第10話 千夏(ちなつ)➡ ティナ
――ようやく山小屋がある場所まで到着した。二人が休憩しているとアイリスが近寄ってきた。
「この少し先に先着の仲間がいるわよ。行きましょう」
少し歩くと小さな池があり、そこに小柄な女の子が座って画用紙に絵を描いているのが見える。その近くには背の高い男性が一人立っている。近寄るとアイリスが二人を紹介した。最初に女の子の方を差し示した。
「はい、こちらが三人目のガーディアン候補の千夏(ちなつ)さんです。そしてこちらの男性がマークと言います。彼はサポート役です」
それを聞いたミアが反応した。
「あれ? チーちゃんじゃない? 私ミアよ」
千夏はまだ小学生だが、ミアと同様にタレント活動やモデルをしている。活動拠点も同じ地域なので時々顔を合わせる間柄だった。
「えー、こんにちは。ミアもなの?」
「そうよ。びっくりした。ここまで登ってきたの?」
「うん。でもマークに結構助けてもらった」
千夏がマークをちらっと見ると、ミアもマークの方を向いた。
「初めまして。ミアと言います」
「マークです。よろしく。あなたなかなかのルックスですね」
そこでアイリスが釘を刺す。
「マーク、初対面で余計な事は言わないで」
「だって、美人じゃないか。きちんと言ってあげないと」
「いや、ほんとにあなたって、遠慮ないわね。大概にしなさいよ」
ミアがマークに感謝する。
「マークさん、千夏を手助けしてくれてありがとうございます」
「いえ、たいしたことはしていないですよ」
すると、千夏が言った。
「あのね、実はほとんどマークに肩車してもらったの」
「肩車?」
肩車で山登りとはマークもたいしたものである。千夏は小学生とはいえ、それなりの重さはある。
「すごい景色が良かったー もう最高」
ミアは千夏のような子供がもう一人のメンバーとは思ってもいなかった。
「アイリスさん、こんな子供も選ばれたんですか?」
「ミア。大丈夫、年齢はあまり関係ないの。体力や知力が無くても才能と努力で一人前のガーディアンになれるのよ」
一方ルカがマークに声を掛けていた。
「ルカです。マークさんってすごい体力なんですね」
「いや、それほどでもないよ。君も良く見るとなかなかの美男子じゃないか。俺ほどではないが」
少し気に障る言い方だが、根はいい人らしい。
「僕は体力が全然なくて」
「これからトレーニングするんだろ。体力なんてすぐつくよ」
「はい。そうだといいですけど」
アイリスがマークに言った。
「マーク、ミアちゃんの方は体力あるわよ。何せ消防士志望なんだから」
え? ルカは驚いた。女の子なのに消防士?
「ミアさん、そうなんですか?」
「え、ええ。まだ勉強中の身ですが」
少し恥ずかしそうにミアが答えた。
「それで体力づくりもされていると」
「はい。必要ですので」
「すごいですね。でももう働いてるって言ってましたよね?」
アイリスが補足する。
「ミアと千夏はタレント活動をしてるのよ。地方の事務所に所属しているの」
ルカはまたまた驚いた。
「タレント…… どうりで見た目はあか抜けていると思った。」
ルカが千夏の方を向く。
「千夏ちゃん、いや千夏さんもですか?」
「うん。やってるよ」
千夏も確かによく見ると子供ながらに顔立ちがしっかりしており、服のモデルなんかができそうである。
アイリスがみなに向かって言った。
「今晩は山小屋に泊まります。夕食まではまだ時間があるから、みんなゆっくりしてね。 後で今後のことについてたっぷり説明するからね」
五人は色々な話をしてすっかり打ち解け合った。千夏はみんなからティナと呼ばれるようになった。
アイリスはガーディアンについて詳細な説明をした。正式にガーディアンになると原則、常時エルシアで災害やフォルフ(害獣や魔物)から人々を守ることになる。一期通算千年間エルシアの守護神となるのである。
なお、エルシアではミッドガルドの時間進行とは百対一の割合で早く時間が進む。トレーニングのさらに十倍である。従って千年分の活動をしても、ミッドガルドの本体は十年程度しか年齢を重ねないということになる。
この間ガーディアンはトレーニング中とは違い、基本的にはミッドガルドの本体に戻らずにエルシアで活動を続けることになる。
一期千年分のガーディアン活動を無事勤め上げると、二期目を行ったり、ミッドガルドあるいはエルシアの住人になったり、WCA支部で委員としてゆっくり過ごしたりと選ぶことができる。さらに報酬ではないが寿命は半永久的になる。
すぐに日は暮れて山小屋の静かな夜が過ぎていった。満点の星が空を埋め尽くした。
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