[酷似]

「2ヶ月くらい前に単発のバイト先で知り合ったんだけど・・・・」


 マックシェイクを軽く飲みポテトに手を伸ばしながら彼女は横断歩道前でモメた末に立ち去った彼について話し出した。


「わりとすぐに仲良くなって付き合うことになってあちこち出掛けて普通だったんだけど、10日くらい前だったかな? 急に変わったんだよね」

「急? どんな風に?」


 早苗が前のめりに聞き返す。


「それまで1日置きペースでは会ってたんだけど急に忙しいとか言って1週間くらい会えなくなって、そしたらそのあと別人みたくなって現れたからビックリしちゃって」


(同じだ、たぶん・・・・アレだ)


 心の中で美鈴は頷いた。

 早苗がさらに聞き込む。


「別人って、もしかして顔がすごい変わったとか?」

「あ~うん、顔もシュッとした感じに変わったし、あと身長がすごい伸びたんだよね」

「え、身長が?」

「うん。元は170は無かったんだけど急に180くらいになってたからすごいビックリした」

「そんなに!?」

「うん。でももしかしてシークレットシューズ? とか思って冗談ぽく聞いたら違うって脱いで見せてくれたんだけど別に普通のスニーカーで。ほんとあれ意味がわかんなかった」


 身長コンプレックス──あの彼はそこを理想的にするオーダーをした?

 美鈴は人間の負の感情につけこむ狡猾なやり方にあらためて寒気を覚えた。


「それって・・・・実はさ──」


 早苗が一段と真剣な顔つきになり、そしてこれまで起きたこと──先生や英美の件──についてを話し出した。

 普通に聞けば荒唐無稽で鼻で笑われてもおかしくはない話なため、美鈴は内心(信じるかな・・・・)という懸念を感じながら向かいの席の彼女の様子を伺った。

 が、その反応は意外なものだった。


「へ~・・・・あるかもね」

「!?」


 すべてを一気に話した早苗自身が驚くような言葉が彼女から飛び出した。


「彼さ、デスメタルが好きでそればっか聴いてるんだよね。何か頭痛くなる感じのやつ」

「デスメタル? ロックの?」

「そう。でさ、部屋の中もそっち系のポスターとかフィギュアだらけで何か魔界みたくなってて。まあ個人の趣味だからそれは別にいいんだけど、あんなに悪魔っぽいのばっか集めてたらヤバいの引き寄せたり取り憑かれたりしないのかなぁ? とは何となく思ってたんだよね」

「そう・・・・なんだ」

「・・・・」


 美鈴と早苗は顔を見合せ目で頷き合った。

 確かにデスメタル=悪魔なイメージはある。

 かなり傾倒していたなら"本物"と接触するきっかけは少なからずあったのかもしれない。


「だから話聞いてて今、やっぱりそーなるよねー、とは思った。あんな急に身長が伸びるの変だもん。たぶんずっと身長コンプがあってそれで自分で呼び込んだんじゃないかなぁ。まあもう会わないからどーでもいいけどね」

「え、別れるの?」

「うん。だってさ、さっき見てたんでしょ? 横断歩道の向こう行けないみたいな。付き合ってらんないよ」

「それも身長が伸びて現れた時から始まったの? 景色が見えなくなるというか周りが狭くなるというか──」

「そうだね、あっちには行けないとか行けるのに急に戻るとか、訳わかんないしキモい。何かそういう追い詰め方するのっていかにも悪魔って感じ」


 追い詰める──その言葉が美鈴の中で妙に腑に落ちる感じがした。

 現実的な環境変化で追い詰め精神を壊し、その先は──


「死んじゃうよね、あれじゃ」


 目の前の彼女がいかにもドライに言い放った。


「死・・・・ぬかな、やっぱり」


 美鈴がおずおず聞き返す。

 

「だってどんどん周りの景色が欠けて見えなくなったら外歩けなくなるじゃん? 最後は自分だけのスペースってゆーか・・・・あ、そうだ、棺桶! あれに入ったみたくなるんじゃないの? フツーに死ぬでしょ」

「!!!」

「!!!」


 バッサリ切り捨てるような冷淡な言葉が美鈴と早苗を凍らせた。


(棺桶・・・・)


 一瞬、それに横たわる英美の姿が脳裏に浮かび、美鈴は払拭するかのように小刻みに頭を振った。

 それは早苗も同様だった。

 


 

 


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