[現象]

「せ、生体エネルギーって・・・・魂?」


 悪魔との契約=魂を取られる──そんなイメージが美鈴をおびえさせた。


「んー・・・・私も完全に理解は出来てないんだけど竹居さんが言うには魂自体じゃなくて『魂を包んで守ってるエネルギー』だとかで生きてる人間には必ずあるものなんだって」

「それってオーラのこと?」

「とは違うみたい」

「そうなんだ。何かよくわからないけど望みを叶える代わりにそれを抜かれるってことは最終的にどうなる・・・・ってそういえばその先生はどうなったの? 家からいなくなったあとタワマンに住んだんだよね? 顔も変えて願い叶ったんだよね? なのにそれから通り魔事件を起こして捕まったって、何でそんな──」

「えっと、ちょっと待ってYouTubeに出てるかな・・・・」

「?」


 ふいに早苗がスマホを操作し何やら動画を探し始めた。


「あった、これだ」

「何?」

「先生が捕まって移送車に乗せられる時のニュース映像。ちょっと聞いて」

「聞く?」


 何なのかわからないまま美鈴はスマホを受け取った。


「ここであんまり音量上げられないからスピーカーに耳当てて聞いてみて。先生が何か言ってるでしょ?」

「??」


 停止状態の動画の画面には顔を隠すことなく捜査員に腕を捕まれている姿が映っている。

 そうとうなイケメンだ。

 先に早苗に見せられていた画像の"元の顔"とのえらい違いに(英美と同じだ・・・・)と思いながら美鈴は動画を再生させた。


『何なんだここはっ、また狭くなってるじゃないかっ』


「え・・・・狭い?」

「ね? そう言ってるよね?」

「言ってる・・・・」

「外だし回りに何人もいるしちょっと離れた所にはマスコミも集まってるし、どこが何が狭いのか?って──」

「もう1回聞いていい?」

「うん、0.75にして聞くともっとよくわかるよ」


 言われて美鈴は再生速度を変えた。


 警察署の裏口らしき扉から出た途端、不審そうな目付きで周囲をキョロキョロし、『何なんだ──』と確かに言っている、というより驚いたような大声を放っている。

 ニュース冒頭で流れるこのシーンにはアナウンサーの声を被せていないため声は明瞭だ。

(狭くなってる・・・・狭く・・・・)

 美鈴はハッとした。

 脳裏に蘇る英美の母の声──


『──狭くなるんだもの、狭くなっていいって言うんだものぉー』


「これって昨日・・・・」

「え?」


 美鈴は英美の家を訪ね母親の様子がおかしくなったことやその後に家が燃えた話はしたが『狭くなる──』の言葉まではまだ早苗に言ってはいなかった。


「そっか・・・・やっぱり同じ現象が起きるんだ」

「同じ現象? その生体エネルギーを抜かれると、ってこと? それを抜かれると狭くなる・・・・って何が? 何が狭くなるの?」

「世界? 身の回り? とか・・・・それでパニクってだんだん精神が崩壊していくみたいになるらしい」

「身の回り・・・・狭くなる・・・・わからない、ぜんぜんイメージが沸かない。それに精神崩壊って・・・・じゃ、先生はそのせいで事件を起こしたってこと?」

「たぶんそうじゃないかって、竹居さんが」

「・・・・」


 非現実的かつ不条理。

 どこからどう消化したらいいのか見当もつかないほどの負の情報量の多さに美鈴は頭を抱えた。

 すると──


「あれっ? あの子じゃない?」


 ふいに早苗が店のガラスの向こうに目をやり言った。

 つられて美鈴が見るとその視線の先、道路を隔てた反対側の歩道に英美の姿があった。

 しかも一人ではなく数人の見知らぬ男たちに囲まれるように歩いている。


「どうする? 行く?」


 そう言って早苗が美鈴の判断を仰ぐ。


「うん、行く」

「わかった、行こう」


 二人は同時に席を立った。


 




 


 









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