第13話 特殊能力

 さて、しばらくしてから休憩のために皆が陸に上がってきた。ムギが駆け寄る。

 ルカとミアがティナの所に行って教本を見た。


「ねえ、ティナ。その本ってそんなに色々なことが書いてあるの?」


 ティナが本をめくって中身を見せた。何と中身は紙ではなくて、極薄の柔らかいディスプレーだった。各ページで情報が切り替わり、リンクからどんな情報でも呼び出せるようになっていた。ディスプレーなら、わざわざ何枚も重ねて本にする必要は無いように思うが…… どうも製作者のこだわりデザインらしい。


「うわ、これ全ページ、紙じゃなくてディスプレーじゃん。道理で詳しいはずだ」


 アイリスが補足する。


「一万以上の特殊能力とその学習方法、全てのトレーニングの詳細、ついてはあらゆる人間と神の世界の情報が呼び出せるわよ」


「個人情報もですか?」

「古今東西のあらゆる人物のね。でも個人情報保護法を遵守しているから、プライバシーに関わる情報はあまり取れないわよ」


「アイリスさんを検索してもいいですか?」

「私は極秘情報だから出てこないわよ。あなたの動画は出てくるけど」


「消してください!」

「僕らにももらえませんか? ティナだけ知識が豊富になっていくんですけど」


 アイリスはバッグから何かを二つ取り出して見せた。

「じゃあ、これを二人にあげるわ。専用スマホよ。教本ほどではないけどこれで十分情報は調べられる。あとTJと通信できるから、何かあれば彼に訊くといいわ」


「やった。ありがとうございます。」

 早速、ルカはスマホで『瞬間移動』を検索してみた。

「ふむふむ。こうやるのか。比較的簡単だな。これやってみますね」


 マークが笑って言った。

「おう、やってみろ。なるべく遠くがいいぞ」


 ルカが記載通りに念じると、あら簡単、テレポーテーションができた――

 と、思ったら遠くに離れたところに移動したルカは感じた。「足が疲れた」

 しかし、そこに居ても仕方が無いので元の場所に再度瞬間移動する。

 

 ミアが言った。

「おかえりなさい。少しの間姿が見えなくなっただけだね。あれ、どうしたの?」


 ルカの顔が冴えない。しかも両手を膝についている。

「脚が、脚が疲れて」


 マークが説明した。

「瞬間移動は簡単にできるが、使うエネルギーはその場所まで歩いて行ったのと変わらないんだ。気をつけろ」


「了解。気を付けます」

 アイリスが歩いてきて三人に言った。


「明日は少し特殊能力のトレーニングをしましょう。ウインドの練習をもう少ししたら、今日はテントを張ってここで休みますよ」


「え、元の世界に戻るんじゃ?」

「言ったでしょ、一晩で十日程度のトレーニングをするって。初回はここで十泊よ」

「あ、そうだった。十日連続ってことか。うへー大変だ」



 翌日――

 次の日は特殊能力の訓練も行う事になった。アイリスが指示する。


「ミアは『フロート』、『フライ』など念力系の能力を練習して。あとちょうど湖があるから水の制御ね。ティナは広く浅くでいいから、色々な特殊能力を検索して試してみて。あなたTJより素質あるわよ」


「僕は?」

 ルカが訊くと、アイリスが悩んだ。


「あなたはねえ、うーん、疲れを取る方法を調べたら? 特殊能力より基礎体力がねえ」

「なんか、適当なんですけど」


 マークが口添えした。

「強調・増幅系にしたらどうだ?『インクリーズ』とか『アンプリファイ』、『レゾナンス』なんかもいいぞ」


「それ、何に使えるんですか?」

「例えばだ、誰かが何か能力を使うときに、強調能力を使うと、その能力が増大する」


「技の能力を高めるんですね。今一つ面白味が無いですね」

「おまえ、バカにしてるな、こういう系は応用がとても効くんだぞ」


「それより空飛ぶとか飛行機の操縦とかがいいです」

「アホか。じゃあすごいところ見せてやる。少し飛んでみろ」


「え、じゃあ『フライ……』」

 ルカがふわっと浮かんだ瞬間マークがにやりとした。

『アクセラレート。フライ、ハイヤー』

 ルカの体が一気に空高く飛んで行った。


「うわー、助けてー」

 地上がみるみる小さくなり、体は雲を突き抜けた。高度が上がりすぎ凍える寒さ、空気が薄くて頭がくらくらしてきた。


 ティナがぼそっと言った

「見えなくなっちゃった」


 少ししてから、突然ルカが地上に現われた。青い顔をして息を切らしている。

「お帰りなさい」


 ミアが言った。ルカは声を絞り出した。

「ハアハア、瞬間移動で戻れた。足は痛くないぞ」

「落ちるだけだからな、エネルギー不要だ。どうだ加速技もいいだろう」

「わかったよ。それ系やるよ」


 その後はアイリスがウインドサーフィンの練習の再開を促した。 

 やがて、ミアは少しの特殊能力で補助しながらだが、タッキングという風上側の方向転換から覚え、少し難しいジャイブという風下側の方向転換までできるようになった。


 ルカは不器用で、ひたすら風下に流されては、自前で風を起こす『ウインド』を使って風上に戻るのを繰り返していた。


 ティナはサップボードの上に立ってのんびりとルカ達の様子を見ていた。


 おもむろにアイリスが告げた。


「今日はこれくらいにしましょう。上がってシャワー浴びて着替えて頂戴。それからテントと夕食の準備をお願いしまーす」


 役割は自然と決まって、アイリスがリーダー、ティナが指導係、マークとルカがほぼすべての作業、夕食の支度はミア中心という感じになった。


 マークがぼやき、ルカも同意する。

「俺達、こき使われていないか?」

「僕もそう思う。これが一年続くんですか?」


「いや実質十年続くんだ。アウトドアの達人になりそうだな」

「嫌ですよ。僕はインドア派なんです」


「仕方がないだろ。俺だって引退した身なのに、お前たちのお守りをやらされてるんだぞ」


 この調子で初回のトレーニングは十日間続くのであった。

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