第18話 デクラーク WCA第56地域支部
アルプスのトレーニングからしばらく経ったある日、アイリスの提案で一度WCAの第五十六地域支部をルカ達が訪問することになった。WCAは地球外の惑星にあるが、アイリスがほぼ瞬時に連れて行ってくれる。アイリスは三人に伝えていないが、彼らの成長具合の中間報告と対面チェックも兼ねている。
アイリスの後にルカ、ミア、ティナの三人がついていくと白い建物が見え、それがWCAの支部だと説明を受けた。ごく少数しかいないということだったが、不釣り合いに大きな建物である。
三人は恐る恐るアイリスと一緒に支部に入った。幅広い通路を奥の部屋に進む。BGMが流れてくる。ミッドガルドの音楽のようだ。出迎えてくれたのは支部長のソフィアだった。
「ミッドガルドのみなさん、WCA第56地区支部へようこそ。支部長のソフィアです。よろしくね、さあこちらへどうぞ」
案内された広いスペースにはヨギ、マーク、TJが待っていた。アイリスが全員を紹介する。
「こちらのおじさまはヨギ、議長をやってくれています」
ソフィアが補足する。
「一番の古株よ。出身は…… どこだっけ?」
「太陽系から遠く離れたところじゃよ」ヨギは苦笑した。
「うちの生き字引なので歴史的なこととかはヨギに訊いてね」
次に少しだけ頭の良さそうな男をアイリスが紹介する。
「こちらは、TJ。情報管理をメインにやってもらっているわ。困った事や調べたい事があったら彼に訊くといいわよ」
TJが優しい口調で続く。
「よろしく。いつでも気軽に連絡してくれ。タイムリープや歴史の改変はほどほどにしてくれるといいな。大変なのでね。新人さん達、頑張りな」
「マークとアイリスの紹介は要らないわね。じゃあアイリス、三人の紹介をお願い」
ソフィアが言った。
「はい、ソフィア。まず史上最年少、ティナちゃん」
「よろしくー。ティナでーす。特殊能力だーい好き」ティナが積極的に挨拶した。
「ティナは特殊能力をすごい沢山覚えていて、マニアって言ってもいいくらいなの。体もまだまだ成長中なのでこれからの伸び代は大きくてとっても期待できるわよ」
マークが初めて口を開いた。
「まだ、甘えん坊だけどな、潜在能力はすごいぞ」ティナを横目で見てウインクした。ティナは少し頬を赤らめて膨らませた。「もー」
「TJ、お前の系統だ。機会があったら色々教えてやってくれ」
「ああ、マーク。了解した。ようやく後継者が来てくれたのかもしれない」
「はいはい、TJ気が早いわよ。次はミア。この子はみんなも知っての通り、久々の期待の大型新人よ」
ミアは『大型新人』などと言われて戸惑った。何をいきなり言っているのだろう。
「はい。みなさん、ミアです。まだ色々良く分かっておりませんが、よろしくお願いします」
ヨギが目を細めた。「おー、なんかジーンの若い頃に雰囲気が似ている。懐かしいぞ」
マークがTJに小声で訊いた。「ジーンって、ソフィアのお袋さんか?」
TJが答える。「そうだよ、伝説の爆裂破壊神。今はWCAの本部に居る」
ソフィアがたしなめる「ヨギ、また余計な事は言わないでよ。ミアはまだトレーニング中の若手よ。私が困惑するじゃない」
「ミア。変わった連中が多いけど、少しは助けになる人達だから安心して。何か心配事とかあったらすぐにアイリスか私に言ってね。活躍を期待しているわ」
「はい。わかりました」ミアが細いが筋肉も程よく付いたバランスの良い体をすっと伸ばし、さらさらした髪を後ろにかきあげた。小顔にやや不釣り合いな大きな目がきらりと光った。
アイリスがちらりとルカを見た。
「最後にルカ。これも成長株ではあるんだけど、また癖がある男が増えたって感じ」 それを聞いてヨギ、マーク、TJの目は横一線、白け顔になった。
ちょっと、アイリスさん。最初の紹介でそれはあんまりではないのか?『これ』とか『癖がある』とか、遠慮ないなあ。
「ルカです。アイリスさんには公私ともども、深入りされてお世話になっています。どうかよろしくお願いします」少しは反撃しておかないとな。
マークが反応した。
「アイリス、やるじゃないか。動画以上の事をしたのか?既に?」
アイリスが慌てて火消しに動く。
「ルカー、何言ってくれてんのよ。ねえマーク、勘違いしないで頂戴。ルカとはスカウトの関係しかないわよ」
しかし、ミアとソフィアはルカとアイリス二人の目を動きを逃すものかと注目している。ルカはその視線を感じて少し言い過ぎたかなと反省。
「あー、その通りですが、プライバシーは尊重していただきたく、そのうえで微力ながらもこれから頑張らせていただきます」
「はい、ルカ君ありがとう。(後で覚えておけよ、小僧)」
「アイリスさん、顔が怖いです」ルカは苦笑いした。
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