第11話 山頂にてミア契約

 翌朝、一行はさらに奥の山へ向かって出発した。池塘やら池やらがある比較的平坦な道のりだが、普段平地では見られない光景にルカもミアも心を奪われている。そして感動しながら一時間くらい歩いて奥の山頂に到着した。


「山頂到着~。どう? いい景色でしょ」

 アイリスがドヤ顔で言う。


「本当いい眺めだわ。こんなの初めて。山っていいね」

 ミアも満足な表情だ。


 一行が和気あいあいと話しているとアイリスが三人に説明を始めた。


「今回はリアルな時間にお試しトレーニングを行っていますが、普段はみなさんが寝ている夜に、夢を見る様な形で出向してもらいます。本体は寝てるけど、別の体がトレーニングをしているって感じです。わかります?」


 ティナ(千夏)が言った。「わかんない」


「まあ、明日以降すぐにわかりますよ。それから、一夜の間にトレーニングは大体十日分行います」


 マークが補足する。

「十日間ぶっ通しでトレーニングした後、目が覚めたら、『あれ、一晩しか経っていないぞ』ってそんな感じだ」


 ルカがマークに確認する。

「それを一年近く行うってことは十年近いトレーニングをするって事ですか?」


 マークは当たり前という顔をして頷いている。

「そういうことだな。すごい鍛えられるぞ」


 アイリスが説明を続ける。

「みなさん、トレーニングでは基礎体力や必要な知識の習得はもちろんですが、特殊能力の訓練もしますね」


 ティナはお菓子をほおばり、景色を見ながら聞いている。

「特殊能力って何ですか?」ルカが訊いた。


 ティナがザックから本を取り出した。

「これだよー。アイリスからもらったの。いろんなのが載ってるよ」


「それは特殊能力の辞典です。ティナにあげました。神の世界を守護するためには、色々な特殊能力を駆使する必要があります。例えば念力のようなものとか、瞬間移動やちょっとしたタイムリープ、非常に多くの能力があります。でもどれも使いこなすのには訓練が必要です。今後主なものはトレーニングの中で身に着けてもらいます」


 マークがおもむろに立ち上がり、例を見せた。

「例えば、こうだ」


 そう言うと、突然マークの体が空中に浮かび上がった。

「おお」


 ルカが感心すると、マークは空中を軽く移動した。

「どうだ。あまり見たことがないだろう」

「なんで空中に浮かべるんだ?」

「それは…… 神だからだ」

「理由になってないよ」


 アイリスが代わりに説明した。

「別に神じゃなくても、トレーニング中に目に見えない特殊なエネルギーをみんなに注入しているから、徐々に能力が発現されるのよ。どれくらい能力が上がるかは才能とトレーニング次第だけどね」


「どうやってやるんですか?」

「最初の内は目瞬きをして、強く念じながら能力を叫べばいいわ」

「へえ、簡単ですね」

「念じる力が弱いと、あまり能力が発揮できないわよ、ジェスチャー使ってもいいかも。その辺が練習どころ」


 ティナが本を閉じて近寄ってきた。

「私、もういくつかできるようになったよ。これ見て」


 ティナが前方に手をかざして瞬きをすると同時に叫んだ『メイズ!』

 すると前方に突如迷路が出現した。二メートルくらいの高さのとうもろこしでできている。

「みんなゴールまで競争!」


「まじか……」 渋々全員迷路に突入する。


「この能力なんか役に立つのか?」

 ルカがぶつぶつ文句を言いながら迷路の中を早歩きする。アイリスも苦笑いしながら、「まあ、工夫で色々変形応用できるから」と言った。


「これは魔法なのか?」

「ミッドガルドの人達はそういう風に言うけど、私達から見たら自然な能力の一つよ。ちょっと物理法則には従わないんだけど」


「理解しがたいですね」

「人間が普段見ているのは本当の世界のごく一部なのよ」

「そういうものですかね?」

「まだあまり知らない方がいいわ。混乱するから。まずは新しい能力を色々楽しんで身に着けて頂戴」

「はい。アイリス先生」


 全員迷路から出ると、ティナが本を振りかざした。

「私、これからも色々覚えてみんなに教えるからね」


 マークがアイリスに呟いた。

「俺達は要らないんじゃないか? ティナは一日中、あの教本を読みまくっているぞ。TJもびっくりだ。その内、特殊能力の教師になれるんじゃないのか?」

「本好きなのね、あの子。それも才能じゃないかな」


 そして、アイリスはミアに向かって言った。

「さて、ミアちゃん。守護神とトレーニングについてはこの二日ですっかり分かったと思うけど、果たして候補になってくれるかな?」


 ミアは日中の本業に支障が無いことと、これはこれで色々なトレーニングをやる訳だから、自分にとってもプラスになることがわかったので、断る理由が無くなった。一つ気になることを訊いた。


「守護神の仕事っていうのはトレーニングと同じように普通の人間世界の生活と両立できるんですか? それとも守護神に専念しないといけない?」


「もしそうしたければ両立はできるわよ。ガーディアンの仕事はしてもらうけど、人間世界の生活は好きにしていいわ」


「そうですか。じゃあ、やります」

「やったあ。これで三人契約成立!」


 アイリスはそう言うと今度は皆に聞こえるように声かけた。

「さて、みなさん。そろそろ下山しましょう。本格的なトレーニングは明日の夜から始めますよ。覚悟しておいてね」


 五人は帰りも青空の元、楽しく下山して行った。

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