが魔物を追ってレッドホールから出てくるぞ。ありゃ生まれつきの戦士だな」
ティナが質問した。
「あのさ、もう切り替わりから半年以上経つじゃない? エルシアって今どういう状況?」
TJが答える。
「まだレッドホールは見つけては塞いでいるんで、さほと大きな問題は起きていないが、エルシア住民によるフォルフの退治は段々難しくなってきています。何せ数千年振りの状況なので」
ソフィアが三人に言った。
「トレーニングが終わったら早速みんなに活躍してもらわないといけないわ。他に何か質問は? 無ければ少し休憩しましょう」
皆がしばらく雑談したり飲み物を飲んだりしてから、ソフィアが言った。
「さて、気分を変えて外に出ましょうか?空飛ぶジェリーフィッシュに乗ってデクラークの自然を見ながら空中遊泳と行きましょう」
「ジェリーフィッシュ?」とルカ
「くらげよ」ミアが答える。
「メリル、お願い」ソフィアが言うと、メリルが外に大きく透明なくらげを出した。その頭の上にも透明な蓮の葉のような皿がある。
「あそこに乗るのよ。ふわふわゆったりしながら景色を楽しめるわ」
さらにメリルが一人ずつ指を指してみんなを部屋からくらげの頭に移動していく。本当に魔法使いだ。
ルカが尋ねる。
「メリルさん。この星の人はみんなそう言う事ができるんですか?」
「はい。少し練習は必要ですが、大体の人はこれくらいはできますよ」
ミアも感心した。
「すごいですね。こんな人達がいる星があるなんて」
「ありがとうございます。では、私もご一緒しますので出発しましょう」
メリルがそう言うと、巨大くらげは全員を乗せて、ゆっくりと空中を漂い始めた。
デクラークの自然は地球の景観をさらにダイナミックにしたようで、彩りも多く、たいへん美しい。
地球の三人は初めて見るその風景に心を奪われた。アイリスが言う。
「とてもきれいでしょう。デクラークは地球と並んで、第五十六地域の名星と言われているのよ」
ルカ達には地球よりも美しく見える。ミアは特に感動しているようだ。
「こんな景色見たことありません。奇跡を見ているようです」
ミアの表現を聞いて、メリルもうれしい気持ちがこみ上げた。
「デクラークは人口が星全体で百万人くらいしかいないんです。ですが環境負荷をなるべく減らして、みな環境を維持するのに努力していますので何とかこの自然は保っています」
マークが呟いた。
「感心だな。自然環境を維持するのはもちろん素晴らしいが、繁殖本能を抑制しているところは俺には真似できん」
ソフィアがたしなめる。
「マーク、子孫を増やすのは悪いことでは無いけれど、要はバランスよ。環境を維持しながら人口増加はほどほどにする」
「まあ、この環境を見ていると、それは正しいかもなという気はするよ」
「メリル、あなたの星はいつも素晴らしいと感じるわ。さあ、そろそろ戻りましょうか」
「はい、ソフィア」
空飛ぶくらげはゆっくりとUターンして優雅に帰路についた。
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