第12話 トレーニングNo.1 湖
翌日の夜、三人とも寝付くと夢の中でアイリスから呼び出され、瞬間的に別の場所、別の時間に移動した。
場所はどこかの湖のほとりである。季節は暖かい夏の様だ。なぜか、みなウエットスーツとライフジャケットを着ている。ミアの姿を見たルカは少し唾を飲みこんだ。
「何、見てるのよ!」
ルカの視線を感じたミアが体を隠すようにしてルカを睨みつけた。
「いやあ、何でこんな格好してるんだろうね?」
湖にはウインドサーフィンが五艇並んで置かれている。
「見ればわかるじゃない。ベッドからいきなりここに移動させられて違和感強すぎだけど」
ミアはティナが飼い犬を連れて来ているのを見た。柴犬だ。
「可愛いー。何て名前?」
「ムギって言うの」
「何歳? 男の子? 女の子?」
「三歳。男の子だよ」
「ムギちゃん。可愛いねえ。初めまして」
ミアはしゃがんでムギの頭を撫でた。ムギは少し興奮してしっぽを振った。
アイリスが三人の前に立った。やはりウエットスーツを一応着ているが上着を羽織っている。ルカがまじまじとアイリスを見ようとしたが、ミアに睨まれてあからさまな直視はできない。
「はい、初回はウィンドサーフィンでトレーニングします。まず今日覚える特殊能力は水に浮くことと、風を利用すること、それから後は…… 各自適用に選んでください。ティナ、本はあるわね?」
「あるよー。私がぴったりの特殊能力を選んで教えてあげるよ」
「はい。ウインドサーフィンをやったことがある人っ? っていないわよね。基本を教えますが、えーと、マークあなたが教えてあげて。よろしくね。もし溺れそうになったらマークに助けてもらってください。ティナちゃん。あなたはまだ子供だからほどほどでいいわよ。最初は手漕ぎボートでもいいかな」
「はーい」とティナ。
マークがぶつぶつ文句を言う。
「アイリス、結局、俺が全部やるのか?」
「もちろんでしょ、運動系はあなたの専門よ。私は基本的にここから見守るわ。よ・ろ・し・く・ネ!」
メガホンを持ったアイリスはサングラスをかけてビーチチェアに座った。
「ったく。ウインドサーフィンなんて良く覚えてないぞ。ティナ、サポートしてくれ」
「あいよ。みんな、まずはこの砂浜で練習よ。えーと、ボードに乗ってブームを持ってセイルを上げてくださーい。風にあおられないように気を付けて」
「ブームってこの曲がっているところか?」
「セールが帆のことよね?」
「こうだ。二人とも見ろ」
マークが例を示した。
「はーい、あとは空中に教本のリンク映像を見せるので、その真似をして練習してくださーい。プロジェクション!」
ティナが叫ぶと、三人の近くの空中にウィンドサーフィンの練習動画が映し出された。
ルカは思った。(便利なものだ。ティナはいつの間にか新しい技を覚えている。すごいな。僕もあの本読んだ方がいいかな。しかし何でアナログな本なんだ?)
いつの間にかストローで何かを飲んでいるアイリスがメガホンで叫んだ。
「おーい、ルカくん。ぼーっとしてないで練習練習!」
あの人、何様だよ。映画監督かリゾート客じゃないんだから。全く。
しばらく陸上練習をして、二人は立ち位置や持ち方を覚えた。
「じゃあ、浮上技も覚えよう」ティナが言う。
本当にティナは人間なのか? もう既に特殊能力の教師だ。ミアとルカに技の発動の基礎を教えこんた。
「じゃあ、自分でも他人でも溺れそうになった時は、今教えたようにして『フロート』って叫べばいいわ。あとは念じる感覚で程度を調整してね」
「ティナちゃん…… あなた、すごいわね」
「全然。はい、じゃあ湖にボードを持っていってくださーい。フットストラップとフィンの取りつけ忘れないでね。適当なところでボードに立ってセイルをアップホールラインで引っ張り上げてみてください。映像見ながらでいいよ」
マークも驚く。
「ティナ、ウィンドやったことあるのか? 詳しすぎるな」
「無いよ。それよりマークは二人の近くでサポートしてあげて」
「おうよ」
首をかしげながらマークはルカ、ミアの元へ行った。
二人はボードの上に立ってセイルを引っ張り上げては体勢を整えようとするが、少しの風でバランスを崩してすぐにボードから落ちてしまう。何度も何度もこれを繰り返し、なかなか走り出すまでには至らない。しびれを切らしてマークがボードを少し支えてあげる。
するとミアがようやく落ちずにニュートラルポジションに体勢を整えられるようになった。ブームを両手で掴み、おそるおそる風を受ける。
「風でセイルが持っていかれないように少し後ろに体重をかけな」
マークの指導で、ミアは徐々に感覚を掴んでいく。
「そう。ブームをしっかり持って、引っ張られる力を足でボードに伝えるんだ。足で押し込む感じ」
ミアは飲み込みが早く、ゆっくりと走り出すことができるようになった。
「わー。これは楽しいわ」
一方、ルカはまだ『沈』とセイルアップを永遠に繰り返している。それを見たティナが『クッション』という特殊能力で水上に浮上する小さいプレートを出してあげた。ルカはボードから落ちても、そのプレートに受け止められて水に沈むのを防ぐ事ができた。それでもルカがボード上で安定することができないでいた。
「腕が疲れたー。ティナ先生、だめです―。できませーん」
「ルカ、マストと常にV字になるように立ってバランス取って。少しサポートしてあげる」
ルカがボードに立った時に、ティナが叫んだ。
『ステイ、オンボード』
するとルカの体がボード上でぶれなくなり落ちることがなくなった。その状態でV字をとるように体を傾けると全体が安定して、セールを少し引き込むとボードが動き始めた。
「やった。動いたー」
アイリスが拍手する。
「おめでとう。ようやく乗れたね。ルカ、あなた自分で特殊能力使いなさいよ。」
「あー、何だっけティナ? ステイ?」
「ステイ、オンボードよ」
「サンキュー、やってみる」
みんな、しばらく練習を続けた。
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