第二章
第6話 WCAの愉快な面々
第二章 五千年振りの世界交代
――WCA、トイレ協会ではない。World Control Association、世界管理協会である。
地球(ミッドガルド)とその並行世界(エルシア)、さらには宇宙の数々の星の各世界を管理している上位組織である。ここに登場するWCA支部は銀河系の第五十六地域の担当であるが、対象となる星の数が多すぎて、実際は管理しきれていない。彼らWCAは時空を超えた存在だが、万能ではない。
彼らの定期委員会が始まる。この地域の常勤委員は五人しかいない。そこにはアイリスも含まれる。あまり真剣な雰囲気ではない。議長のヨギが口火を切った。見た目は普通の中年のおじさんである。
「はい、みなさん。第二千二十三回の委員会を始めます。今日の議題は、地球ですね。あの太陽系にある、きれいだけど少しややこしいやつ」
担当者のアイリスが口を挟む。
「議長、なんですかその言い方! 地球は神聖な星ですよ」
「ああ、アイリスさん。すまんね。君が担当だったね」
「ほんと失礼なんだから。言い方には気を付けてくださいよ、もう」
アイリスは頬を膨らませて愚痴った。
ヨギが手元の資料を見ながら話し始めた。
「えーと、今度五十世紀ぶりに政権交代? 世代交代?」
ヨギはメガネを外して文字を確認する。アイリスがしびれを切らした。
「世界交代です。管理する世界をエルシアからミッドガルドに切り替えるんです」
「そう、世界交代。ミッドガルドと言うと通常人類への管理変更だね。投入エネルギーの切り替えが必要なのね。それで今、そのミッドガルドはどういう状態なの?」
アイリスが不満をぶちまけ始めた。
「どうもこうもありません。ミッドガルドはまたもレッドワールドに成り果てました。WCAの直接管理外になって五千年経ちますが、荒れ果ててひどいものですよ。戦争、戦争、飢饉に感染症、ただでさえ天災の多い星なのに人類は進化するごとに、壊滅的な事をしでかすんです」
「管理を委託したエルシアのガーディアン達に問題があったかな?」
「そうです。これというのも、ガーディアン達のやり方が適当すぎるからです」
アイリスは余裕をかまして座っている委員の一人を指さした。見た目は格好いい男性である。背は高く、筋肉も程よくついており、知的な風貌でもある。
「ほら、そこでコーヒー飲んで余裕こいているお兄さん、あなた達のことよ、マーク!」
マークはエルシア出身のガーディアンで、数千年前には神々をリードしてミッドガルドを管理していたこともある。今はガーディアンを引退しWCAの委員として悠々と暮らしている。
「アイリス。あんまりな言い方だな。俺はもう引退してから3千年も経っているんだぞ。それに俺も後任のガーディアン達もミッドガルドの人間たちが自ら考え行動し、進化することをいつも見守り続けてきたんだ。いい監督だろうよ。その結果、見て見ろ、彼らは数々の至難を乗り越えて立派な科学技術を使えるようになったではないか。あんなのエルシアにも無いぞ。特殊能力も使えないサルのようなやつらがこんなに立派になるなんて、俺のお陰だな」
一息ついてから続ける。
「人口もいまや百億人だぞ、百億。俺よりも子作り上手だな」
アイリスはつかつかとマークの元に駆け寄り、腰に両手を添えて上から顔を突き出して反論した。
「あのねえ、これまでどんなに多くのミッドガルドの人間が、嘆き苦しみ、寿命を全うせずに死んでいったと思ってるの? あの虐殺とか粛清とかって何なの? あんたに似たような自分よがりの統治者たちがごまんと発生したせいよ」
「俺とは似ていない。俺はミッドガルドの人間にも慈悲深いと認められている。非道な人間達は俺も好かん。かなり懲らしめたんだがいくらでも湧いて出てくるんだよ、わかるだろ?」
「それをこまめに対処しないからこんなことになるのよ。今地球上が熱くなっちゃってたいへんなのは知っているでしょ。絶滅アラームは何回目なの?」
「五回目かな? その都度、歴史を修正して危機は無かったことにしてきただろう? たいへんだったんだからな、なあTJ」
マークはTJという委員の一人に振った。TJは歴史管理なども請け負っており、求めに応じてタイムリープや歴史改変、それによって生じる矛盾を解消したりしている。
「ああ、マーク。ミッドガルドには何度も手こずらせてもらったよ。いい迷惑だ」
アイリスがもう十分という感じでマークを睨んだ。
「いい加減にして頂戴。あなたのチームの手抜きが原因でしょうよ。まあ、ミッドガルドの人類は今度ようやくWCAの直接管理でブルーエネルギーも注入されるから、すぐにブルーワールドに戻れると思うけど」
ヨギがやれやれという感じで口を挟んだ。
「お二人さん、痴話げんかはそろそろお仕舞にしてもらっていいかな? 会議が進まん」
「何ですって? 痴話げんかなんかじゃないわよ。何言っているの?」
「ヨギ、そうですよ。僕は女性にはいつも優しいですよ」
「優しくない!」
「はいはい、それでもう一方のエルシアの方はどうかな?」
マークはコーヒーカップを置いた。
「はい。我が故郷エルシアはこの五千年間、WCAに直接管理していただいたこともありまして至って平和なブルーワールドを維持し続けましたよ」
アイリスが釘を刺した。
「議長、平和はもちろんいいんですが、エルシアの人達はあまりに平和慣れしてしまって、少々堕落気味になっています。特に成人男性にその傾向の者が多く見受けられます」
「ふむ。それは少し心配じゃな」
「今度エルシアは実質的にレッドワールドになりますので数々の災害が出始めます。
抑え込んでいたフォルフも出てくるでしょう。エルシアはこれがやっかいです」
マークがコーヒーを一口飲んでから発言する。
「エルシアの人はみな特殊能力が使えるから問題ないだろ」
既に自席に戻ったアイリスはマークをたしなめる。
「マーク、今の彼らの能力はかなり落ちているのよ、日頃鍛錬していないからね。そう五千年以上前の事覚えている? レッドワールドの頃は、あなたも含めてエルシアの民は特殊能力を持っていながらも散々苦労してたじゃない?」
「おう、思い出したよ。最後の方は結構たいへんだったな。ミッドガルドの神にもかなり助けられたよ。でも俺が一番活躍したかな?」
「それは勘違い。自信過剰なところいい加減直しなさいよ。とにかく、今度の切り替わりの初期は結構な混乱が予想されるわ」
ここで初めて口を出す者が居た。協会支部長のソフィアだ。ここのリーダーである。
「アイリスの言うとおり、今回の切り替えではよく注意する必要があるわ。大事なのは管理を委託するミッドガルドからの守護神のメンバーだけど、アイリス、スカウトの方は?」
「ソフィア、いや支部長。順調ですよ。すでに三人のスカウトに成功しました」
それを聞いていたマークが嫌味を言う。
「どうせそこらの適当な人間に声をかけただけだろ」
アイリスが大声で返す。
「何言っているの、そんなことありません! 厳正に適格者を選び――」
「アイリス! 動画は見ましたよ」ソフィアがチクリと言った。
「え、まさかソフィアがGチューブなんか見るんですか?」
「普段は見ないわよ。誰かがスカウトの面白い動画が出回っているって教えてくれたのよ」
「ああ、恥ずかしい」
「あなたも、マークの事が言えた柄ではないわ。いい加減にしなさいね」
「申し訳ありません」
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